グローバルで活用が進む人工知能(AI)。自動車をはじめとするモビリティや金融・医療・オフィス業務など、さまざまな領域で実証実験や導入が相次いでいて、我々のビジネスやプライベートを取り巻く環境は大きく変わろうとしている。

こういった取り組みは「不動産投資」の分野でも始まっていて、なかでも注目を集めているのが、首都圏を中心に不動産事業を展開する株式会社コスモスイニシアによる『VALUE AI〈バリューアイ〉』だ。果たして、どういったサービスなのか。同社ソリューション本部統括部カスタマーリレーション課の高橋元章氏は、その概要を次のように解説する。

「これは、当社が開発した業界初(※)の一棟投資用不動産向けAI診断サービスで、ウェブサイトから登録していただければ、不動産価値の将来予測や投資プランシミュレーションが無料で行えるというものです」

※コスモスイニシア調べ。一棟投資用・賃貸不動産を対象。2018年2月時点。

人工知能の活用が不動産投資分野にも進出

金融業界では、ロボアドバイザーが顧客に適した資産運用をアドバイスする、ファイナンスとテクノロジーを掛け合わせた「フィンテック」が知られている。医療であれば患者の病気を推測したり、内視鏡の診断中に食道がんや胃がんをAIが見つけたりといったサービスが開発され、自動運転だと交通データなどを分析して最適な運転を実現する。では、『VALUE AI』ではどういったことができるのだろうか。

不動産は築年数の経過に伴って外観や設備が老朽化し、その結果、賃料の引き下げを余儀なくされるケースもある。ところが、こういった変化を投資家が適切にキャッチするのは容易ではない。「つねに満室で家賃も変わらない」と考えて保有後の収益を皮算用したら、まったく算段が外れてしまったということもあるだろう。同サービスでは、そういったことがないよう、テクノロジーを活用して未来を可視化させるのだ。そうすることで、「〇年後に売却すればトータルでこれくらいのキャッシュフローが見込める」と、賃貸経営の入口から出口までの流れを計画でき、新規の購入や保有不動産の入替えタイミングを把握しやすい。

さらに、高橋氏は同サービスの特長を次のように強調する。「ユーザーが入力するのは、『物件情報』『自己資金とローン情報』『運営情報』『減価償却(土地と建物の按分)』といった、容易に入手できる情報に限ります。簡便な仕様でありながらも、不動産のプロたちと匹敵するようなデータが導き出せるようにこだわりました」

結果サマリーの画面 画像のサンプルはすべてシミュレーション物件のもの(以下同)

従来であれば、不動産の買い手は、物件価格や利回りなど、限られた情報で投資判断を下すしかなかった。売買・仲介会社の営業担当者が優秀であれば、目的に応じた提案もしてくれるだろうが、それだって確実ではない。言うなれば、不動産投資にはリスクや不安材料が散見されるにも関わらず、適切なソリューションはほぼなかったということだ。とりわけ、多額の資金を要する一棟投資用不動産は、失敗するとライフプランそのものが破綻する危険性がある。「弊社はこういった現状を課題として捉え、物件の売買・流通の適正化・透明化を目指すため、システムを開発しました」

AIと不動産のプロの長所を掛け合わせたサービス

膨大な物件データとAIの活用で実現したソリューション。「いまでは、弊社のような専業ではなく、IT企業がウェブ上で不動産投資に関する情報を発信し始めています。そういった状況下、業界側が持つリソースを『VALUE AI』を通じてオープン化することで、信頼や顧客価値の向上につなげたいというのが弊社の考えです。不動産会社が手掛けたサービスということに価値と意味があります」と、高橋氏は述べる。

一方、AIにつきまとうのは、「人を代替する」というトピックだ。自動化テクノロジーの活用は業務を効率化し、仮に自動運転が普及すれば職業ドライバーは減り、会計処理をシステム化すれば職場から経理担当はいらなくなるなど、人の仕事を奪う可能性も指摘されている。こういった点はどうなのだろうか。高橋氏は「そうではなく、AIと人の長所を掛け合わせて、価値の最大化を目指しました」と言う。

AIが参照するのはあくまで過去データとそのデータによる予測だが、それだけでは不十分。リアルタイムの状況や相場観も反映させないと最適な売買タイミングはつかめないため、社内営業担当者の意見も取り入れ、査定価格はより実勢に近い数値を算出しているという。「テクノロジーと専門家の知見を融合させたことも、このサービスの特長です。また、これまで人がしていたことの一部をシステムに任せることで、スタッフの作業が軽減され、空いた時間に情報やノウハウをインプットすることができ、結果、さらに高度な提案ができるようになります」

キャピタル収益分析表

二段構えのソリューション

また、コスモスイニシアでは、経験豊富な専属コンサルタントが顧客の賃貸経営の現状をさまざまな角度から客観的に分析・診断する、無料会員制の「不動産健康診断サービス」を提供している。たとえば『VALUE AI』を利用した後に、そこで得たデータをもとに、深掘りしたアドバイスをプロから受けられるようにしているという。

ユーザーが自分でシミュレーションを行う際も、賃料や想定稼働率、売却時期といった数値はユーザーの状況に合わせて任意で変更が可能。いくつも投資プランを作成して比較検討しながら、策を練っていけばいい。システムの自由度は高く、何から何までAIに依存するサービスではないということだ。

「今後は大規模修繕を行った場合の収益補正や税金に関するシミュレーションの機能を搭載するなど、さらなるブラッシュアップを検討しています」と、高橋氏は展望を話す。こういったことが可能なのも、AIをフックに不動産投資の専門家集団が現実的なサービスにノウハウを落とし込めるからだ。業界と投資家の関係を変え、最適な資産形成を促す未来志向型のツールとして、さらなる改良を期待したい。

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