バブル崩壊後の長期低迷期、「景気が悪化して失業者が増えると、失業者が給料をもらえずに消費を減らすので、消費が落ち込んで景気が一層悪化する」という悪循環が日本経済を苦しめてきました。しかし、現在の状況はこれとは異なります。
仮に輸出が減少して製造業で失業が生じたとしても、失業者は容易に他の産業で雇ってもらえますから、引き続き給料がもらえるので消費額を減らす必要がありません。したがって、輸出減少といった景気への悪材料があったとしても、そのインパクトは従来よりも遥かに小さいと考えて良いでしょう。
拙稿『日本の景気があまり変動しない時代がやって来る』にあるように、少子高齢化で景気の波が小さくなりつつあることも、小さな悪材料なら景気が後退せずに済むという安心材料と言えるでしょう。
株価や為替への影響は大きいかも
中国の経済は、悪化している模様です。景気対策が講じられているので、遠からず回復するとは思われますが、それまでの間は日本の輸出が振るわないかもしれません。
その間、日本の経済指標が数カ月にわたって冴えない動きをするかもしれません。それが「景気の短期的かつ小幅な後退」と認定される可能性もありそうです。しかし、景気の悪化がさらなる景気の悪化をもたらす悪循環に陥ることがなければ、景気を見る上では、短期的かつ小幅な後退は気にする必要がありません。
船が傾いて浸水した場合、そのまま浸水が続くと転覆してしまい、元に戻すのに大変な労力がかかりますが、短時間の傾きで元に戻れば転覆せずに済みます。浸水したか否かより、そのまま転覆したか否かの方が重要なわけです。景気もそれと同じイメージだと言えるでしょう。
もっとも、そうなると株価や為替などの市場は、これを材料視して一時的に混乱するかもしれません。
筆者は景気を見ている「エコノミスト」ですから、一喜一憂しないように訓練されていますが、株式投資などを行う際には一喜一憂しないと相場に置いていかれかねないので、どっしり構えることは危険かも知れません。
読者の関心が景気そのものであれば、筆者と同じ視線で経済を見ていただければ良いでしょうが、株式投資の参考にするために景気の話を考えたい、ということであれば、マーケット・エコノミストの話も参考にすると良いでしょう。彼らは、市場に置いていかれないように一喜一憂することが仕事ですから。
本稿は、以上です。なお、本稿は厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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塚崎 公義