株式投資や投資信託、外貨投資など、資産運用の手段はさまざま。その中でも、安定的に収益を上げる方法として一定の注目を集めているのが、不動産投資だ。区分や戸建て、あるいは一棟アパート・マンションを購入し貸し出すことで、家賃収入を継続的に得ることが期待できる。

ただし、当然ながら誰もがうまくいくとは限らないのが、不動産投資の難しいところ。物件を取得しても、入居者が決まらないことには賃料収入は生まれない。客付けしにくい物件だと資産価値の上昇は見込めず、いざ売却する段階では買い手がつきにくいという悪循環に陥る。こういった事態を招かないよう、立地や周辺環境、建物の設備などに注意を払い、優良不動産を手にすることが成功の秘訣だ。

中でも特に注意すべきはどこなのか。それを「場所選びにつきます」と断言するのは、株式会社コスモスイニシアのソリューション事業部・投資運用商品課の山内崚汰(りょうた)氏。同社は分譲・投資用マンションの開発や販売、賃貸運営、売買仲介等を手掛けてきた不動産会社で、特に分譲マンション事業においてはこれまでに10万戸を超える供給実績を誇っている。山内氏に不動産投資における「場所=立地」の基本的な考え方を聞いた。

需要の高い場所選びがカギとなる

場所選びが重要だとして、具体的にはどういったエリアが良いのだろうか。一般的に東京都心のような大都市エリアは、空室が発生しても客付けにはあまり困らないが、不動産価格は高くなるので利回りは低くなりがちだ。他方、地方都市や郊外は取得費用を安く抑えることができるので、その分、満室の時の利回りは高くなる傾向があるが、いざ空室が生じると入居者探しに困る可能性がある。両者は一長一短だが、投資の観点ではどちらを選ぶべきなのか。山内氏は「都心に持つ方が優位性が高いと言えます」と答える。

「不動産投資で考えられるリスクとして、空室リスク・賃料下落リスク・値下がりリスクの3つが挙げられますが、有効な対策手段は『よい立地選び』。高い不動産需要が維持できる場所では3つのリスクを抑えられます。その代表ともいえる場所が東京都心です」

​不動産投資における「立地」について解説する山内氏

人口予測によると、これからの日本は少子高齢化の影響により、全国的には人口が減っていくとされている。ところが、国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、東京都は人口減少のペースが他と比べて緩やかで、特に都心3区(千代田区・港区・中央区)や都心5区(3区+渋谷区・新宿区)は、2015年から40年にかけて約20~40%の人口増加が予測されており、不動産需要は今後さらに高まることが期待されるのだ。

将来推計人口の推移(2015年を100とする)

海外からも注目が集まっている理由

東京の不動産は投資需要が見込めることもあり、諸外国から資金の流入も活発だ。中国人投資家が都心の物件を積極的に購入しているほか、世界最大の政府系ファンドであるノルウェー政府年金基金が2017年に初の対日不動産投資として都心部のビル5棟の所有権の7割を約930億円で取得し、今後も良い案件があれば年2000億円の投資が可能だと発表するなど、東京の不動産に注目が寄せられている。

「東京の不動産価格は、ニューヨークやロンドンに比べると低水準です。REIT(リート:不動産投資信託)の配当利回りと10年国債利回りとの利回り格差では、日本は約4%となっており、アメリカの1.3%やイギリスの3.0%と比べると高く、海外の資金が日本に流入する理由の1つになっています。また、街の清潔さ・安全性・食のレベルの高さや、羽田空港の全面国際化・リニア新幹線の開通など交通インフラ整備の効果により、観光のみならず海外企業の拠点進出なども進む可能性があり、そういった点も海外から評価されています」

人口および経済格差は東京と地方都市・郊外で二極化が進むことは明白で、どのエリアを選ぶかが不動産投資のカギだとすれば、東京都心部が有利であることには一定の説得力があるだろう。

東京五輪は成長の通過点にしか過ぎない

さらに、都心5区の物件は日本の中でもトップクラスの稼働率を誇り、J-REITが保有するような都心5区の優良不動産は、空室率1.00~0.90%という低水準を維持している。

