3. 引き上げで増える年金はいくら?
仮に75万円まで標準報酬月額が引き上げられたとして、いくら年金が増えるのか確かめてみましょう。
標準報酬月額65万円、厚生年金保険への加入期間40年間として、現行の標準報酬月額をもとに計算すると、受け取れる金額は以下のとおりです。
- 基礎年金81万6000円+(標準報酬月額65万円×0.005481×480ヵ月)=252万6072円
※基礎年金額は2024年度の満額としている
月額21万506円の年金を受給できます。
では、引き上げ後の想定金額を試算してみましょう。標準報酬月額75万円の場合の受給金額は以下のようになります。
- 基礎年金81万6000円+(標準報酬月額75万円×0.005481×480ヵ月)=278万9160円
※基礎年金額は2024年度の満額としている
年間で約26万3000円、月あたり約2万2000円年金が増加します。
次に、何年で元が取れるか確かめてみましょう。現行の制度で支払う保険料総額は、以下のとおりです。
- 65万円×18.3%×480ヵ月=5709万6000円
保険料のもとを取るには「5709万6000円÷252万6072円=≒22.6」となり、約23年の期間が必要です。
一方、標準報酬月額が75万円に引き上げられた場合の保険料総額は以下のとおりです。
- 75万円×18.3%×480ヵ月=6588万円
保険料のもとを取るには「6588万円÷278万9160円=≒23.6」となり、元を取るまでの期間が24年と約1年延びてしまいます。
年金額自体は毎月2万円ほど増やせます。しかし、元を取るという考え方をすれば、保険料納付額が増える分、これまでより元を取りにくくなる可能性があるでしょう。
4. まとめ
会社員や公務員が支払う厚生年金保険料は、保険料率だけ見れば18.3%と住民税(10%)よりも高く「税金よりも重い負担」になりがちです。年収798万円以上の人は、引き上げが決定すれば、今まで以上に保険料負担が重くのしかかることになります。
国は厚生年金の適用拡大とあわせて、標準報酬月額の引き上げにより保険料収入を確保したい見通しです。しかし、社会保険料の増加は結果的に実質賃金の低下を招き、賃上げの恩恵を受けられない状態となってしまいます。現代は年金制度のあり方を今一度大きく見直す時期にあるのかもしれません。
参考資料
- 厚生労働省「令和7年度の年金額改定についてお知らせします」
- 厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和6年分結果速報」
- 日本年金機構「厚生年金保険料額表」
- 日本年金機構「令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表(令和6年度版)」
- 厚生労働省「年金制度改正の検討事項」
- 日本年金機構「は行 報酬比例部分」
石上 ユウキ