皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで、チーフ・グローバル・ストラテジストを務めます柏原延行です。

今週の記事のポイントは以下の通りです。

  • 日銀は、国内経済に関して、「緩やかに拡大している」という判断を維持している。しかしながら、この表現には、「輸出・生産面に海外経済の減速の影響がみられるものの」との表現が付け加えられ、「輸出は、足もとでは弱めの動き」とされている。
  • 2月の貿易統計が発表されたため、輸出がどのような状況にあるかを整理する。地域別にみるとアジアが減速していることが分かる。そして、アジア向けの減少品目をみると、半導体等の電子部品が前年同月比1割以上減少していることが分かる。
  • 半導体は、IT技術の進化に伴い、かつてと比べて需要が持続的に拡大するスーパーサイクルが生じているという考え方もある。売上データが不振な中でも、株価が堅調に推移していることは注目に値すると考える。もし堅調な株価が将来の半導体売上げ回復のシグナルであれば、電子部品の輸出は回復が見込めると考えることが自然であると思われる。


日銀は、3月14~15日に開催した金融政策決定会合で、金融政策の据え置きを決定しました。そして、国内経済全体は「緩やかに拡大している」という判断を維持したものの、「輸出・生産面に海外経済の減速の影響がみられるものの」という表現が付け加えられ、「輸出は、足もとでは弱めの動き」としています。

この表現を素直に解釈すると、海外経済の減速の影響を受け、輸出、生産が鈍化していることが、経済成長のリスク要因になっているわけですから、特に、海外需要、及びこれに伴う輸出の動向に留意する必要があると思われます。

3月18日、財務省は平成31年2月分の貿易統計(速報)を発表しましたので、わが国の輸出の状況を整理してみましょう。

まず、貿易収支全体をみると、原油安などの影響もあり、輸出よりも輸入が(相対的に)大きく鈍化したため、+3,390億円と5ヵ月ぶりに貿易黒字となりました。

次に、2月の輸出金額は前年同月比▲1.2%のマイナスとなり、3か月連続のマイナスとなりました。1月の輸出金額は前年同月比▲8.4%と大きな減速を記録したため、1月との比較では改善しているものの、前年同月比でマイナスです(春節の影響を受けている可能性があります) 。地域別に見た場合、米国、欧州と比較して、アジア向けが弱いことが目立ちます(図表1ご参照)。

図表1:わが国の輸出(2月、速報値)

出所:財務省 平成31年2月分貿易統計(速報)から、アセットマネジメントOneが作成。


そして、マイナスかつ4ヵ月連続の減少になっているアジアについて、輸出の減少品目を確認すると、鉄鋼(前年同期比▲14.3%)、半導体等電子部品(同▲10.9%)などが2桁を超えるマイナスとなっています。

半導体はテクノロジー製品に不可欠の部品であるため、半導体の売上げはテクノロジーセクターの動向を表していると思われますが、半導体の販売額推移をみると下落トレンドであると思われる中(図表2) 、フィラデルフィア半導体株指数は底堅い動きを示しています(図表3)。

この株価の動きをどのように解釈すべきなのでしょう。

株価が間違っているという考え方もある一方、投資家が半導体事業について最悪期を過ぎたと判断し、販売額などの回復を株価が織り込んでいる可能性もあると思われます。 加えて、IT技術(例:ビッグデータ、AIなど)の発展に伴い、半導体の需要が趨勢的に伸びる時期であるという考え方(スーパーサイクルと呼ばれることがあります)が株価の回復を支えているという見方もあると思われます。

株価が、半導体の販売額など、いわゆるファンダメンタルに対して先行性を示しているのか、この先の動きに注目したいと考えます。もし堅調な株価が将来の半導体売上げ回復のシグナルであれば、電子部品の輸出は回復が見込めると考えることが自然であると思われます。

図表2:世界半導体販売額
2008年1月~2019年1月:月次

出所:データストリームのデータを基にアセットマネジメントOneが作成
*前年同月比、3ヶ月移動平均値

 

図表3:フィラデルフィア半導体株指数
2017年1月2日~2019年3月18日:日次

出所:ブルームバーグのデータを基にアセットマネジメントOneが作成


(2019年3月19日 9:30頃執筆)

柏原 延行