私たちの給与からは、毎月税金や社会保険料が差し引かれます。そのため、実際に支給される給与は、額面から多少減額された金額です。なかでも厚生年金保険料は負担割合の大きなお金です。

この厚生年金保険料ですが「給与が増えていないにもかかわらず保険料が上がっていて、手取りが減っている」という経験をしたことがある人もいるのではないでしょうか。

なぜ給与が増えていないにもかかわらず、社会保険料が引き上げられ、手取りが減るのでしょうか。この記事では、厚生年金保険料の仕組みや手取りが減る要因を解説します。

1. なぜ給与が増えないのに厚生年金保険料が上がるの?

給与が増えないにもかかわらず厚生年金保険料が上がる要因は「手当」の金額が変わるためです。厚生年金保険料は、毎月の基本給で決まるわけではありません。通勤手当や時間外手当なども、保険料の算定基礎に含まれるのです。

たとえば、鉄道運賃の値上げにより、通勤手当も月あたり3000円増えたとします。この場合、厚生年金保険料は、手当の3000円も含めた総支給額をもとに計算します。

また、繁忙期で時間外労働が増え、1万円ほど収入が増えたとしましょう。この場合も、時間外手当の1万円を含めて、厚生年金保険料を計算します。

厚生年金保険料は、毎年4・5・6月の給与をもとに決定されるため、この期間に時間外労働が増えると、給与が増えていなくても厚生年金保険料が引き上げられ、手取りが減る可能性があるのです。

では、次章では厚生年金保険料が決まる仕組みを見ていきましょう。

2. 厚生年金保険料が決まる仕組み

厚生年金保険料は、毎月の報酬を一定額で区分した「標準報酬月額」をもとに決定されます。現在の標準報酬月額は、1等級(8万8000円)から32等級(65万円)までの32等級に分かれています。

標準報酬月額には、給与だけでなくさまざまなお金が含まれます。主なものは以下のとおりです。

  • 基本給
  • 時間外手当・深夜手当・休日手当
  • 役職手当
  • 家族手当
  • 住宅手当
  • 通勤手当
  • 宿舎費
  • 食事代の現物給与
    など

これらすべてを合計して「報酬」と扱い、保険料を計算していきます。

保険料額の計算式は、以下のとおりです。

  • 厚生年金保険料=標準報酬月額×保険料率18.3%

なお、厚生年金保険料は、事業主と労働者で折半して納めるお金です。そのため、実際に私たちが負担する金額は、標準報酬月額の9.15%になります。

次章では、保険料が見直されるタイミングを解説します。

3. 厚生年金保険料が見直されるタイミング

厚生年金保険料は、毎年9月に変更されます。これは「定時決定」という仕組みによるものです。

定時決定では、実際の報酬額と標準報酬月額に差が生じないよう、毎年1回標準報酬月額を決定し直します。流れは以下のとおりです。

  1. 7月1日現在で雇用している健康保険・厚生年金保険の被保険者の4・5・6月の報酬月額を事業主が届け出る。
  2. 届出内容にもとづき、厚生労働大臣が標準報酬月額を再決定する。決定した保険料は、その年の9月から翌年8月まで適用される。

つまり、毎年4〜6月の給料・手当が、その年の秋以降の手取りに影響します。9月分の保険料は10月の給与から差し引かれるのが一般的なため、人によっては10月から手取りが変動している可能性があるのです。

また、昇給などで賃金に大きな変動があった場合は「随時改定」により保険料が見直されます。随時改定では、変更後の報酬を初めて受けた月から4ヵ月目の標準報酬月額から改定されます。

たとえば、4月に支払われる給与に変動があった場合、保険料に反映されるのは7月からです。そのため、直近で昇給した人は、この秋から手取りが変動している可能性があります。

次章では、社会保障負担の課題と対策を解説します。

4. 増える社会保障負担…対策は?

日本は少子高齢化により年金・医療・介護の費用が増大しています。現役世代の社会保険料は、今後も増えていく可能性が高いでしょう。

こうした負担を強いられる状況に対し、政府は新たな動きを見せています。高市早苗内閣総理大臣は、自身の所信表明演説にて、社会保障制度における「国民会議」の設置をすると述べました。

この国民会議は、社会保障の給付・負担のあり方を見直すべく、与野党議員・有識者含めさまざまな人が参加し、議論を進めていく予定です。

議論の内容によっては、将来の厚生年金保険料率や標準報酬月額の仕組みなども変わる可能性があるでしょう。

とはいえ、社会保障改革には多くの時間を要します。私たち個人としても、iDeCoやNISAといった制度を活用しながら「手取り額で効率よくお金を増やす」ことで、年金以外の備えをつくっていくのが大切です。

とくにiDeCoは掛金が全額所得控除の対象となるため、実質的な手取り増を実現できます。

5. まとめ

給料が増えていなくても、手当の変動によって厚生年金保険料が変わることがあります。通勤手当や時間外手当の増額のほか、家族が増えたことによる家族手当の増加も、保険料の上昇要因となり得るのです。

今後の社会保障負担については、国が本格的に見直しに動く見込みです。国民会議の動きを注視しつつ、私たち個人としても資産形成などできることをして、将来に備えるとよいでしょう。

参考資料

石上 ユウキ