皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで、チーフ・グローバル・ストラテジストを務めます柏原延行です。

今週の記事のポイントは以下の通りです。

  • 米中貿易問題を抱える中国経済の不安定化が、経済・市場のリスク要因のひとつであることは明らか。
  • そして、中国経済の抱える根底の問題としては、債務の大きさに対する懸念がある。中国民間債務の対GDP比は、200%超に達しており、これはわが国でバブルが崩壊した水準とほぼ同じである。
  • しかしながら、1月以降、中国は「レバレッジの縮小(債務の減少)」から「景気対策」に経済政策の軸足を移していると考えている。
  • 一党独裁体制である中国においては、各種政策が効果を発揮するまでのタイムラグが短い可能性があることに留意すべき。中国の製造業PMIは足もとで急反発しているが、景気、株価の判断のためには、今後1~2か月に発表される経済指標が極めて重要となると思われる。


現在の経済・市場環境において、中国経済の不安定化がリスク要因のひとつと考えられていることは皆さんがご承知の通りです。そして、不安定化するきっかけとして、米中貿易問題の悪化があることは明らかですが、経済の抱える根底の問題として、中国では債務の大きさに対する懸念があります。

この問題は、たとえば不動産価格の動向など、色々な側面があるのですが、マクロ的な観点での重要な問題は、民間債務の増加に表れていると考えます。ごく簡単にご説明すると、中国民間債務の対GDP比は200%超に達しており、これはわが国で約30年前にバブルが崩壊した水準とほぼ同じであり、この状況は投資家の共通した問題意識であると思われます。

日本のバブル崩壊を熱心に研究しているといわれる中国の政策立案者は、経済成長率を過度に減速させないことを意識しながらも、民間債務の増加防止を目的とする金融引き締め的な政策を選択していたと考えています。

このような状況の中で、 2018年後半には中国経済の失速が鮮明になり、わが国にも大きな影響を与えています。2019年2月28日公開の記事「大きく落ち込んでいる中国からの工作機械受注」では、中国からの工作機械の受注(2018年12月)は前年比マイナス56.4%と極めて大きな落ち込みを記録していることをご説明しました。

また、中国株に関するコラムの中では、その後の2019年1月の中国の新規人民元建て融資や社会融資総量は、いずれも過去最高となり、中国は「レバレッジの縮小(債務の減少)」から「景気対策」に経済政策の軸足を移していると考えていることもお伝えさせていただきました。

上記に加え、足もとでは①企業向け増値税減税、②地方政府による地方債発行枠の増額、③国有銀行による中小企業向け融資の目標設定など、政策総動員と呼んでも不自然ではない状況になってきたと考えます。

4月1日に発表されたばかりの日銀短観(3月調査)によれば、わが国の企業の景況感を示す業況判断DIは、大企業・製造業の「最近」で12ポイントと昨年12月調査比7ポイント低下し、2012年12月調査以来の悪化幅となりました。一方で、大企業・製造業の「最近」では、21ポイントと昨年12月調査比3ポイント悪化に留まり、製造業比水準は高く、悪化も小幅にとどまりました。

製造業が非製造業と比較して厳しい状況であることは、「中国などへの輸出減少が企業景況感の悪化要因であることを示す」と考えることが自然です。このような統計をみると中国経済について、不安が大きい状況は続いていると思われますが、上海総合指数(中国株)は、2019年は年初から足元まで2割超上昇しています。また、先々週にご紹介したように半導体の販売は不振な状況ですが、フィラデルフィア半導体株指数も(中国株と)同じ期間で2割超上昇しています(ご参照) 。

通常、経済対策が効果を発揮するためには、ある程度のタイムラグが必要であると思われますが、一党独裁体制である中国においては、意思決定が迅速に行えるため、各種政策が効果を発揮するまでのラグが短い可能性があることに留意すべきと考えます。

製造業の業況感を捉える景気指標である中国の製造業PMIは足もとで急反発しました(図表1)。私は、上記の中国株や半導体株指数の上昇は「中国経済の悪化局面が最悪期を過ぎたと判断できる可能性がある」ことを上昇要因のひとつとしていると考えています。この動きがいわゆる騙しであるのか、否かの判断するためには、今後1~2か月に発表される経済指標が極めて重要となりそうです。

図表1:中国 製造業PMI
2016年4月~2019年3月:月次

出所:ブルームバーグのデータを基にアセットマネジメントOneが作成

(2019年4月2日 9:30頃執筆)

【当資料で使用している指数についての留意事項】
上海総合指数は上海証券取引所が公表する指数です。

柏原 延行