7倍は若年層のための目標
2018年11月にフィデリティの「退職準備の指標」を公表して以降、多くの方から「退職時に年収の7倍(年収倍率)を用意することは難しい」とのご指摘をいただきました。
確かに、たとえば退職直前に年収800万円の方の場合、5,600万円を、年収600万円の方なら4200万円を退職金以外に準備することになるため、「いまさら手遅れだ」と考える方もいるかもしれません。
ただ、この年収倍率7倍の持っている意味をより深く理解するためには、その前提条件も確認しておくべきです。そもそもこの「退職準備の指標」は20代、30代の方を意識して作成されています。そのため、以下の2点が前提として織り込まれています。
- 2014年の年金財政検証で、公的年金は2040年代前半をめどに現在の受給額よりも実質ベースで20%減額されることが示唆されたことから、今回の試算の前提として給付を20%削減している。
- 標準値として、退職しても現役時代と変わらない生活水準を前提としている。
退職直前の方なら4倍を目標にすることも
この2つは、それぞれ現在、退職目前となっている人にとっては再考の余地があるところです。
たとえば、公的年金の受給額が変わらない(20%削減を想定しない)とすると、その分、個人の資産からの引き出し額が少なくて済みますから、退職時までに用意する資産の年収倍率は7倍ではなく、5倍に下がります。
ちなみに、現在の水準でみると、退職後の年間必要生活費(=退職後年収)の6割程度を公的年金がカバーし、残り4割を自分の資産からの引き出しで対応するという計算になります。
一方、退職を直前にすれば、退職後の生活に対する現実的な目線も変わってくるかもしれません。退職後の生活水準を現役時代の80%に抑えることができれば、それだけで年収倍率は7倍から6倍に低下します。
これまで、このコラムでも何度か言及してきましたが、退職直前になれば、退職後に生活水準を下げずに生活“費”水準を2割程度下げることができるかどうか、現実感をもって検討することができるはずです。
2つの効果を同時に想定できれば年収倍率は7倍ではなく、4倍でも対応可能となります。たとえば年収600万円の方なら2400万円と1200万円の退職金を退職後の生活用に、年収800万円の方なら3200万円と1600万円の退職金を退職後の生活用として用意して、93歳までの生活の担保にするという目標設定になります。
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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史