本記事の3つのポイント

  •  カテーテル治療の普及に伴い、手術室に血管カテーテル造影X線撮影装置を設置したハイブリッド手術室が増えており、各社が最新機種を投入
  •  高齢化の進展で低侵襲で行えるカテーテル治療は増加の一途を辿っている
  •  GEらはハイブリッド手術室への新たな提案として、外科手術とカテーテルによるインターベンションのためのソリューションを販売開始

 

 これまで心臓領域におけるインターベンションは、狭心症や心筋梗塞の治療として冠動脈疾患を中心に発展してきた。今までは、外科治療でしか治療できなかった弁膜症を中心とした構造的心疾患(Structural Heart Disease、SHD)に対してのカテーテル治療が日本国内でも広く行われつつある。

 代表的な治療として、大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル大動脈弁留置術(Transcatheter Aortic Valve Implantation:TAVI)が国内では155施設(2019年2月現在)で実施されている。18年からは僧帽弁弁膜症疾患に対してのインターベンション(経皮的僧帽弁接合不全修復システム)が国内で始まった。海外では左心耳閉鎖術や三尖弁輪の弁膜症疾患の治療が先行して行われており、今後国内にも導入されていくことが予想されている。また、下肢を中心とする末梢血管に対するインターベンションも増加している。

東京慈恵会、2010年からハイブリッド手術室を初導入

 こうした治療は、手術室に血管カテーテル造影X線撮影装置を設置したハイブリッド手術室で行われるため、ハイブリッド手術室の設置が増えており、各社が最新機種を投入している。

 2010年に東京慈恵会医科大学附属病院がアンギオ(シーメンスヘルスケア製「Artis zeego」)を国内で初めて手術室に導入。11年には、国立循環器病研究センターが手術台とアンギオ(フィリップス製心・脳血管X線撮影システムAlluraXper FD20)を統合制御できる日本初(アジア太平洋地域初)のシステムを導入して、日本の病院のハイブリッド手術室の装備が開始された。

シーメンスの「Artis pheno」を導入

 さらに東京慈恵会医科大学附属病院は、17年2月に最新のハイブリッド手術室を開設した。同院は血管系、脳神経外科、心臓外科の医療に力を入れ、最初のハイブリッド手術室の導入以来、北海道から沖縄県に至る全国から、通常の医療機関では治療困難・治療不可能な循環器系疾患患者を受け入れてきた。17年2月当時、シーメンスヘルスケアの最新機種「Artis pheno」は国内初導入であり、他はドイツのハノーバー医科大学とフランクフルト大学に各1台が納入されているのみで、そのドイツの2台は血管撮影室に設置されており、手術室内に導入し術中に活用しているのは、日本の同院のみであった。同手術室は、脳神経外科、血管外科、心臓外科、整形外科などの科が利用している。

 「Artis pheno」は、Cアームの支持装置内にケーブル類を収めたことで、周辺機器との接触を抑えフレキシブルに駆動し、安全に手技を施行できる。また、床置式のため、天井走行式と異なりHEPAフィルターの設置に制限がなく、手術室内を清潔に保つことができる。

 なおシーメンスでは、17年3月現在、ハイブリッド手術室に「Artis zeego」を750台、それ以前の機種を含めると1000台以上を納入しており、日本でのシェアは5割を誇る。

高齢化の進展で心疾患の罹患率上昇

 同院の心臓外科教授、坂東興氏が行った17年3月の講演によると、心臓外科・循環器治療では、Heart Team Approach(複数の専門家からなる成熟したハートチームによる診断と治療)と、Minimally Invasive Approach(患者の負担を最小限にし、早期回復および早期の職場復帰を目指す低侵襲手術)が新たな流れとなっているとし、大動脈弁狭窄症(AS)に対する低侵襲手術(TAVR、小切開手術によるSuture-less AVR)を解説した。

 ASは、国内の65歳以上の罹患率が2~3%、米国では罹患率は最大7%と推定され、日本の65歳以上人口では88万人にのぼることになり、高齢化の進展でさらに増加する可能性がある。

 治療の動向では、大動脈弁置換術(AVR)施行と施行しない割合は、施行せずがおおむね4割で、単独大動脈弁手術の30日死亡率は2000~2009年まで3.3~1.9%のレンジに収まっている。症例数は2000年の3999件から09年の7511件まで一貫して増加している。当時、日本国内で使用可能な生体弁はエドワーズSAPIEN XT生体弁である。

