景気動向指数が悪化し、基調判断も下方修正されましたが、久留米大学商学部の塚崎公義教授は、景気はまだ拡大中だろうと考えています。

経済指標は振れるから、一喜一憂しないことが重要

経済指標は、振れます。特殊要因がある場合もありますし、偶然今月は少なかった、という場合もありますが、そういう場合には翌月は結構多かったりします。景気が悪い場合には、悪い数字が並ぶのが普通ですから、数カ月分の数字を並べてみれば、統計の振れなのか景気が悪いのかがわかります。

そこで、景気予測をする「エコノミスト」は、単月の数字に一喜一憂するのではなく、数カ月分の経済指標をじっくり眺めるべきだ、という教育を受けて育ちます。

そうして育った筆者が見ると、今回は1月分の生産等が際立って悪いだけで、それ以前の生産等はそれほど悪くないので、統計の振れである可能性も高いと思われます。1月から突然景気が悪化したとは考えにくいからです。したがって、性急な判断を避け、2月分、3月分を見てから判断したいと考えています。

基調判断は、政府の景気に関する見解ではない

基調判断というのは、景気動向指数から機械的に出てくる判断です。政治家の恣意的な景気判断を避けるという意味では機械的な判断も意味はあるのですが、所詮は機械的な判断ですから総合的な判断にはかないません。そこで、政府の最終的な景気判断は、専門家が総合的に考察して決めることになっています。

景気動向指数の基調判断が持つ問題点としては、今回のように生産等が大きく減った月があると、景気が後退し始めた可能性が高いと判断してしまうことが挙げられますが、今ひとつには景気動向指数は生産・出荷関係の数字を重視したものとなっていることも問題です。

かつて、日本の主要産業が製造業であった時代から、最近では経済のサービス化が進んでいますから、サービス業関連の指標も含めて総合的に見る必要があるでしょう。

景気は理由なく方向を変えることはない

景気には慣性の法則が働きます。景気拡大期には生産が増え、生産のための雇用が増え、雇われた元失業者が給料をもらって物を買う、といった好循環が働くからです。

今次局面では、労働力不足で企業が省力化投資を増やすため、自動食器洗い機等が売れるようになる、といったことが起きていますし、今後も続くと期待されます。

そうした流れを断ち切るような原因があるのであれば、景気が後退し始める可能性はありますが、そうした原因は見えていません。少なくとも、国内には景気が後退を始める要因は見当たりません。

海外には、拙稿『日本経済のリスクシナリオを考えてみた。怖いのは中国か米国か?』に示したようなリスクがありますから、今後の日本の景気が海外要因で悪化していく可能性はありますが、それが1月時点で急に顕在化したと考える理由は特にありませんから、落ち着いて今後の統計を見守りたいと思います。

1月の生産・出荷が落ち込んだ主因は、輸出の落ち込みであろうと推測されますが、輸出は2月には前年並みとなっていますので、このまま生産・出荷が落ち込みを続けると考える必要はないでしょう。

したがって、2月分の生産・出荷は悪くない数字となり、これを重視して作られている景気動向指数も悪くない数字となると期待されます。3月分、4月分あたりまで見ないと何とも言えませんが。

製造業で失業が出ても他産業で雇われる