10月5日~7日に鈴鹿サーキットで開催されていた「2018 FIA F1世界選手権シリーズ第17戦」(以下、F1日本GP)が終了しました。最終結果は、ルイス・ハミルトン(メルセデス)が優勝し、2年連続5回目の年間王者にまた一歩近づいた一方、地元開催で健闘が期待されていたトロロッソ・ホンダは11位と13位という結果に終わり、ポイント獲得はなりませんでした。
かつてはテレビ局のドル箱コンテンツだったF1日本グランプリ
ところで、この結果を聞いて“えっ? F1日本GPが開催されていたの?”と驚いた人がいるかもしれませんし、全く興味がない人も多いと思われます。近年、日本におけるモータースポーツは興行的な不振が目立っていますが、世界最高峰の自動車レースと言われているF1も例外ではありません。
まずは、日本のF1人気の歴史を簡単に振り返ってみましょう。
F1レースは長期間にわたり日本開催が見送りとなっていましたが、フジテレビがスポンサーとなり1987年に復活します。当時の世界的スターだったアイルトン・セナやアラン・プロストなどに加え、中嶋悟や鈴木亜久里など日本人ドライバーが活躍したこともあり、F1は大ブームになりました。
90年代前半、F1日本GPのテレビ放映は高視聴率が見込めるドル箱コンテンツとなり、1991年の視聴率は20%超を記録しています。
その後、熱狂的なブームは一段落しますが、佐藤琢磨など日本人ドライバーの活躍、ホンダに続いてトヨタ自動車の参入などもあり、2006年には再び人気が高まりました。同年10月に鈴鹿サーキットで開催されたF1日本GPには36万1,000人(3日間合計、以下同)という過去最高の観客数を記録しています。この数字は、今となっては空前絶後の大記録と言っていいでしょう。
リーマンショックで日本企業は次々と撤退
しかし、2008年秋に発生したリーマンショックで様相が一転します。急激な業績悪化に見舞われたトヨタ、ホンダが相次いでF1から撤退し、関連スポンサーとなっていた他の日本企業も続々と撤収しました。
資金力のある日本企業が撤退したため、欧州など海外のF1チームは日本人ドライバーを採用しなくなり、ふと気が付くと、日本人ドライバーは皆無となったのです。
そして、最大のスポンサーであるフジテレビは2012年には地上波放送を打ち切ってBS放送へと縮小し、ついには2015年でBS放送も終了となりました。2016年からはCS有料放送局による小規模な中継のみとなっています(録画ダイジェストを除く)。
つまり、事実上、F1日本GPのテレビ放送が消滅したことになります。放映権料の値上がりなどの事情はありますが、かつてのドル箱コンテンツだったF1グランプリに興味を示すメディアはほとんどなくなったのです。
実質的にテレビ放送がなく、新聞等のメディアによる扱いも小さかったため、日本で開催していたことを知らなかった人がいても不思議ではありません。実際、昨年までは観客数の漸減傾向に歯止めがかからない状況が続いていました。
今年の動員観客数は6年ぶりの増加、決勝戦は8万人超が来場
しかし、今年は1987年にF1日本GPが復活して以降、鈴鹿サーキットで開催する30回目の“記念大会”として、ホンダなどが積極的なプロモーションを展開してきました。また、決勝が行われた日曜日が快晴で、絶好の行楽日和となったことなどから、観客数も6年ぶりの増加となっています。
3日間の観客数は16万5,000人(前年比で約+20%増)に上り、決勝レースの日曜日は8万1,000人(同+19%増)を記録しました。動員観客数は天候に左右されやすいとはいえ、関係者の方々もホッと胸を撫で下ろしたのではないでしょうか。
しかし、諸手を上げて喜べる結果ではありません。昨年(2017年)の動員観客数が過去最低(約13万7,000人)だったことや、増加しても依然としてピークの半分にも満たない数字(2006年比で▲54%減)だからです。確かに昨年より増えましたが、これで“人気復活”と考えている人は少数と言えましょう。
しかし、それでも、交通アクセスが決して良いとは言えない鈴鹿サーキットに1日(決勝開催の日曜日)で8万人超が来場したことは見逃せない点です。現在、東京ドームの野球観戦は満員で約4万6,000人ですが、巨人戦でも空席が目立つことは珍しくありません。
実は、F1日本GPはまだ十分に魅力的なイベントと言えるのではないでしょうか。
人気復活には日本人ドライバーの登場が必要不可欠
それでは、日本でのF1人気復活に向けて何が必要なのでしょうか。
人気復活のためには、兎にも角にも、日本人ドライバーの誕生が必要不可欠です。もちろん、2014年を最後に途絶えている日本人ドライバーをF1のシートに座らせるのは簡単ではありません。F1の有力チームには、過去にあっさり撤退した日本企業に対する不信感が少なからずあると考えられるからです。
そうとなれば、優秀な日本人ドライバーを育成するしかありません。もちろん、膨大な時間を要するでしょうが、テレビ放映を復活させるには、これが最善の方法でしょう。そのためには、日本企業が収益の良し悪しでモータースポーツに関与するスタンスを変えるのではなく、コツコツと地道に続けることが求められます。
また、これはフジテレビを始めとしたメディアにも言えることだと考えられます。今後もこうした動きを見守っていきましょう。
葛西 裕一