「日本語のレベルを理由にPTAで簡単な役にばかりつくのはずるいような気がする」と不満をこぼすのは、外国人住民が増加している地区に住む女性の声。
今回は、PTAの現場における、日本人と外国人の文化摩擦について取り上げていきます。
中国人が急増する埼玉県・川口市
東京都北区に隣接する埼玉県の川口市。この町には、外国人、とくに中国人の急増が目立っています。川口市のホームページによれば、川口市における平成30年の外国人の人口増加数は3290人。
西川口駅周辺には中国人が経営する商店が激増し、「リトルチャイナ」と呼ばれることもあります。また、約2,400世帯を有する川口市の巨大な集合住宅には中国人が多く住んでおり、大きなコミュニティができあがっています。
「郷に入っては郷に従え」という言葉がありますが、人が人を呼び外国人コミュニティが大きくなってくると、「郷に入って郷をつくる」という現象も一部見受けられる模様。つまり、コミュニティの中で人間関係が完結し、日本の環境に適応する努力をしなくなってしまう現象です。
一方で、川口市や近隣市区の教育現場や地域社会では、外国人に対しての日本語教育や、進学相談会なども行われています。また、ボランティア団体のプロジェクトによって「違いを受け入れ合う」「サポートする」という試みも盛んにおこなわれています。
今後、出入国管理法改正により外国人労働者が増えると予想されていますが、川口市は他の自治体が今後抱える問題を先取りしていると言えるのではないでしょうか。
西川口駅近くの「保育施設」のケースは?
外国人の居住者が増えるということは、保育施設や学校などの教育現場にも外国人の割合が増えていくということ。
教育現場では日本語でうまくコミュニケーションをとれない親子の増加によって、教員や保育士の負担が増えるなどの事態が想定されますが、PTAの現場においては日本人の保護者たちに不満が募っているケースが見受けられるようです。
「子どもが通っている幼稚園では、年々、中国人の割合が増えています。だいたい1クラス20人中、5~6人くらい。このあたりの幼稚園は、常に定員いっぱいの保育園と違って定員割れが多いので、学期途中でも中国人の受け入れを行っていましたが、最近では外国人の定員を決め、『日本語でコミュニケーションがとれること』『園の方針に従うことができること』といった入園資格が設けられるようになった園が多いです。
PTA活動では、“日本人が責任の重い役を担う”というのが暗黙の了解になっています。役員決めのとき、妊娠中の人や赤ちゃんがいる人、兄弟のクラスで役員をやっている人は重い役を免除されますが、そこに“外国人”という条件が入ると、できる人は限られてしまって大変なんですよ。個人的に話してみると、いい人が多いんですけど、“免除されて当たり前”という態度はちょっとモヤモヤしますね」
こう語るのは、西川口駅近くの幼稚園と小学校に子どもを通わせるAさん。
少子化により子どもの数は減少傾向にありますが、なかなか削ることのできないPTA役員の頭数。共働き家庭が増えて女性の時間的な余裕がなくなっている今、日本人の保護者が不満を抱くのは当然といえます。とはいえ、外国人にとっても、異国に適応するのはたとえ家族や知人のサポートがあったとしても、とても難しいことです。
川口市が802人の外国人に対して行ったアンケートによれば、「不安に感じることや困っていること」として、4人に1人が「子どもの学校・教育に関すること」をあげています。
PTAの暗黙のルールの理解は外国人には難しい
「小学校のPTAで外国人が多いグループの副部長になったんですけど、PTAの活動日に“仕事だから”とドタキャンする外国人もたまにいます。ほとんどの人はまじめにやってくれるんですけどね。でも、ドタキャンする人がいると、結局は私がカバーしなくちゃならないんですよね……」
と語るのは、川口市に隣接し、同じく外国人の数が増加している蕨市のBさん。
「暗黙のルール」が多いPTAの現場では、細かい規則をつまびらかに説明することなく外国人に全てを察してもらうのは難しいもの。ましてや、「任意のボランティア」をうたいながら実際は半強制という一見矛盾しているようにも見える活動の実態は、理解するのはきわめてハードルが高いことだと推測できます。
都道府県のPTA連合を束ねる「日本PTA全国協議会」では国際交流の試みが行われていますが、地域の末端においても子どもたちの小さな国際交流のチャンスがあふれています。しかし、忙しい保護者がPTA役員を担い、余裕のなさから「外国人はずるい」という類の言葉を無意識に発することで、子どもにもささやかな差別意識が伝染する可能性はないでしょうか。
外国人労働者の受け入れ拡大により、ますます増えていくであろうPTAをめぐる国際摩擦。閉鎖的な各PTA組織において、多様な文化を受け止められるしなやかな制度が必要になっていくといえるでしょう。
【参考】
人口・世帯数・人口動態の年次推移-総数・日本人・外国人 – 川口市
川口市多文化共生指針 改訂版 (平成26年度~28年度)
北川 和子