4. 年金増額でも実質減額

公的年金は賃金や物価を考慮して年度ごとに見直しがおこなわれます。

2025年1月、厚生労働省は2025年度(令和7年度)の年金額を、前年度より1.9%引き上げることを公表しました。

3年連続のプラス改定にはなりましたが、「マクロ経済スライド(※)」によって物価上昇率を下回る改定率となっており、実質的には年金額は目減りしています。物価上昇に年金額が追い付けていないのです。

※マクロ調整スライドとは:「公的年金被保険者(年金保険料を払う現役世代の数)の変動」と「平均余命の伸び」に基づいて設定される「スライド調整率」を用いて、その分を賃金と物価の変動がプラスとなる場合に改定率から控除するしくみ

またシニアの多くは、下記の税や社会保険料を老齢年金からの天引きで納めています。

年金から天引きされる税や社会保険料が記載される「年金振込通知書」

年金から天引きされる税や社保が記載される「年金振込通知書」

出所:日本年金機構「年金振込通知書」

  • 介護保険料
  • 公的医療保険(国民健康保険・後期高齢者医療制度)の保険料
  • 個人住民税および森林環境税
  • 所得税および復興特別所得税

年金見込み額は「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で確認できますが、年金は「額面通りにはもらえない」点は意外な盲点かもしれません。

5. 年金支給日はいつなのか?

公的年金の支給日は「偶数月の15日」です。15日が土日・祝日の場合、支給日は直前の平日に前倒しされます。

【一覧表】2025年 年金支給日カレンダー

【一覧表】2025年の年金支給日カレンダー

出所:日本年金機構「年金はいつ支払われますか。」などをもとにLIMO編集部作成

年金支給日:支給対象月

  • 2025年4月15日(火) :2月・3月分
  • 2025年6月13日(金) :4月・5月分
  • 2025年8月15日(金) :6月・7月分
  • 2025年10月15日(水) :8月・9月分
  • 2025年12月15日(月) :10月・11月分

このように、前月までの2カ月分がまとめて支給されます。改定後の年金額が適用されるのは、6月に支給される「4月分」からとなります。これに合わせて先述の「年金振込通知書」が6月に届きます。

6. インフレリスクに向けて

今回の解説を通じて、日本の年金制度が「国民年金」と「厚生年金」の二階建て構造であり、現役時代の働き方によって老後の受給額に大きな差が出る現実をご理解いただけたでしょう。

特に、厚生年金の受給額には、男女間で顕著な差があり、個人の加入期間や報酬額が強く反映されていることが明らかになりました。

また、2025年度の年金額は名目上プラス改定されたものの、マクロ経済スライドや物価高の影響により、実質的な購買力は低下傾向にあり、年金だけで老後資金を賄うことの難しさが浮き彫りとなっています。

さらに、公的年金は額面通りではなく、介護保険料や住民税などが天引きされた後の金額が振り込まれる点も、老後資金計画における重要な盲点です。

「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で自身の年金見込み額を確認する際は、これらの「実質的な手取り額」を意識して、資産形成の計画を立てる必要があります。

長寿化が進む現代において、公的年金を基盤としつつも、iDeCoやつみたてNISAなどの私的年金や資産運用を積極的に活用し、自助努力で「3階部分」を築くことの重要性は増すばかりです。

老後を安心して暮らすために、まずは自身の年金について正しく把握し、将来を見据えた一歩を踏み出しましょう。

参考資料

石津 大希