経営再建中の液晶パネルメーカー、㈱ジャパンディスプレイ(JDI)は、台湾・中国の4社からなる企業連合から総額800億円の金融支援を受けることを正式発表した。これにより、台中連合の持株比率が49.8%に高まり、日本の官民ファンドである㈱INCJ(旧産業革新機構)は筆頭株主でなくなる。JDIは2019年3月期決算において5期連続の最終赤字が確実な情勢にあり、台中連合の傘下に入って業績改善を急ぐ。
最大800億円の資金支援
JDIを支援するのは、台湾タッチパネルメーカーのTPK(宸鴻光電)、中国ベースのプライベートエクイティ投資運用会社Harvest Tech Investment Management、台湾に拠点を置くプライベートエクイティファンドのCosgrove GlobalとTopnotch Corporate。4社は、①普通株式として420億円、②第2回新株予約権付社債で180億円、③第3回新株予約権付社債で200億円を拠出する予定。①②は年末までに払い込みが完了する予定で、③はJDIが資金需要に応じて発行の要否を判断する。
またJDIは、INCJから借り受けている1520億円についてリファイナンスを実施し、財務の安定性を確保する。これにより「実質的に銀行からの借り入れがなくなる」(執行役員財務・IR統括部長の菊岡稔氏)。さらに、台中連合から①②の払い込みが完了するまでに資金需要が生じた際、INCJからブリッジ・ローン(つなぎ融資)を受けることができる。
設備投資には320億円を充当
JDIは、調達予定の800億円について、運転資金に380億円、研究開発費用に92億円(蒸着有機EL開発に50億円、VR/センサー開発に42億円)、設備投資に320億円(蒸着有機EL量産化に100億円、車載量産化投資に120億円、新事業設備投資に100億円)、その他諸費用に8億円を充てる考え。
TPKとは既存の液晶ディスプレー事業で業務提携し、両社のサプライチェーンや技術、製品を補完してビジネス拡大を図る。Harvest Techとは蒸着有機ELの量産計画に関して提携し、有機EL量産工場を確保して事業成長と利益確保を目指す。
今夏から有機EL量産出荷へ
JDIは、蒸着有機ELに関して、茂原工場に第6世代ガラス基板を用いた小規模ラインを保有しており、これを活用して「今夏から量産を開始する」(代表取締役社長兼CEOの月﨑義幸氏)。主要顧客である米アップルのApple Watch向けなどに供給するとみられる。
ちなみに、JDIの蒸着有機EL技術は、先行する韓国サムスンと若干異なる。ガラス基板を水平搬送して横型で有機EL発光層を蒸着するサムスンに対し、JDIは縦型で蒸着するため同一面積における生産性が高い(ただし量産実績はまだない)。バックプレーンとなるLTPS(低温ポリシリコン液晶)技術の強みを生かし、先行メーカーと差別化を図る。
また、4社の支援を背景に、JDIは中国に蒸着有機ELの本格的な量産工場の建設を目指す。ただし、「バックプレーン工場から建てると、建設に少なくとも1年半~2年はかかる」(月﨑氏)見込みで、蒸着有機ELが本格的にJDIの業績に寄与するのは21年以降になりそうだ。
タッチ新技術のインテグレーションが焦点に
今回の出資を巡る動きのなかで、18年12月に中国のタッチパネルメーカー、オーフィルムテック(欧菲科技)がJDIと出資交渉していることを明らかにした。オーフィルムテックはTPKと資本提携している。
タッチパネル市場は、液晶のインセル化、有機ELのオンセル化によって、従来のアドオン型タッチパネルの需要が減少しており、TPKも銀ナノワイヤーを用いた新タッチ技術の実用化へ開発をシフト中だ。JDIはインセルタッチ技術Pixel Eyesを持つほか、18年12月にはLTPS技術を活用した静電容量式ガラス指紋センサーの量産化を発表済み。両社は今後、こうした技術の融合を図っていくとみられ、LTPS液晶と指紋センサー、銀ナノワイヤーの統合によるスマートフォンメーカーへの液晶供給の拡大、有機ELへの新型タッチ技術の実装などを実現していくとみられる。
国内工場再編で固定費削減へ
一方でJDIは、固定費のさらなる削減へ「国内工場の統廃合も視野に入れている」(月﨑氏)。現在、鳥取工場でアモルファスTFT(主に車載用)、白山工場と石川工場、茂原工場、東浦工場でLTPSを製造しているが、中国に蒸着有機ELの新工場を建設する場合、バックプレーンとなるLTPSも現地で製造することになるため、国内LTPS工場を再編する可能性が高い。
電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