トヨタの「燃料電池車」急加速が見えてきた

豊田合成、フジキン、田中貴金属が揃い踏みで支援体制

燃料電池車向けに素材・部材企業の投資が目立ってきた(写真:トヨタ自動車のMIRAI)

 「100年先を考えた場合の究極のエコカーは燃料電池車」と考えるトヨタの作戦が、ここに来てはっきり見え始めた。豊田合成は三重県いなべ市に燃料電池向けのタンクを作る大型の新工場建設を決定、フジキンもまた大阪工場に車載燃料電池用バルブの新ラインを設置、田中貴金属は燃料電池用触媒の生産ラインを7倍にする計画を打ち出し、部材向け各社の支援体制も急ピッチで進んできたのだ。

 世界すべてのエコカーの流れはEV(電気自動車)に集中していると考える人たちは数多い。日産・ルノー連合はEVで最先行しており、中国はあからさまにEV重視を打ち出し、どういうわけか米国勢もひたすらEVシフトを叫んでいる。

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 しかし、世界の自動車を技術、量産の両面でリードしているトヨタは、まさに頑ななまでに燃料電池車にこだわっている。EVは電気を作ってくれるわけではなく、そこに使う電力を作るためには膨大な設備投資が必要になり、原発ならばリスク増大、火力発電所ならCO2出しまくりで、決してエコで安全とはいえないからだ。これに対して、地球上に多く存在する水素エネルギーを活用し、走行の際にも、エネルギー補給の際にも一切CO2を出さない燃料電池車こそ人類の未来をつくる切り札と考えるトヨタの方向性は、いつにかかって正しいと思えてならない。

日本の部材メーカーも支援

 トヨタは2020年以降に年間3万台の燃料電池車を販売すると明言し、この基幹ユニットとなる燃料電池スタックと燃料の水素を貯蔵する高圧水素タンクの生産設備拡充を進めている。愛知県豊田市に延べ7万㎡の新棟を建設する一方で、愛知県みよし市の下山工場内に高圧水素タンクの専用ライン新設に踏み切っている。現在出している燃料電池車「MIRAI」は600万円台の価格となっているが、製造コストを50%OFFにすることを考えており、一方で水素エネルギーステーション整備について米国のシェルと共業することも決めているのだ。

 豊田合成は120億円以上を投じ、いなべ市の13万㎡に延べ2万1000㎡の新工場を建設し、MIRAIをはじめとする燃料電池車の高圧水素タンクの能力を一気に引き上げていく。

 フジキンはバルブをはじめとする流体制御機器のトップメーカーであり、とりわけ半導体向けでは圧倒的に強いが、TVドラマ「下町ロケット」の撮影に全面協力するなどロケット燃料用の特殊バルブ開発では圧倒的な技術を持つ。ロケット分野での実績を活かし、超高圧水素用バルブや調整弁などを製品化し、燃料電池車に応用展開している。先ごろ大阪工場に新たなクリーンルームを整備し、車載用燃料電池用バルブの生産能力をおよそ10倍に引き上げることを内定している。田中貴金属工業もまた湘南工場に40億円を投じ、燃料電池向け触媒の生産能力を7倍以上に引き上げていく考えだ。

BMWとの共闘でEVブームを凌駕できるか

 こうした部材系の設備投資が急ピッチで進むことにより、トヨタの燃料電池車における世界戦の体制は着々と整いつつあるのだ。重要なことは、トヨタにとって最大のライバルであり、欧州自動車業界の雄であるBMWがトヨタとの共同歩調で燃料電池車普及に注力していく方向であり、この2社が共闘すれば世界を覆っているEVの一大ブームを打ち破る展開が充分に期待されるのだ。

 トヨタのいう2050年のCO2ゼロチャレンジはもちろんハイブリッド車、EVも含めての戦略となるが、燃料電池車はどうあっても先頭に押し出していく方向性ははっきりしている。もしかしたら、それは当然のことであるのかもしれない。何故ならば、我が国のエネルギー戦略の将来像はいつにかかって「世界一の水素エネルギー先進大国」にあるのだから、日本企業を代表するトヨタが国の戦略からはずれた作戦を推進するとは、とても思えないからである。

産業タイムズ社 社長 泉谷 渉

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泉谷 渉
  • 泉谷 渉
  • 株式会社産業タイムズ社 社長

30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は電子デバイス産業新聞を発行する産業タイムズ社社長。
著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎氏との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)などがある。
一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。