韓国のサムスン電子は、11月7~8日に米サンフランシスコで開催した開発者会議「2018 Samsung Developer Conference」で、フォルダブル(折りたたみ可能な)端末の試作品を公開した。これに搭載するフォルダブル有機ELディスプレーの量産を数カ月以内に始める予定といい、2019年初頭にフォルダブルスマートフォンを発売する考えのようだ。
発売は2019年春ごろか
公開した試作端末には、7.3インチのフレキシブル有機EL「Infinity Flex Display」を搭載し、内折りに折りたたむことができる。折りたたむとポケットサイズの端末になり、外側に搭載したディスプレーでスマホとして使える。開いた7.3インチの状態で最大3つのアプリを同時に使えるという。
サムスンによると、フォルダブルディスプレーを実現するため、柔軟で耐久性のあるカバーウィンドウ用の新しい材料を開発した。また、信頼性を確保するため、弾力性を高め、何度折りたたんでも強度を保つ独自の接着剤も採用したという。
こうしたフォルダブルディスプレー用の部材に関しては、住友化学がサムスン向けに「ウィンドウフィルムとポラライザーを合わせた『ウィンポール』と呼ぶ製品を開発している」と5月の経営説明会で語っていた。また、サムスンに供給する可能性が高いといわれてきた韓国コーロンインダストリーズが透明ポリイミドフィルムの量産を開始している。
これまでに報じられた情報を総合すると、サムスンは毎年1月に米ラスベガスで開催される世界最大の家電見本市「CES」に試作端末を展示し、19年春ごろに発売することが有力視される。
次に発表しそうなのは「ファーウェイ」
フォルダブル端末に関しては、10月31日に中国のロヨル(Royole Corporation)が画面を外折りに曲げることができ、開くと7.8インチのタブレットとして使えるフォルダブルスマホ「FlexPai」を発表、12月末から出荷を開始することを明らかにした(参照:「世界初のフォルダブルスマホ」はサムスンじゃなかった)。すでに公式サイトから開発者モデルとして128GB品を1588ドル、256GB品を1759ドルで販売し始めており、11月5日にはサンフランシスコで米国市場向けの発表会も開催した。FlexPaiに搭載しているフォルダブル有機ELディスプレーは、ロヨルが中国・深セン市に整備した自社工場で生産したパネルだ。
ロヨル、サムスンに続いてフォルダブルスマホを発売しそうなのが、中国のファーウェイだ。5G通信に対応したフォルダブルスマホを開発中であることを明らかにしており、サムスンに前後して19年中に商品化する考え。中国のディスプレー最大手であるBOEから8インチのフォルダブル有機EL(折りたためば5インチ)の供給を受けるのではと噂されているが、まだ実機は公開していない。
サムスン以外のディスプレー量産化が普及のカギに
フォルダブル技術によって、スマホ1台あたりに搭載されるディスプレーの面積を大型化できるため、ディスプレーメーカーにとっては需要拡大の起爆剤になる可能性がある。韓国のサムスンディスプレーは現在、スマホ用有機ELの需要が伸びないため増産投資を凍結しているが、Infinity Flex Displayの需要が今後拡大すれば生産能力アップに向けて投資を再開する可能性が高い。
だが、ロヨルやサムスンのように、フォルダブル有機ELディスプレーを量産できる企業はまだ少ない。アップルへの有機EL供給が見込まれる韓国のLGディスプレーは、18年7~9月期の決算会見でフォルダブル有機ELについて「顧客と共同開発しており、量産を計画しているが、時間を要する」と述べるにとどまり、まだ製造技術を確立できていないことを示唆した。これは、ファーウェイへの供給が見込まれているBOEも同様といわれており、製造技術が確立できるか否かがファーウェイの発売時期に影響するかもしれない。
いずれにせよ、フォルダブル有機ELディスプレーを量産供給できるメーカーが増えなければ、競争原理が働かずパネル価格が下がらないため、搭載端末が増えない。フレキシブルな有機ELディスプレーでさえ、まともに量産供給しているのは現状でサムスンだけであり、量産技術でサムスンに肩を並べる企業が数社出てくることがフォルダブル端末の普及を早めることにつながるだろう。
電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