少子高齢化による労働力不足の時代を迎え、将来は景気があまり変動しない時代が来る、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は予想します。
海外の景気に影響されていた状況が変化しそう
バブル崩壊後の長期低迷期、日本経済は国内の需要が弱い分を外需に頼っていたので、米国ITバブル崩壊やリーマン・ショックといった外国からのショックに弱く、そのたびに景気が大きく落ち込んだものです。
しかし最近になり、状況が変化しつつあります。拙稿『なぜ「米国経済が減速しても日本の景気は大丈夫」なのか』では、円高になっても輸出数量が減りにくい経済体質になってきたこと、労働力不足なので輸出が減っても失業が増えず、「失業者が物を買わないからいっそう景気が悪化する」という悪循環が生じにくいこと、などを指摘しました。
本稿は、今少し長いタイムスパンで見て、少子高齢化によって景気の波が小さくなりつつあることに注目するものです。今後も少子高齢化による労働力不足が深刻化していくと、景気の波がさらに縮小し、「海外の景気が後退しても日本の景気は後退しにくい」ということになるかもしれません。
理由は大きく分けて二つです。「人々の所得が安定してくるため、消費も安定してくること」、「労働力不足なので、海外からの注文が減っても景気が悪化しにくいこと」です。
「景気の予想屋」を自称している筆者としては、仕事がなくなってしまうリスクがあるというわけですね。まあ、本当に景気の波が消えるのは筆者が引退した後のことでしょうから、心配していませんが(笑)。
所得が安定し、消費が安定する
少子高齢化ということは、引退して年金収入で暮らす高齢者が増えるということです。年金収入は景気の影響を受けませんし、高齢者が年金で不足する生活費等を貯蓄を取り崩して生活する分も、景気の影響は受けないでしょうから、高齢者の消費額は景気と無関係だと言えるでしょう。
消費に占める高齢者のウエイトが増えるということは、現役世代の所得に占める高齢者向けサービスのウエイトが増えるということです。医療や介護に従事する人が増えて、製造業等に従事する人が減れば、現役世代の所得も変動が小さくなり、現役世代の消費も変動が小さくなるはずです。
極端に言えば、若者の全員が高齢者の介護に従事している経済には、景気の波はありません。もちろん、あくまでもイメージを持っていただくための話ですが、少しずつそれに近づいていく、ということは言えそうです。
少子高齢化で労働力不足になる
少子高齢化は、二つの面から労働力不足をもたらします。一つは、現役世代の比率の低下です。消費をするのは全人口で少ししか減りませんが、生産をするのは現役世代で急激に減っていきます。そこで、少数の現役世代の作ったものを皆が奪い合うことになり、労働力不足となるのです。
今ひとつは、高齢者の消費は医療や介護といった労働集約的なものが多い、ということです。少子高齢化以前、若者が100万円の自動車を購入しても、全自動のロボットが自動車を生産するので必要労働力は増えませんでしたが、高齢化後に高齢者が100万円の医療・介護サービスを消費すると、大量の労働力が必要となるのです。
労働力不足だと景気が安定する
こうして少子高齢化により労働力不足となると、製造業で働く人が減り、自動車等も生産が減り、国内向けの出荷が精一杯で輸出できなくなるかもしれません。輸出したくてもできないのであれば、海外からの注文が増えても減っても日本経済には関係ないということになります。
そこまでいかなくても、輸出は減るでしょうから、海外の景気と国内の景気の関係は薄くなるでしょう。
加えて、仮に輸出が減って輸出企業の労働者が失業しても、労働力不足に悩む企業がすぐに雇ってくれるでしょうから、「景気が悪化して失業者が増え、失業者が物を買わないから物が売れずに景気がいっそう悪化した」といった悪循環が起きにくくなります。
これまでの日本経済は、内需が弱く、「海外の景気が悪化して輸出が減ると製造業の労働者が失業し、失業者が消費をしないのでいっそう景気が悪化する」という悪循環に悩んできたわけですが、状況が一変するのです。
究極的には、現役世代の全員が医療と介護を含む内需型産業に従事し、輸出がゼロになったとすれば、海外の景気の影響は全くなくなります。もちろん、そんなことにはならないでしょうが、方向としてはそちらに近づいていくわけですね。