筆者がパソコンを使い始めたのは中学生の頃でした。当時は「E-mail」という言葉すら浸透しておらず、ホームページを作るにも一行ずつコードを打ち込んでいたのを覚えています。

それがいまや、SNSで瞬時に繋がり、スマートフォン一つで家計簿の記録や資産運用ツールの管理が完結する、実に便利な時代になりました。

しかし、ファイナンシャル・アドバイザーとして日々お金のご相談を承る中で感じるのは、これほど高度なツールが普及してもなお、「わが家の家計の実態を正しく把握できている人」は意外なほど少ないという現実です。

技術がどれほど進化しても、老後生活の土台となる「貯蓄」や「年金」の数値を冷静に見つめる重要性は変わりません。特にセカンドライフが本格化する70歳代において、現在の立ち位置を知ることは、生活の安全保障そのものです。

そこで今回は、70歳代の貯蓄額や年金額の平均値を紐解きながら、モデルケースを用いて「老後家計のリアルな収支」を具体的に見ていきます。便利なツールを使いこなす第一歩として、まずは「わが家の数字」の今を、一緒に確認していきましょう。

※記事内における金額などの各種データは、執筆時点の最新データです。

1. 【70歳代】二人以上世帯の平均貯蓄額・中央値はいくら?

J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査(2024年)」の「70歳代・二人以上世帯の金融資産保有額(金融資産を保有していない世帯を含む)」をグラフを交えて確認していきます。

※金融資産保有額には、預貯金以外に株式や投資信託、生命保険なども含まれます。また、日常的な出し入れ・引落しに備えている普通預金残高は含まれません。

「70歳代・二人以上世帯」の平均貯蓄額は1923万円ですが、この数字は一部の富裕層によって押し上げられており、実際の生活水準とは乖離している可能性があります。

より実態に近いとされる中央値は800万円であり、多くの世帯の貯蓄額がこの水準に集中していることがうかがえます。

世帯ごとの貯蓄額分布は以下のとおりです。

  • 金融資産非保有:20.8%
  • 100万円未満:5.4%
  • 100~200万円未満:4.9%
  • 200~300万円未満:3.4%
  • 300~400万円未満:3.7%
  • 400~500万円未満:2.3%
  • 500~700万円未満:4.9%
  • 700~1000万円未満:6.4%
  • 1000~1500万円未満:10.2%
  • 1500~2000万円未満:6.6%
  • 2000~3000万円未満:8.9%
  • 3000万円以上:19.0%
  • 無回答:3.5%

70歳代・二人以上世帯の中で最も多いのは、金融資産を保有していない「貯蓄0円」の世帯で、全体の20.8%を占めています。一方で、3000万円以上の貯蓄を持つ世帯も19.0%存在しており、世帯間の資産状況には大きな差があることがわかります。

その他の分布を見ると、100万円未満が5.4%、100~200万円未満が4.9%、200~300万円未満が3.4%と、貯蓄が少ない世帯も一定数存在します。一方で、1000~1500万円未満が10.2%、1500~2000万円未満が6.6%、2000~3000万円未満が8.9%と、まとまった資産を保有する世帯も見られます。

このように、貯蓄額は退職金や収入履歴、相続、健康状態などによって大きく異なり、公的年金の受給額も現役時代の加入状況により個人差があります。貯蓄が少ない世帯にとっては、年金収入だけで生活を維持するのが難しいケースもあるでしょう。

老後の安定には、世帯の状況に応じた生活設計が欠かせません。たとえば、健康なうちはパートなどで収入を得たり、不動産や投資による副収入を検討したりと、早めの準備が安心につながります。