 これに対し、新たな治療法の経カテーテル的大動脈弁置換術TAVR(TAVI)は、心臓を止めずに行うため人工心肺をまわす必要がなく、従来の手科的大動脈弁置換術に比べると低侵襲で、外科的大動脈弁置換術を行うにはリスクが高すぎる症例に対する選択肢となる。

 この治療法の施設認定を受ける慈恵医大では、心臓外科、循環器内科、血管外科、放射線科、麻酔科、リハビリテーション科、看護部、放射線部、臨床工学部によるHeart Teamを組織し、それまでに44回に及ぶ院内会議の実施、慶應義塾大学病院、榊原記念病院、京都大学附属病院での学外見学、症例登録、トレーニング受講2日間といった活動を展開した。

 さらに、AVRにSuture-less valves(無縫合弁)を組み合わせたMICS(低侵襲心臓手術)が、より負担が軽く、脳梗塞が少ないなど、より安全で短時間の手術を実現する。その後、18年に日本に入ってくる心房細動合併患者に対するハイブリッド手術を紹介し、Artis phenoは近未来の心臓外科、循環器内科が実施する低侵襲/ハイブリッド手術に大いに役立つ可能性を秘めていると展望した。

GEが新製品「Discovery IGS 7 OR」を発売

 GEヘルスケア・ジャパン㈱とゲティンゲグループ・ジャパン㈱は、ハイブリッド手術室への新たな提案として、ゲティンゲのカラム手術台システム「マグナス手術台」とGEの自走式X線血管撮影装置「Discovery IGS 7 OR」で構成される、外科手術とカテーテルによるインターベンションのためのソリューションを2月6日から販売開始した。

 GEでは、医療機関の主要な収入源である手術室の効率化は、多くの病院経営者が抱える課題の1つで、高齢化などで一層高まる低侵襲手術のニーズを受け、手術室にはより高い安全性、清潔性が求められていると考えている。また、手術の高度化・複雑化に応じた医療機器同士の干渉を避けたスムーズな手術遂行の必要性、複雑な機器操作による手術スタッフのストレス軽減なども求められている。ハイブリッド手術室では、用途が脳神経外科や脊椎外科などの領域にまで拡大しており、安全性の確保はもとより、多目的かつ効率的に使用でき、将来にわたって有効活用できる柔軟性を備えたハイブリッド手術室は医療機関に欠かせないものであるとしている。

 2社共同で開発し、販売を開始したソリューションは、低侵襲手術に対する需要の増大やハイブリッド手術室に求められるニーズに対応して、GEは高度なイメージング機能を提供し、ゲティンゲは手術室全体の最適なレイアウトやあるべき環境の提案を行う。両社のパートナーシップにより、心臓疾患・循環器疾患の手術を多く行う病院をはじめ、脳神経外科系や整形外科系の手術の増加を期待される病院を中心に、安全性、経済性、柔軟性を追求した次世代に求められるハイブリッド手術を提案する。

脳神経、脊椎、整形外科などへ活用幅が拡大

 Discovery IGS 7 ORは、自走式であるため、天井に設置されたHEPAフィルターからの垂直層流を確保し、術野を清潔に保つと同時に、手術スタッフが動きやすい動線や十分なスペースを創出する。さらに、これから起こりうる手術室の変化に柔軟に対応が可能である。マグナス手術台とのインテグレーションがさらに進化し、機器干渉リスクが低減し、スムーズで安全なワークフローを提供する。干渉防止機能付き高精細3Dイメージング機能が低侵襲治療を安全に緻密にサポートする。脳神経、脊椎、整形外科などにも活用の幅が広がり、ハイブリッド手術室の耐用性を強化し、稼働率向上にも寄与する。術中イメージガイダンス機能、ASSISTアプリケーションにより、被ばく線量、造影剤の低減が可能である。

 ゲティンゲは、スウェーデンのヨーテボリに本社を置き、支社は40カ国以上、販売は150カ国以上、従業員1万人以上。売上高は約3100憶円(220憶SEK)で、ゲティンゲグループ・ジャパン㈱は東京の本社のほか、日本国内に8支店を運営する。

