8月ごろから表面化してきた、インテルのCPU供給不足の問題。Acerなど台湾PCメーカーは2018年下期の不安要素としてこの問題を取り上げたほか、日系メーカーの間でもこれを問題視する向きが強まってきた。この問題に対し、インテルの暫定CEOであるBob Swan氏が9月28日に、顧客向けに異例の書簡を発表するなど、事態は広範囲にわたる可能性が出てきた。

PC出荷台数、6年ぶりにプラス成長

 Swan氏は書簡のなかで、サーバー向けのデータセンターグループ(DCG)事業の好調と、PC向けのクライアント・コンピューティング(CCG)事業の「予想外の好調」があり、製品の供給が一時的にタイトな状況にあると説明している。直近の18年4~6月決算では、DCGの売上高は前四半期比6%増/前年同期比27%増の55億ドル、CCGは同6%増/同6%増と両セグメントとも好調をキープしている。

 調査会社のガートナーによれば、18年4~6月期のPC出荷台数は前年同期比1.4%増の6210万台となり、12年1~3月期以来、約6年ぶりに四半期ベースでプラス成長に転じた。インテルでは、ゲーミング需要の拡大と商用システムの強い需要がPC市場の活況理由であるとして、18年のPC市場は緩やかながらもプラス成長で推移すると予測している。

 PC市場の予想外の活況に伴い、インテルのCPU供給は現在非常にタイトな状況になっているという。利益率が高い高性能市場に対応するため、サーバー向けの「Xeon」および、「Core」プロセッサーの供給を優先する一方、エントリークラスPC向けの製品供給は特にタイトなものになるとしている。

年間設備投資を増額修正

 同社は18年通年の売上高ガイダンスを年初、650億ドルに設定していたが、1~3月決算発表にあわせて、これを675億ドルに上方修正。さらに4~6月決算では695億ドルへと再度修正を行った。期初から45億ドル分増額されたことになるが、これに対して、Swan氏は現在の供給能力で十分対応可能であると自信を見せた。

 一方で供給不足解消のため、同社では18年の年間設備投資を従来の140億ドルから150億ドルに増額修正。現在、問題となっている14nm世代を採用した製品の供給能力を引き上げるため、オレゴン、アリゾナ、イスラエル、アイルランドの各拠点に増額分10億ドルを使って、追加投資を行っている。

理由はPC市場の活況だけではない

 インテルはPC市場の予想外の活況を今回の供給問題の理由に挙げているが、要因はこれだけではなく、いくつかの問題が絡んだ複合的な要因である可能性が高い。1つは製造プロセスのロードマップが崩れたことだ。同社はクライアントPC向けと、サーバー向けのCPU製造において、別々の製造プロセスを採用していた。

 具体的には、最先端プロセスはクライアント向けで採用し、サーバー向けは1世代古いプロセスを採用して、生産ラインの効率化につなげていた。直近でいえば、クライアント向けが14nm世代を採用している間、サーバー向けは22nmを採用していた。

 しかし、インテルの微細化は技術的な障壁に直面しているほか、微細化に伴う製造コストの上昇といった問題もあり、既存の14nmを再三延命化している(参照:インテルを阻む微細化の壁、10nm量産を再延期)。その間に、サーバー向けが22nmから14nmへとシフトしていまい、クライアント向けとサーバー向けが同一プロセスになるという事態に直面。一時的に14nmの生産キャパシティーが逼迫してしまったとみられている。

iPhone新機種は全量インテル製

 また、もう1つの要因として考えられているのが、モバイル用ベースバンドプロセッサーの内製化だ。インフィニオンテクノロジーズが買収した事業がベースとなっているが、昨今アップルのiPhoneにおいて、クアルコムからインテル製ベースバンドプロセッサーへの移行が進んでいる。9月に発表された「iPhone XS/XS Max」および「iPhone XR」のベースバンドは全量インテル製が採用されている。

 従来、このベースバンドの製造に関して、インテルは自社ファブではなく、TSMCを活用した外部生産のスタイルをとっていた。しかし、今回のiPhone新機種にあわせて自社ファブへの生産に切り替えており、アイルランドの「Fab24」での生産を立ち上げていた。

 このベースバンドに関しても、CPU同様に14nmが採用されており、月あたり1.5万~2万枚のウエハーを消費しているもようだ。一連のベースバンド内製化もCPU製造を圧迫した一因と考えられている。

10nm投入が一番の特効薬だが……

 14nmの能力拡張以上に、今回の問題を一気に解決する方法は、いち早く次世代の10nm製品を市場に投入し、生産キャパのミスマッチを解消することだ。しかし、10nmの本格投入については量産時期が再三延期されており、4~6月期決算カンファレンスの場では、コンシューマー向け製品は19年下期に、データセンター向けは20年に発売されるとコメント。供給問題は18年いっぱい、最悪19年の上期にも影響が及ぶ可能性が出てきた。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