日本ではあまり知られていませんが、米国では1億ドル(約113億円)超の運用資産を保有する機関投資家は、四半期ごとに米国証券取引委員会(SEC)に13Fと呼ばれる米国上場株式の保有明細レポートを提出しなければなりません。
機関投資家とは銀行、証券会社、年金基金、投資顧問会社などで、ハーバード大学やイェール大学などの大学基金(エンダウメント)もその中に含まれます。
さて、その最新レポート(2018年9月末時点)が開示されていますので、本稿ではハーバード大学の投資行動を見てみましょう。
ハーバード大学の運用資産総額は約4兆4,000億円ですが、米国上場株式への投資額は、わずか440億円程度しかありません。これは運用資産額の1%程度にしかなりませんから、少々意外な感じがします。このうち、個別株式は345億円、ETFやインデックスファンドは96億円となっており、米国上場株式はアクティブ色が強いポートフォリオとなっています。
個別株の業種の広がりを見ると、IT、通信、金融、ヘルスケアの4業種のみで、ITと通信は業容では重なっていますので、実質的には3業種に絞っていると考えられます。
組入上位5社は、いずれもIT系のプラットフォーマーです。彼らのサービスがないと、ビジネスにおいて支障をきたす可能性が大きいですから、盤石な銘柄として組み入れていると思います。“困ったらグーグル”というような感じでしょうか。
加えて、ヘルスケア企業も組み入れています。ただし、この業種のカバレッジでは、ニューヨーク・ダウ組入銘柄の大手ヘルスケア企業であるジョンソン・エンド・ジョンソン、メルク、ファイザーは組み入れずに、中小型のニッチなヘルスケア企業に分散投資しています。
たとえば、組入第7位のNatera Inc. (ナスダック上場)は遺伝子疾患検査を主たるサービスとする2004年に設立された新興企業で、年間売上高は約250億円と、前述の企業と比べるとかなり小体です。その他のヘルスケア企業もプラットフォーマーというよりも、ある特定のサービスや商品に特色があるニッチな企業と言えるでしょう。
ハーバード大学の開示資料によれば、ポートフォリオの内訳は、上場株式31%、未公開株式16%、ヘッジファンド21%、不動産13%、天然資源6%、債券8%、その他資産と現金で5%とかなり広汎な資産クラスで運用されており、その6割以上が代替投資と言われるオルタナティブ投資です。
一方、上場株式は31%となっており、SECのデータを見る限り米国上場株式は殆ど組み入れられていないと考えられます。
2018年度(2017年7月~2018年6月)の同大学のパフォーマンスは10.0%と、残念ながら他のアイビーリーグの大学エンダウメントより2~3%程度劣後しています。ただし、上場株のパフォーマンスは14%となっており、この部分において、彼らのアクティブ戦略は奏功しているのではないでしょうか。
個人投資家には遠い話に聞こえますが、少なくとも上場株式のアクティブ戦略については、その考え方を参考にできそうです。
本稿は以上です。なお、GCIアセット・マネジメントでは、2019年から毎月数回、資産形成・運用などに関するさまざまなテーマで無料セミナーを開催いたします。ご興味のある方は、こちらからセミナー情報の詳細をご覧ください。