この記事の読みどころ

三井化学(4183)などの大手化学株の2015年パフォーマンスは想定外に良好でした。

夏以降、原油安・ナフサ安が急速に進行し、原料安効果をもたらしたのが要因です。

2016年前半にはこの原料安効果も剥げ落ちる可能性が高いと思われ、大手化学株の2016年前半の動きは要注意だと考えます。

原料安効果で予想以上に好業績だった汎用化学分野

2015年10月15日付の『エチレンとナフサの価格差から読み解く化学株の動き』で、三井化学、三菱ケミカルHD(4188)など大手化学株の動向を、エチレンと原料ナフサのスプレッド(価格差)の動きと重ね合わせて解説しました。

その当時の結論は、スプレッドが大幅に縮小し関連株の水準が高い水準を維持しているため、早晩、株価の調整が避けられないという内容でした。

その後に各社の2016年3月期上期決算が発表され、うち数社が通期業績予想の上方修正を行いました。石油化学の事業損益が急激な原料安の効果で、予想以上の好業績になりそうだというのが主な理由です。

悪化すると筆者が予想した石油化学などの汎用化学事業は、他のセグメントと比べても状況が良いという結果となりました。

関連株の動きも想定以上に堅調

ちなみに、2015年初から12月18日終値までの大手化学各社の騰落率を見てみると、三井化学+55%、住友化学(4005)+42%、三菱ケミカルHD+29%、旭化成(3407)▲29%、東ソー(4042)+7%と、前3社の株価パフォーマンスはTOPIXの同期間の騰落率+10%を大幅に上回りました。

旭化成は杭打ちデータ改ざん、東ソーは公募増資の発表で株価が軟調だったことを考慮すると、総じて株価は堅調だったと言えるでしょう。

エチレン価格堅調、ナフサ価格は想定以上に下落、結果は利幅改善に

エチレン(製品)とナフサ(原料)それぞれのトン当たりドル建て価格の差をスプレッドと言い、数値が大きい方が儲かっていることになります。

今年夏以降、急激に進行した原油安がナフサ安につながったことにより、収益はスプレッド拡大の恩恵を受けて堅調に推移しました。ナフサ価格が原油安に伴い大幅に下落する一方、エチレン価格は堅調な需要とプラントの定期修理などの理由で高い水準を維持できたことによるものです。

スプレッドと株価の関係は連動性が強い傾向

図表1は三井化学と三菱ケミカルホールディングスの株価およびエチレンとナフサのスプレッドの推移です。ここから読み取れるように、両社の株価とスプレッドの関係にはある程度の連動性があると筆者は考えています。

8月下旬にスプレッドが大幅に低下したため、筆者は両社の株価も調整が不可避と考えました。しかし、結果は両社の株価は10月以降、堅調な動きを示しました。原油市況の軟化が想定以上に進行してナフサ価格も同様に下落し、スプレッドが急回復したからです。

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出所:SPEEDAをもとに筆者作成。注:株価の最終終値は12月22日

2016年3月期Q4(2016年1-3月)以降のスプレッドは縮小に向かうであろう

では、いつまでスプレッドの改善が続くのでしょうか。原油安、ナフサ安が続くとエチレン価格も安くなり、スプレッドは徐々に縮小に向かうものと思われます。特に新興国経済の減速は長引く公算が大きいだけに、商品市況そのものにデフレ色が強まるものと考えます。

2016年3月期の決算発表が2016年1月下旬から相次ぎますが、大手化学の第3四半期(10~12月)業績は、原料安効果によりまだ堅調だと思われます。

しかし、第4四半期(1~3月)以降は、チャイニーズニューイヤーなど不需要期に入ることからスプレッドは縮小に向かうでしょう。2016年前半の大手化学株は要注意と考えます。

LIMO編集部