将来のために、子どもに勉強させたい。でも、「勉強しなさい」と言ってもまったく効果がない。やりたがらない子どもを、一体どうしたらやる気にさせられるのか?──これは、多くの親御さんが頭を悩ませている問題でしょう。
そこで今回、アプリを利用した学習塾を運営しながら「子どもが自主的に学ぶ仕組みづくり」を研究している、『5歳からはじめる 世界で羽ばたく計算力の伸ばし方』の著者・山内千佳さんに、子どもの自主性を伸ばす方法を教えてもらいました。
あの子はなぜ自主的に学習できるのか?
私はそろばんの魅力と可能性に取りつかれて、そろばん教室を始めました。しかし教室では、そろばんを通じて暗算力を身につけ、自信を獲得する子どもたちがいる一方で、伸び悩んだり挫折したりしてしまう子どもも多く見てきました。
「誰一人脱落させることなく、すべての子どもに楽しく効率的に暗算を習得させてあげられないか?」
そう思って子どもたちやお母さんたちと日々試行錯誤するうちに、私たちはアプリ学習という手段にたどり着き、教室の運営方法も変わっていきました。
「子どもが楽しく効率的に暗算を習得できるようにする」というミッションは、「自主的に学習に取り組める子どもを増やす」というミッションと、ほとんど同じことだと考えています。楽しいことには、子どもは自主的に取り組むものだからです。私たちはこれまで積み重ねてきた教室での経験から、子どもたちに自主的に学習に取り組んでもらうには、次の3つの方法が有効だと考えるようになりました。
1.目標の見える化
2.選択肢を与える
3.頑張ったことを評価する
その効果は歴然でした。これら3つの方法を、子どもたちがアプリで実際学習したデータと照合しながら取り入れたことで、暗算を習得した子どもの割合は4年間で1割から6割に大幅に改善されたのです(※)。では、これら3つの要素について、少し詳しく説明しましょう。
※ここでの「暗算習得」の基準は、独自に実施するグローバル暗算検定3級の2桁の数字8つ、または3桁の数字4つの足し算・引き算、3桁×1桁の掛け算、4桁÷1桁の割り算が暗算できるレベルです。
方法1:目標の見える化
目標があると、子どもは自主性を発揮します。そのとき、目標を視覚的にわかりやすく「見せてあげる」ことが大事です。
私たちのアプリの例でいうと、アプリ上の学習履歴画面には、まったく学習しなかった日はオバケのキャラクター、1ステージ学習すると「かーる君」というそろばんの珠の形をしたアプリのメインキャラクター、3ステージ以上学習するとレアな進化したキャラクターが表示されるようになっています。教室では先生がその画面を見せて、「がんばって、かーる君にしようね」と声をかけます。
ステージ数を数字ではなくキャラクターを表示しているのは、数字よりも視覚的にわかりやすく、ゴールを目指したくなるようにという工夫です。これはご家庭でも、グラフや表をつくり、学習量や達成率に応じて子どもの好きなシールを貼ってあげるなどすれば、簡単に実践できます。
目標を見せる方法は、グラフや表だけではありません。「子どもが憧れるような姿を見せてあげる」というのも、立派な方法です。たとえば、すらすら問題を解く上級生を見て「自分もああなりたい」と憧れることで、やる気になるという子がいます。ですから、私たちの教室でも、下級生の前で上級生に難しい問題を解かせてみせるということをよくします。
親御さんができることのひとつとしては、たとえば習い事にしろ、学習にしろ、「もっとできる子」と交流する機会をつくること。そこで子どもが憧れの対象を見つけてくれればラッキーです。強制するのではなく、子どもが自分から「目指したい」と思える目標を見つけるまで、目標になりそうな人をたくさん見せてあげることが大切です。
方法2:選択肢を与える
自主性を高めるには、選択肢を与えることも必要です。子どもによって興味や関心はそれぞれ違います。選択肢があることで、子どもはより興味がある方法を選び、目標に向けて進んでいくことができます。
