子どもに大声をあげたり、強い口調で怒ってしまい、罪悪感を感じたことはありませんか。また、自分の妻が子どもにヒステリックに怒っていて心配、という方もいるでしょう。

ここで着目したいのは、大声をあげたという結果より、そこに至った経緯と理由。実は結果的に怒ったとしても、初めは優しい態度で、ていねいに子どもに説明していたという人がほとんどなのです。なぜ大声を出すに至ったか、一度冷静に理由を考えてみましょう。

大声で怒るまでの努力を見逃さないで

たとえば、子どもが部屋の中で棚に登って遊んでいたとします。初めのうちは「落ちたら頭イタイイタイして、ケガしちゃうんだよ。降りてこっちで遊ぼうね。このオモチャ面白いよ~」などと優しく危険を教え、次に取るべき行動へと誘導するママも少なくありません。「イタイ、イタイ」と子どもが理解しやすい言葉を使う気遣いも、最初はできるものです。

しかし何回言っても、子どもはすぐには分かりません。大人から見たら危険なことでも、子どもからすれば面白い遊びですから、楽しそうに続ける子がほとんどでしょう。どんなオモチャよりも危ないことほど面白いようで、さらに危ない行動へとエスカレートすることもよくあります。それに対応していると、大人は以下のような感情を感じることでしょう。

  • 何度言っても止やないのでイライラする
  • 何度ていねいに説明し続けても効果ゼロで、どうしたら良いのか分からなくなる
  • 「言えば分かる」という期待が裏切られてショック
  • 危ないことをしている間は目も手も離せないので、何もできない。家事も食事も中断せねばならず、トイレにも行けない
  • 朝や夕方、出かける前や寝る前などの場合、忙しくて焦りも出る
  • 上記のようなことが1日に何度も起き、365日続くため、心身ともに疲れる

これでは最初は理性的でいれても次第に感情的になり、言葉が強く、荒く、声も大きくなってしまうこともあるでしょう。

疲れ×環境×子どもの特性のトリプルパンチ

さらに多くの場合、家事・育児・仕事、また夜間授乳や夜泣きへの対応により寝不足で、乳幼児育児中の母親は「もともと心身共に余裕がない状態」の人が多いものです。心に余裕があり、体力もあり、きちんと眠れていたとしても、1日に何度も上記のようなことを繰り返していると疲れるでしょう。

また母親1人で育児をするワンオペ育児の人も多く、密室の中1人きりで何度も同じことを言っても分かってもらえないことが何度も、何日も続くと、精神的に追い詰められることもあります。

何度言っても分からないとは言っても、子どもが悪いわけでもありません。むしろ「何度言っても分からないのが子ども」の証。子どもなら当たり前のことで、これこそ子どもらしさなのです。ただ、このように色々なことが重なって、感情的になってしまうのですね。

諦めつつ、諦めない

大人は口で言われればすぐに理解できますが、子どもが理解するまでには時間がかかります。理解するには「実感」が必要ですし、実感できるようになるためにはそれなりの「経験と発達」が必要だからです。

たとえば「バイ菌がいるから触らないで!」と言っても、子どもはそもそも「バイ菌とは何か」を知りません。バイ菌とはどんなもので、それに触れると何がどうなるのか、自分がどれだけ危なくなるかなどは分からないのです。

実際に何度も熱を出し、お腹が痛くなり、バイ菌の絵本やアニメを見たり、何度も親や親戚や先生に注意されたり、園のお友達や家族の体調が悪い様子を見るなどして、段々と「バイ菌がいるものを触ると怖いんだ」と分かっていきます。それでも、小学生でもまだまだバイ菌の怖さは分かっていないものです。

最初から親も「言えば分かる」と期待してしまうと、苦しいでしょう。はじめから「すぐには分からないのが子どもである」と諦めつつ、「いつか分かる」と思いながら教えると、親も楽になります。「今はわからないよね。でもこうなんだよ、いつか分かるよ」という気持ちでいて、ケガをする危険がある場合は大人が避けてあげましょう。

諦めることは良くないことのようですが、もともとは「明らかに見る」という意味です。子どもの発達を明らかに見た場合、小さなうちはある程度諦め、代わりに大人が対処しましょう。

イライラしたり怒ってしまっても、ママ失格とすぐに思う必要はありません。その子にとってのママはあなたしかいませんし、ママだって人間ですから間違えます。新米ママを新入社員に例えれば、なおさら間違いが多いのも分かるでしょう。大切なのは、間違えた後にどうするか。一休みして冷静に分析してみると、答えが出てくるでしょう。

宮野 茉莉子