プロジェクト会議で「初回にみんなの意見を聞く」と失敗する理由

MIT流「おとしどころ」をつくる技術

 新しいプロジェクトの打ち合わせでメンバーが集まったものの、ネガティブな意見ばかりで話が前に進まず、次回以降もダラダラと生産性の低い集まりを繰り返してしまう……こんな経験はないでしょうか?

 そんなときに役立つのが、人の話し合いを科学的に分析する「交渉学」の知識です。そもそも交渉の定義とは、「複数の人間が未来のことがらについて話し合い、協力して行動する取り決めをすること」。つまり、私たちが毎日行っているコミュニケーションのほとんどが交渉にあたります。

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 この記事では、『おとしどころの⾒つけ⽅ 世界⼀やさしい交渉学⼊⾨』の著者で、交渉学の本場である⽶国マサチューセッツ⼯科⼤学で学んだ、交渉学・合意形成論の専⾨家である松浦正浩先⽣が、「会議で使える合意形成のテクニック」を3つのステップで解説します。

STEP1 関係者を洗い出す

 複数人が参加する会議の場合、そもそも「話し合いに参加すべき人は誰か」を考える必要があります。これは当たり前なようで、意外とできていないケースが多いものです。メンバーの選定をしっかり行わずに「なんとなく」で選んでしまっては、関係がない人はムダな時間を浪費するだけですし、逆に必要な人が参加できない可能性もあります。

 交渉学では、こういった関係者のことを「ステークホルダー」と呼びます。このステークホルダーが誰なのかを特定してから会議を始めないと、非常に効率の悪い会議になってしまいます。もちろん、会社の役員会や定例会議のように、メンバーが固まっている会議もありますが、何か新しいことを始めようとするときには、「本当に関与してもらわなければならない人たち」が集まらないと意味がありません。

 たとえば、新商品開発のプロジェクトであれば、販売・広報・マーケティングなどの担当者の参加は必須でしょうが、総務部や法務部へは報告のみで十分かもしれません。また、部署の中でもどの人に参加してもらうべきか、特性や他のメンバーとの相性なども考えて選定する必要があります。このような「場づくり」から合意形成は始まっています。

STEP2 話し合いの「地図」を共有する

 複数の関係者がいる場合、そもそもみんなが参加できる日程を探すのも難しいですし、順序よく効率的に問題解決を進めていかないと、二度手間が生じたり、予定していた期限までに合意形成ができなかったりする可能性もあります。そのため、事前に「プロセスマップ」をつくって、メンバーと共有しておくことをオススメします。

 プロセスマップとは、最終的なゴールに向かって何を達成していけばいいのか、問題をコマ切れにして段階的に配置した話し合いの「地図」のようなものです〈別画像〉。こうして大きなゴールに向けて、チームで適切に役割分担しながら歩き始めます。

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話し合いの地図「プロセスマップ」をつくる

 探検にしても、地図があるから歩き始められるのであって、「あの山に財宝があるらしい」からといって闇雲に山に分け入っても、途中で谷に落ちたり、川に行く手を阻まれたりして挫折するだけです。

 もちろん、予定通りにはプロジェクトが進まないかもしれません。想定していなかった課題が見つかったり、期限が遅れたり、新たな会議を設定しないといけなかったりするかもしれません。とはいえ、地図がなければ目的地があいまいすぎて、関係者の協力すら得られないことでしょう。まずは「話し合いの地図をつくること」が、合意形成への第1歩です。

STEP3 初回の集まりで共通の認識をつくる

 初回の集まりでは、「まずはみなさんのご意見を」などと言って、それぞれのメンバーの意見や都合を聞くということも多いかもしれません。でも、実はこれは「やってはいけないこと」です。なぜなら、みんな火の粉が降ってくるのを恐れるため、ネガティブな意見ばかり出てしまう傾向にあるからです。

 初回の集まりでは、まず否定しづらい「大きな目的」や「本質的な意義」を強調すべきです(これを「総論賛成」といいます)。新商品開発の例でいえば、「競合他社との差別化」や「顕在化した顧客ニーズへの対応」などでしょうか。そうすることで、問題の存在を関係者に認めさせ、問題解決に取り組む意欲を引き出しやすくなります。企業の組織改革の研究でも、自分の組織に問題があることを社員が認識しなければ、いくら解決策を説明したり強要したりしても、社員の行動は変わらないことが明らかになっています。

 それでもネガティブな意見は出てくるでしょう。そんなときは、ネガティブな意見をポジティブに言い換える「リフレーミング」が有効です。たとえば、「リスクがある」と指摘されたら、「リスクを最小化するためにご協力を!」と切り返すのが具体的な例です。「モノは言いよう」ということですね。場の雰囲気をいかにいい方向へと導くか、これも交渉の大切な要素なのです。

筆者の松浦氏の著書(画像をクリックするとAmazonのページにジャンプします)

まとめ 会議で使える交渉学の3ステップ

STEP1 関係者を洗い出す
 プロジェクトメンバーの選定では、役割分担が重要。この関係者を「ステークホルダー」という。メンバーを集める「場づくり」から、すでに交渉は始まっている。

STEP2 話し合いの「地図」を共有する
 複数人で打ち合わせを重ねるときには、話し合いの「地図」であるプロセスマップが必要不可欠。そのときどきで「何を決めるか」が明確になれば、集めるメンバーの削減や時間の節約につながる。

STEP3 初回の集まりで共通の認識をつくる
 何かのプロジェクトを始めるときには、まず初回に「誰も否定できない目的」をみんなに認識してもらう。もしネガティブな意見が出てきたら、「リフレーミング」でポジティブに言い換えよう。

 何か新しいプロジェクトの集まりがある際には、以上のことを意識して、ぜひ話し合いを効率よく進めてください。

 

■ 松浦正浩(まつうら・まさひろ)
1974年生まれ。Ph.D(都市・地域計画)。東京大学工学部卒業。マサチューセッツ工科大学修士課程、三菱総合研究所研究員を経てマサチューセッツ工科大学都市計画学科Ph.D。東京大学公共政策大学院特任講師、特任准教授を歴任し、現在、明治大学専門職大学院ガバナンス研究科(公共政策大学院)教授。著書に『実践! 交渉学 いかに合意形成を図るか』(ちくま新書)、訳書に『コンセンサス・ビルディング入門 公共政策の交渉と合意形成の進め方』(有斐閣)など。

松浦氏の著書:
おとしどころの見つけ方 世界一やさしい交渉学入門

松浦 正浩

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1974年生まれ。Ph.D(都市・地域計画)。東京大学工学部卒業。マサチューセッツ工科大学修士課程、三菱総合研究所研究員を経て同大学都市計画学科Ph.D。東京大学公共政策大学院特任講師、特任准教授を歴任し、現在、明治大学専門職大学院ガバナンス研究科(公共政策大学院)教授。
著書に『実践! 交渉学 いかに合意形成を図るか』(ちくま新書)、訳書に『コンセンサス・ビルディング入門 公共政策の交渉と合意形成の進め方』(有斐閣)など。