 製品は、急性期治療分野ではICU関連各種装置・機器、心臓・肺・血管関連治療機器など、病院設備・手術室環境においては画像・情報システム、感染管理(洗浄器・滅菌器)、手術用照明器、シーリングサプライユニット、アンカリングシステム、X線透過手術台システム、麻酔器、モジュール式手術室などを扱っており、ハイブリッド手術室については国内で170施設以上の実績がある。

 今年からの戦略として、病院設備・手術室分野ではパートナーシップによりマーケットカバレッジを拡大するとして、GEをはじめシーメンス、キヤノン、フィリップスとパートナーシップを結んでいる。これにより、ハイ・マーケットセグメントが施設数500(病床数400床以上)、ミッド・マーケットが施設数2000(病床数200~400床)、ロー・マーケットセグメント施設数6000(病床数200床未満)の各マーケットセグメントを強化する。

 GEヘルスエア・ジャパンのインターベンショナル営業推進部の森孝広部長は、「イメージング機器側からサポート」できるGEと、「手術室全体のレイアウト、あるべき環境をコーディネート」できるゲティンゲの連携で提供できる「手術室のさらなる安全性と多用性」について説明した。

 森氏は、ハイブリッド手術室の最適化提案のステップ1となるスペースの検討として、10×8mの広さを確保し、中心となる手術台と血管X線撮影装置の配置など、3Dシミュレーションを用いてレイアウトを積み重ねていく。ステップ2では、複数のシーリングペンダント(医療ガス・電源サプライ設置)、手術用照明器、天吊式大型モニター、各種モニター、ラミナエアフロー(垂直層流空調設備といった天井吊機器の検討を行う。ステップ3では、3Dシミュレーションを使い、配置を終えた機器により効果的なワークフローを行う。

「Discovery IGS 7 OR」などの機器を設置した手術室イメージ

 GEのX線血管撮影装置「Discovery IGS 7 OR」は、ハイブリッド手術室のために開発した床自走式システムを搭載し、レーザーガイドと室内11カ所の反射パネルにより、ミリ単位での高精度位置制御が可能である。また、自走式としたことで、HEPAフィルター(手術室天井に設置した無盡・無菌の空気を送る装置)からのエアーフロースペース(垂直層流)の確保が容易となる。床自走式により、Cアームの挿入がよりシンプル(安全)にできることから、多用な手術にも対応が可能である。

 Cアームは、129cmのワイドボアを採用。また、挿管チューブやコード類の巻き込み防止を考慮した独自のオフセットCアーム、Cアーム・手術台・Skull Clampの完全同期が可能である。

 さらに、3D/CBCT撮影が手技の安全性を高め、可能性を広げる情報源となり、また、手術台をチルトした状態でもその撮影が可能なことから、多用性が広がる。こうしたことから森氏は、脳神経、脊椎、整形外科などでの活用幅が広がり、提案を強化していると話した。

フィリップスも「Azurion 7 C20 with FlexArm」投入

 フィリップスは、2月28日から「Azurion 7 C20 with FlexArm」の販売を開始した。同製品は従来のCアームに比べて多軸の可動域を持ち、構造的心疾患や末梢血管のインターベンション(カテーテル治療)など今後症例数が増加する手技に対して、必要な機能を備えている。

 「Azurion 7 C20 with FlexArm」に搭載する FlexArmは、多様化する症例を安全に施行するために8つの可動軸を搭載し優れた柔軟性を備えたCアームで、治療疾患ごとに合わせた様々な方向からアプローチでき、周辺機器を考慮した柔軟なレイアウトで使用可能である。術者、スタッフにとって快適な手技ポジションに合わせた柔軟なポジショニングにも対応でき、医療チームの動きに沿ってシステムが動作するため、患者テーブル周りのスペースを確保し、人間工学的に優れた姿勢や立ち位置で作業可能になる。操作はAxsys motion control systemにより、直感的な操作も可能にした。また、安全性もさらに向上しており、緊急時に迅速な処置スペースを確保し、テーブル移動による患者へのストレスおよび挿管のチューブやケーブル外れのリスクを軽減できるとしている。

電子デバイス産業新聞 大阪支局長 倉知良次

まとめにかえて

低侵襲の医療技術が広く求められるようになり、近年は医療機器の進歩が目覚ましいものがあります。しかし、これら最新の医療機器はGEやシーメンスといった海外企業の独壇場であり、日本国内の企業は存在感は希薄です。東芝から事業を取得したキヤノンや、内視鏡技術で世界トップクラスのオリンパスの奮起を期待したいところです。

電子デバイス産業新聞