2020年に開催予定の東京五輪が終わると、建設需要やインバウンド(海外からの訪日客)需要は縮小し、景気が低迷するという声も一部ではある。しかし、都心5区において、丸の内・大手町、八重洲・日本橋・京橋、渋谷、新宿・西新宿・歌舞伎町、品川・泉岳寺などで今後進む再開発の波は、とどまることを知らない。

「五輪開催でマーケットがシュリンクした都市はなく、たとえば北京はいまや世界有数の都市になっています。成熟した都市で実施する五輪として、東京五輪は2012年開催のロンドン五輪に近いといわれています。そのロンドンは、都市戦略研究所が発表している「世界の都市総合力ランキング」(GPCI=Global Power City Index)で、五輪開催によってニューヨークを抜いて1位に躍り出ました。その後もスコアを上げ、現在もニューヨークを引き離している状況です。またニッセイ基礎研究所の『基礎研レポート』によると、ロンドンでは、五輪開催翌年の不動産取引量が前年比+39%と、過去3年より高い増加率となっており、五輪は都市成長の通過点にしか過ぎないと言えます。必ずしも同じになるとは限りませんが、開発の状況から見て、東京も似たようなルートをたどる可能性があるといえます」

都心部の不動産が持つハードル

東京都心と地方都市・郊外のどちらを選ぶべきか。空室リスク・賃料下落リスク・値下がりリスクの観点から考えると、前者が有利であることは前述のとおりだ。都市が成長して人・モノ・カネが集まり続けると予測されていて、それらは不動産投資のリスクを抑える役割も果たす。

「もちろん、不動産投資を行う上で、全資産を東京都心に集中する必要はありません。札幌や名古屋・大阪・博多など有望なエリアもありますし、目の届く範囲内で投資したい地方在住者もいるはずです。その際に、リスク分散の一環として投資の一部を都心に投じる手があります」

とはいえ、ネックとなるのは都心における優良不動産の価格の高さだ。客付けに困らないオフィス・商業ビルの価格は億単位であるため、個人では到底手が出ない。そのため、一般的には大手不動産会社のほか保険会社、年金機構など、いわゆる機関投資家が大半を所有することになる。

「共同出資型不動産」のスキーム

コスモスイニシアでも、前述のように東京都心部の投資物件の優位性は認識しているが、個人顧客にとっては高額な不動産価格により、取得することに高いハードルがあるのも間違いない。これについては、あるスキームを活用することで、個人が都心の優良不動産を持つことが可能になったという。それが「共同出資型不動産」だ。

「これは、運用対象不動産を複数の投資家の皆さまで共同所有し、賃料収入を分配する投資運用商品のことです。億単位の不動産を一定の口数に分割して販売するので、投資のハードルが下がり、優良な物件を比較的手軽に手にすることが可能になると考えました」

たとえば、東京都渋谷区に今年1月に竣工した、『ラグラシア表参道』。表参道エリアと言えば都心の中でも指折りの一等地で、当然ながら一般的にはこうした物件の取得コストは膨大になるが、この物件は共同出資型不動産のスキームを活用し販売されている。募集総額26.5億円(消費税等込)の物件を募集総口数530口に分け、1口500万円、最低出資額1000万円の商品として、現在は出資者を募っているところだという。

共同出資型不動産のスキームを活用したラグラシア表参道

「当社では2017年から、『セレサージュ』という商品名で共同出資型不動産の販売を始めました。第1弾の代官山はすでに完売し、『ラグラシア表参道(商品名はセレサージュ表参道)』はプロジェクトの第2弾となります。投資運用商品なので元本・分配金は保証されませんが、満室稼働想定で予定表面利回り4.29%を見込んでいます」

優位性の高い東京都心エリアで不動産投資をしたいが、資金面で実現が叶わないといった悩みを解消するひとつのソリューションとして、こうした都心部での「共同出資型不動産」の動きは、今後も広がっていくかもしれない。

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