たとえば私たちの教室の場合、アプリのなかに「アクアパーク」というゲームがあります。学習量に応じてエサを獲得できるのですが、プレーヤーはそのエサをすぐ魚にあげることもできるし、貯めておくこともできるようになっています。なぜこのようにしたかというと、「選べるようにしたら、子どもたちの取り組み方が変わったから」なのです。こまめにエサやりをする子、たくさん貯めてから一気にエサをあげる子、みんな好きなように遊びながら学習を進めるようになりました。
この「選択肢を与える」をご家庭で実行するとしたら、目標に到達するための方法をいくつか提示して、子どもに選ばせるということがひとつの方法でしょう。たとえば、漢字を覚えるために、漢字ドリルをやってもいいし、毎日日記を書いてもいいよ、というふうに……。
子どもは「自由」が大好きです。同じゴールに到達するにしても、いろいろな道筋をたどれるようにしてあげれば、興味を持ってくれる可能性はより高まります。
方法3:頑張ったことを評価する
最後に、子どもの努力に対して評価してあげることも、やはりとても大事です。子どもがなかなか学習に手をつけないので「やりなさい」とは言うけれども、学習した後にはとくにフィードバックしないというのでは、子どもにとっては張り合いがありません。
「褒めるのがいい」というのは、さんざん言われていることではありますが、その場合にも適切な褒め方があります。「今日はここまでできるようになったね」と成果を一緒に確認し、「こんなにできてすごいね!」と、子どもが頑張ったことをしっかり褒めてあげることには、やはり効果があります。
私たちの教室でも、授業の最初に子どもたちの1週間の自宅学習の成果を5分間褒め、授業中もできたことを褒め、さらに保護者の方々にも「今日はこれができたので、ここを褒めてあげてください」と伝えるなど、これでもかというくらいに褒めています。
たまに「私が褒めても喜ばない」というお母さんがいますが、照れくさくて反応しないだけということもあります。それでも効果がなさそうな場合は、お母さんがだめならお父さん、お父さんがだめなら保育園の先生など、「褒める人を変えてみる」のも一案です。
自分の経験に縛られず、目の前の子どもと向き合う
私たちが幼いころは、「やれ」と言われて半ば強制的に勉強をさせられてきたかもしれません。「自分自身も大して褒められることもなく勉強を乗り越えてきたのだから、いまの子どもたちは甘やかされている」と言う人もいます。
けれども、それは昭和の話です。平成が終わろうとしているいま、子どもたちは昔と同じではありません。モノにあふれていて、未来は約束されていない。子どもたちの未来に待ち受ける問題も、私たちが乗り越えてきた問題とは違う可能性が高いのです。
だからこそ、私たちは昔の常識や自分たちの経験に縛られるのではなく、目の前の子どもと向き合うことが何より大事です。子どもは一人ひとり違います。何に興味や関心を持つか、何でやる気を高めるのか。それを知ることができるのは、子どもをよく観察している親御さんだけです。子どもに強制するのではなく、「自由にさせておいても伸びるように環境を整える」ことが、親の役割なのではないでしょうか。
■ 山内千佳(やまうち・ちか)
株式会社Digika 代表取締役会長。神奈川県生まれ。東京女子大学文理学部数理学科卒業後、1989年日本興業銀行入行。1993年からCitibank東京支店にてデリバティブ商品のトレーディングと商品開発業務に従事する。2009年、株式会社Digika設立。2011年に珠算教室「かるトレ」開校、2014年ママスタッフとともに「そろタッチ」考案。2016年国内特許取得。2017年日本eラーニング大賞最優秀賞受賞。2019年1月現在、国内外に約50教室、生徒数約1300名。
山内氏の著書:
『5歳からはじめる 世界で羽ばたく計算力の伸ばし方』
山内 千佳