東京都渋谷区といえば、日本国内でも指折りの好立地。所狭しと、たくさんのオフィス・商業ビルが建ち並ぶエリアとして知られている。なかでも、表参道はファッションやグルメ、エステといったトレンドの情報発信地であり、国内のみならず近年では海外の観光客が多数訪れるスポットでもある。現在、表参道エリアの周辺では、原宿駅の大規模改良工事、渋谷駅再開発、新国立競技場の建設が進められていて、これらが完成するに連れて、同エリアはより発展していくだろう。
そんな表参道エリアの新築商業ビル「ラグラシア表参道」は、『セレサージュ表参道』という商品名も持つ。最寄りの表参道駅からは徒歩6分ほどの距離にあり、今年1月末に完成したばかりだが、地上4フロア、地下1フロアのテナントには大手コンビニエンスストアをはじめ、美容室や美容クリニックなどの入居がすでに決まっている。
一見、近隣の商業ビルと同じように見えるこの建物だが、実はちょっとした秘密がある。
所有者は複数の個人投資家だった
こういった商業ビルの一般的な所有者と言えば、大手不動産会社や保険会社、年金機構など、機関投資家をイメージするのではないだろうか。都心の、しかも一等地で新築となれば、価格は数十億円を下らない。個人投資家が所有することはかなり難しいと考えるのが妥当だ。
ところが、『セレサージュ表参道』では、個人投資家でも所有者となることができる。なぜなら所有権の共有持分を複数のオーナーで保有する商品だからだ。通常、不動産投資と言えば「1物件に対して1人のオーナー」が多いが、この物件は違う。
「これは、〈共同出資型不動産〉と呼ばれる、いわゆる不動産の小口化のスキームを活用した投資運用商品です。『セレサージュ表参道』の場合、募集総額26.5億円(消費税等込)の物件を530口に分けて販売しています」と話すのは、分譲・投資用マンションの開発や売買仲介を手掛けてきた、株式会社コスモスイニシアのソリューション事業部投資運用商品課の山内崚汰(やまうち・りょうた)氏だ。
バブル期の反省から国が事業者を厳格化
そもそも〈共同出資型不動産〉という言葉自体、聞きなれない方も多いだろう。これは、1995年に投資家保護を目的に施行された「不動産特定共同事業法」に基づいた商品だそうで、事業を営むには国土交通大臣または都道府県知事の許可を受ける必要があるなど、厳しい要件をクリアしないといけない。バブル期にも同じようなスキームの投資運用商品はあったが、バブル崩壊とともに損失を被る投資家が続出したことから、同法により運営事業者への許可を厳格化したという経緯がある。
コスモスイニシアでは、共同出資型不動産をスキームとした商品として2017年より「SELESAGE(セレサージュ)」というシリーズの販売を開始。第1弾の『セレサージュ代官山』はすでに完売し、今回の『セレサージュ表参道』は同シリーズの第2弾として、現在は出資者を募っているところだという。
「現在は、私どもを含めて〈共同出資型不動産〉に取り組む事業者は増えています。背景には、中古を含めた不動産の流通を高めたいという国の思惑があり、今回当社が販売する『セレサージュ表参道』は都心の新築建物ですが、他社の同スキームの商品には、都心や地方のリノベーションされた中古のオフィスビル・ホテルであったり、空き家を活用するケースもあります。いずれにしても、一棟不動産を小口化することで、比較的少額で投資することが可能です」(山内氏、以下同)
小口化による個人投資家のメリット
では、共同出資型不動産のメリットはどんなところにあるのか? 「セレサージュ」シリーズを例にとると、システムは以下のような形だ。
(1)デベロッパーが投資用不動産を取得
デベロッパーが同事業にふさわしい投資用不動産を選んで商品化。
(2)不動産の共有持分を購入
デベロッパーが取得した不動産の所有権の共有持分を投資家が購入。
(3)投資家全員で任意組合を組成し共有持分を現物出資
共有持分を出資して投資家とデベロッパーで任意組合を組成(民法第667条第1項の出資に基づく組合契約)。
(4)理事長による不動産の一体的な管理・運営
不動産の賃貸運営および物件管理は、任意組合の理事長となるデベロッパーと関連の管理会社が履行。投資家に手間はかからない。
(5)年2回、配当を実施
賃料などの収入から公租公課、管理費用、理事長の業務報酬などの経費を差し引き、1年に2回、投資家に収益として分配金を支払う。1年に1回、財産管理報告書も交付される。
(6)不動産を一括売却
一定期間経過後に不動産を一括売却。出資持分の割合に応じて売却代金が分配される。
一連のスキームから見たメリットは、投資家はいったん出資さえすれば、あとは理事長であるコスモスイニシアに運営・管理を一任できるという点。同社のファミリー向けマンションの供給実績は10万戸以上で、一棟収益不動産販売(2014年度~17年度)においても、販売棟数44棟・売上は計約331億円(税抜)に及ぶ。そうした実績を持つ会社が賃貸運営・建物管理・大規模修繕工事までサポートするため、投資家は手間がかからない。収益の源泉となるテナント付けも行うが、山内氏いわく「入居審査は業界トップクラスの厳しさと言われるレベルに設定しています」とのこと。
「マンションの区分所有であれば、賃借人が退去すると床やクロスの張り替え、次の入居者募集など、何かとオーナーにも手間が生じますが、そういったことを投資家のみなさまが行う必要はありません。また、区分マンションを1人で1戸所有の場合は、入居者が出ていくと家賃収入がゼロになりますが、共同出資型不動産だと1テナントがたとえ空室となっても他のテナントからの収入があるため、共有持分に応じて分配金が支払われ、収入がゼロになる可能性は低くなります」
もちろん、一般的な不動産投資と同じく、元本・分配金が保証されるものではないが、『セレサージュ表参道』は、満室稼働想定で予定表面利回り4.29%を見込んでいるという。
「定期的に分配金が支払われるという点で、共同出資型不動産はREIT(リート:不動産投資信託)に似ているとも言えるでしょう。ですが、REITは有価証券なので不動産の「所有権」は得られません。対して共同出資型不動産は所有権がありますから、これも投資家さまに評価いただいている点だと思います」
口数単位での売却もできる
また、共同出資型不動産は、共有持分を口数単位で購入するので、運用中に同様の形で売却することも可能だ。「仮に10口をお持ちで、そのうちの4口だけ売却したいといったニーズにも対応しています。理事長の承認を経て、本組合の出資持分を譲渡しますが、購入希望者を見つけるため、本組合内や他の組合の投資家さま、当社の他のお客さまへご紹介し、売却をお手伝いします」という。
一方で、投資家にとってハードルもある。『セレサージュ表参道』の場合、申込単位は1口500万円で、かつ最低出資金額は2口1000万円以上と決められている。さらに、任意組合を組成することから、「本物件を担保に金融機関から融資を受ける」ということはできず、基本的にキャッシュで買う必要がある。
本来であれば個人が持ちにくい都心の一棟不動産を小口化した〈共同出資型不動産〉というスキーム。国の政策的な後押しもあって、個人投資家数がじわじわと高まっているといわれる中、古くて新しいこの手法が、このあとも広がりを見せるかもしれない。
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