典型的な「NIMBY」の南青山の児童相談所問題

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東京都港区の一等地として知られる南青山。そこに、子ども家庭支援センター・児童相談所・母子生活支援施設が一体となった「港区子ども家庭総合支援センター(仮称)」を建てることについて一部の住民が猛反発しています。

具体的には、12月14・15日に行われた住民向けの説明会の様子が各メディアで報道されたのをきっかけに、それに対して大きな批判が集まっています。この間の動きを簡単にまとめてみました。

「貧乏人は青山に住むな」?

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同センターは、2021年4月に、東京メトロ表参道駅からほど近い、約3200平方メートルの土地での開設が予定されています。しかし、2018年10月に行われた施設開設の区民説明会にて、参加住民から「南青山にふさわしくない」と反対意見が相次ぎました。

そのため、12月14・15日にあらためて区民説明会が開かれ、賛成意見もある一方で、

「ランチ単価が1600円のところで、なぜ親が子どもを施設に連れてくるのか」
「青山のブランドイメージを守ってほしい」
「土地の価格が下がってしまう」
「南青山は自分で稼いで住むべき土地」

といった意見が噴出し、港区側と反対住民側との溝は埋まりませんでした。

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反対住民に非難轟々

こうした意見に対し、ネットでは

「こうやって反論している人のほうがむしろ青山の価値を下げてる」
「反対してる人たちは行政福祉サービスは不要ってこと?」

と批判の声が上がっているほか、「#南青山に建てたい施設」というハッシュタグをつけた、反対意見を揶揄する投稿も多くあります。「南青山に建てると、児童相談所(児相)建設に反対している人たちが怒りそうな施設」として、ドン・キホーテや大江戸温泉物語、スシローなど、安さや庶民的な感覚を売りにしたチェーン店が挙げられるなど、これはこれでちょっとした大喜利状態となっています。

政治や芸能界からも相次ぐコメント

こうした動きに、東京都議会議員のおときた駿氏は「『(今は困っていない自分自身も含めて)誰もが福祉の対象になる可能性があるのだ』という現実が、すっかり抜け落ちてしまっているように感じられてなりません」と反対意見が相次ぐことを嘆く記事を書いています。加えて、前東京都知事である舛添要一氏も、反対意見を「成金趣味」と一蹴し、反対住民を批判しています。

テレビ関連では、ダウンタウンの松本人志氏は自身の番組で「南青山に本当にブランドがあるんだとすれば、ブランドって世間さまに上げてもらうもので、(今回の件については)結局、自分たちで下げちゃうのがブランドなんでしょうね」とコメント。ビートたけし氏も同じく自身の番組で当該施設に入所することになる子どもを念頭に「入る人は嫌な気持ちになるね。反対があって、近隣の住民は怒ってんだとか思ったら、かわいそう」とコメントしています。

また社会学者の古市憲寿氏はワイドショーで「児童相談所って、貧しい人のための施設ではなく、別に豊かな人でも子どもに関して相談することもあるでしょうし、虐待は豊かな人にもあると思う。イメージが誤解されてる」と話し、ブランドの話については「南青山と言っても、世界で見たら、たいしたことない」「そんなブランド価値あるかなって思うんですけどね」とコメントしています。ほかにも、芸能人からコメンテーター、学者、教育評論家など、さまざまな人たちがこの問題に対して発言しています。

似たような事例は他地域でも……

特に最近、こうした児童相談所や保育園などの児童福祉関係施設の開設に地域住民が反対するケースがしばしば見られます。

2016年には千葉県市川市で、地域住民の反対により私立認可保育園の建設が断念されたほか、大阪市でもタワーマンション内に設置が検討された児童相談所の計画が頓挫しています。

また、2018年にも東京都武蔵野市で、2019年4月開園予定の保育園が近隣住民の反対で開園延期となるなど、児童福祉関係施設に対して地域住民の理解が得られづらい状況は続いています。

「NIMBY的問題」は解決に向かうのか

「自分の家の価値が下がる」という反対住民の意見については、一見、もっともらしく切実な意見ともとれますが、専門家である不動産鑑定士が何人も「これまで付近に児童相談所ができたことで不動産価値が下がった例はない」とブログやSNSなどで発信しているなど、強い根拠のある意見とは言いがたいようです。

児童福祉関係施設の設置反対に見られる「施設の必要性は認めるが、自分の家の近くにはつくらないでほしい」という考えは、「NIMBY(ニンビー:Not In My Backyard)」と呼ばれています。南青山の件での「ほかの場所ならまだしも、なぜ青山に児相を作らなくてはならないのか」という発言などは、典型的なNIMBYであるといえます。

しかしながら、これは「自分は負担を負いたくないので、代わりに別の誰かに犠牲になってもらう」という考えであり、人が集まって暮らしている社会としては受け入れがたいものです。そもそも、自身が行政サービスを受けているにもかかわらず、自分には関係ないと感じたサービスについては拒否するというのはちょっと都合のよすぎる考え方だとも言えるでしょう。

調査と現実の不一致

児童福祉関係施設に関するNIMBYへの批判的な意見は、今回の件においても多く見られるほか、「青山に住んでいる知り合いはみんな児相建設に賛成している」といった声も見受けられます。

また、毎日新聞社が2016年に行った全国世論調査では、「近所に保育園ができるのを迷惑だと思うか」という質問に対し、「迷惑だとは思わない」という答えが86%を占めるなど、児童福祉関係施設に対して否定的に考えている人は一見すると少ないようにも思えます。

こうしたことから考えると、「いざ当事者になると、不安が生まれてつい反対してしまう」「単なる調査ならいい顔をして答えるけど、実際にその立場になったら反対する」といったことが起こりうるのかもしれません。

現状では、地元の港区は「施設の建設予定に大きな変更はない」という立場です。一方で一部の地元住民は「青山の未来を考える会」という会を発足させ、建設の見直しを要請する署名活動を行うなどの行動も進めています。こうしたNIMBY的な問題はたびたび起こってくるものですが、今後、行政側が反対住民の一定の納得を得られるまで粘り強く対話を重ねていくのか、あるいは「対話はある程度、十分に行われた」として建設を実行に移すのかなど、反対住民にどのようにアプローチしていくのか注目したいところです。

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2005年創業。ビジネス書・実用書を中心とした書籍出版や企業出版、メディア・コンテンツ事業、デザイン制作事業などを手がける。

主な刊行書籍に、20万部突破の『誰からも「気がきく」と言われる45の習慣』をはじめ、『特定の人としかうまく付き合えないのは、結局、あなたの心が冷めているからだ』 『起業家のように企業で働く』 『すべての仕事を紙1枚にまとめてしまう整理術』 『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』 『自分を変える習慣力』 『鬼速PDCA』など。