中国の不動産市場は、供給過剰が長年懸念されているが、ここ数年間、その他オンショアのオルタナティブ投資商品と比べ、よく持ちこたえてきた。しかしながら、最近になって、不動産市場にはやや循環的な息切れの兆しが見えている。
最近のニュースの見出しをいくつか挙げると、需要を示す指標として使われることが多い床面積別売上高が10月初旬の国慶節(建国記念日)の祝日に対前年比で27%下落した(出所:不動産調査会社CRIC)。また、一部の不動産開発業者は、乗用車を無料で提供したり、頭金を不動産価格のわずか10%に抑えたりするなど、住宅購入者の気を引くために販売促進を活発化している。販売価格を30%引き下げる不動産開発業者さえ出てきた。
不動産投資が減速しており、不動産開発業者は数々の入札不調に見舞われているが、これは2017年にはほとんど聞かれなかった話だ。1-11月期中に土地の入札不調件数は大幅に増加し、不調率は近年のピークである6.9%に達している。
こうした向かい風が吹いているものの、ティア1都市(北京や上海など主要大都市)の不動産価格は比較的安定して推移するだろう。中国人にとって代替となる投資選択がないこと、また数百万人の近郊住民を都市住人に転換する都市化計画が進行していることがその理由である。また、直近の一連の支援策で、国家発展改革委員会は12月12日、トップランクの不動産開発業者によるオンショア債券の発行を奨励すると表明した。
不動産市場の景気全体への影響を勘案し、政策当局は不動産価格の急激な調整を回避するための対策を講じると思われる。中国の主な居住用不動産価値は国内総生産(GDP)の13%に相当する。また、不動産市場全体が経済産出量に直接寄与する割合は16%に上り、白物家電、鉄鋼、セメントなどの関連市場を含めるとおそらく25%近くになるだろう。
不動産価格の上昇率低下は、政府による銀行融資の抑制、また米中貿易摩擦の消費者信頼感への悪影響を示すものだろう。一方、明るい材料としては、10月の主要70都市の平均住宅価格は前年同期比+9.7%と上昇し、9月の+8.9%を上回り、2017年5月以来最も高い伸び率となった。但し、10月のティア1都市の平均販売価格の伸びは、対前年比+1.2%と小幅高で、9月の+1.1%、8月の+0.9%からわずかな上昇にとどまっている(図表1参照)。最近の指標は、不動産価格全体はなお持ちこたえているが、住宅価格と販売数量に対する下押し圧力が強まっていることを示している。政策当局にとって肝心なことは、住宅市場の値ごろ感を維持し、景気の足を大きく引っ張らずに住宅価格を制御することと思われる。
資金調達コストの上昇
2018年は、不動産開発業者にとり資金調達環境は総じて厳しかった。オンショアの公募債市場の動きは低迷を続けている。その間、オンショアの銀行は、全般的に不動産開発業者への貸付を抑制しつつ、中小よりも大手の不動産開発業者を信用供与の対象にするという保守的なアプローチを取っている。
不動産開発業者全般、とりわけ中小企業の資金調達状況は悪化している。2018年は、流動性を支えるために、信託による不動産開発業者への融資が増加した。流動性のひっ迫が長引く間、不動産開発業者の主な資金調達先となった信託ローンの1年物利回りは、11月に10-11%近辺へと上昇した(前年の同時期は8-9%)。一方、不動産セクターの純有利子負債比率は2017年末の88%から2018年末は97%に達する見込みだが、現金保有残高も前年同期の5,510億人民元から6,240億人民元へと増加している。大半の不動産開発業者は、住宅価格下落の影響が出始める2019年からの逆風に備えて、手元資金を蓄積していると当社は見ている。
一方で、オフショア債の販売は承認プロセスが緩和されてきているが、不動産開発業者は海外投資家から新たな資本を調達するために、以前より高いコストを支払わざるを得なくなっている。当社の試算によれば、2018年は米ドル、ユーロ、日本円の三大通貨市場での発行総額は全般的に低調であったが、中国の不動産開発業者によるオフショアでの起債額は、過去最高となった2017年の420億米ドルを上回っている。
例えば、11月にある大手不動産開発業者が3本のトランシェを通じて、表面利率が11%から13.75%、期間が2年から5年の米ドル建債券を28億米ドル発行した。同じ企業が、2017年6月に発行した時の条件は、表面利率は6.25%から8.75%、期間は4年から8年であった。当社の推測では、不動産開発業者の債券残高全体に占めるオフショア債の割合は2017年6月末の34%から約36%に上昇した。これは新たな資本を取り込む発行体の意欲を示すものと言える。
リファイナンス・リスクは管理可能
2019年に向けて最近、オンショア債発行に対する規制当局の承認が増加し始めたため、資金調達環境は上向くことが見込まれる。オンショア市場では私募債とミディアム・ターム・ノート(MTN)を通じて資金調達が行われている。
リファイナンス・ニーズのある財務健全性の高い不動産開発業者に対しては、引き続きオンショアとオフショア市場のどちらも資金調達の道が開かれると当社はみている。一方、一部の中小の不動産開発業者は、今後12ヶ月にわたり、限られた資金調達先と売上げ低迷の可能性から、高いリファイナンス・コストを支払わなければならないだろう。なお、2019年は不動産開発業者が発行する社債の返済額が545億米ドルに達し、2020年には736億米ドルとピークを迎える見込みである(図表3参照)。
当社では、政府による政策の微調整と割高感のないバリュエーションを背景に、不動産セクターは全般的に改善方向にあると見ている。市場は減速感の出ている不動産セクターをめぐる悪材料に過剰に反応している。不動産投資という点では、2018年は需要が二桁の伸びから鈍化し、取引高は減少している。ただし、市場はこうした事実を十分に認識しており、すでに現在の株価に織り込み済みである。このため、当社は、緩和策の機運がみられる中、優良な不動産開発業者を選好している。