電子デバイス産業と一口に言うが、これは3つに分かれている。最大分野は半導体であり、2018年の世界生産額は52兆円を超えた。日系企業の生産額は約5兆円であり、残念ながらマーケットシェアは10%に満たないという有様だ。確かに東芝のNANDフラッシュメモリーやソニーのCMOSイメージセンサーなどは大活躍しているものの、巨大マーケットのシステムLSIおよびDRAMを持たないがために日系企業が飛躍的に伸びることはない。
次に大きい分野は電子部品であり、2018年の世界生産額は25兆円まできている。3番目はディスプレイであり、これは約15兆円の規模となっている。特筆すべきことは、電子部品分野においては日系企業が約40%のシェアを持っており、金額にして10兆円弱に達している。すなわち生産額5兆円のニッポン半導体に対し、その倍の規模になっているのだ。
ついに半導体の設備投資を超えた電子部品
電子部品業界でトップを行くのは日本電産であり、モーター分野で世界的な存在感を持っている。2番手は積層セラミックコンデンサーの世界チャンピオンである村田製作所、3番手が磁気製品とコンデンサーに強いTDKである。その後に京セラ、アルプス電気、太陽誘電がおり、コネクター分野では日本航空電子工業、ヒロセ電機などが続いている。アルミ電解コンデンサーで世界一の日本ケミコンなども注目される企業だ。
重要な点は、日本の電子部品メーカー30社の設備投資額が2018年度に1兆円を超えてきたことであり、また日本の半導体メーカー30社の投資額が9500億円にとどまることがほぼ確実となったことだ。ついにというか、初めてというか、何と電子部品の設備投資が半導体設備投資を上回ってしまったのだ。
次世代自動車を担う最大の存在も、懸念は中国経済
IoT時代を迎えて、電子部品メーカーの存在感はいやがうえにも増している。EV、ハイブリッド、燃料電池車などのエコカーへの移行、完全自動運転、コネクテッドカーなどの次世代自動車エレクトロニクスを担う最大の存在は実のところ電子部品産業である。こうした情勢下で、トヨタは20年4月から自社内にかかえていた電子部品事業をデンソーに移管する。
しかし最大手の日本電産が米中貿易摩擦の影響で、経験したことのない落ち込みともいうべき業績予想の下方修正を発表し、中国経済に強い懸念を示したことは記憶に新しい。2018年に至って、伸びに伸び続けた中国の自動車販売はマイナス成長になってしまったのだ。
医療分野へ続々参入する日本企業
電子部品メーカーはこうした中国の落ち込みも勘案し、かつ車載のみに傾斜することなく、医療分野への参入も強力に推進している。
ロームは中性子線のがん治療装置に中核部品を供給している。村田製作所は米国企業を買収し心臓センサーに参入、TDKも心臓向けの磁気センサーを開発している。アルプス電気は微細加工技術を使った医療検査用部品の開発に入っている。京セラは人工関節の米国レノビスを100億円で買収し、医療分野を大きな柱に育てるべく全力を挙げている。
もはやスマホ市場への依存は難しく、自動車分野だけでもダメと判断した電子部品各社は医療分野を徹底的に開拓する姿勢だ。電子デバイス業界にあって電子部品産業は今やニッポンのデバイスの最後の砦であり、世界シェア40%を持つ強みを生かして、今後もIoT対応の様々な展開を行っていくことになるだろう。
産業タイムズ社 社長 泉谷 渉