2. 口座凍結前に「名義人以外がATM等で預金を引き出す」ことはできる?
結論として、亡くなった方の口座がまだ凍結されていない段階であれば、名義人以外がATMなどを使って預金を引き出すことは技術的には可能です。
しかし、こうした行為には、以下のような予期せぬ「リスク」や「トラブル」が発生する可能性があるため、十分な注意が求められます。
2.1 リスク1:家族間のトラブルが起こる可能性がある
相続手続きを経ることなく、銀行口座が凍結される前に預金を引き出す行為は、他の相続人から「勝手な取り分の確保」として不正と受け取られるおそれがあります。
このような行動が原因で、相続人同士の信頼関係が崩れ、やがて深刻な対立や相続争いに発展するケースも少なくありません。
また、故人の預金は本来、遺産分割協議によって相続人の間で分けるべき「相続財産」に該当します。
したがって、無断での引き出しは、分割協議の妨げとなり、財産の扱いを巡って意見が食い違う要因にもなります。
特に、引き出された金額の使い道が明確でない場合は、他の相続人から疑念を抱かれやすく、より大きなトラブルにつながる可能性があるため注意が必要です。
このような事情をふまえると、口座が凍結される前であっても、安易な預金の引き出しは避けたほうが賢明だと言えるでしょう。
2.2 リスク2:相続放棄ができなくなる可能性がある
故人の財産は、プラスの資産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含めて相続の対象となります。
ただし、相続を望まない場合には、家庭裁判所に申し立てを行うことで「相続放棄」も可能です。
一方で、名義人以外が口座凍結前に預金を引き出す行為は、「単純承認」と見なされる可能性があります。
単純承認とは、遺産をすべて受け継ぐ意思があると判断される行動を指し、この判断がなされると、あとから相続放棄や限定承認を選ぶことができなくなってしまいます。
つまり、預金を引き出すこと自体が「故人の財産と負債のすべてを引き継ぐ意志を示した」と受け取られるおそれがあるのです。
このようなリスクを避けるためにも、相続に関する手続きが完了するまでは、安易な出金は控えるのが無難です。
とはいえ、実際には葬儀費用や各種手続きにあたって、急ぎで現金が必要になることもあります。
そうした場合に備え、故人の預金を引き出す必要があるときの具体的な対応方法について、次章にて紹介します。