東証1部上場のTATERUによる不適切融資が発覚

個人や中小企業向けを中心とした不動産融資に関わる不祥事が続いています。先週末には、アパートの施工・管理事業を手掛ける東証1部上場のTATERU(1435)の不適切融資が明るみになりました。

TATERUは、建設資金の借り入れ希望者の預金通帳を改ざんし(残高の水増し等)、銀行に融資の申請をしていたのです。会社側もこの事実を認め、調査解明のために第三者委員会を立ち上げたことを発表しました。

TATERUの株価は3日連続でストップ安

この不祥事を受け、週明けのTATERU株価は暴落し、9月3日~5日まで3日連続のストップ安となりました。先週末(8月31日)の終値1,606円に対して9月5日の終値756円は▲53%下落しています。

中小型株という位置付けとはいえ、東証1部上場企業が3日連続でストップ安となり、その間に時価総額が半分未満になるのは尋常ではありません。

株式市場では“TATERUショック”と呼ぶ関係者も登場し始めています。

既にパフォーマンスは大きく低下していた不動産株

しかし、こうした不動産融資に絡む不祥事は、今回のTATERUだけではありません。昨年(2017年)から徐々に問題視されていたものが、今年(2018年)に入って一気に表面化しており、不動産株や建設株のパフォーマンスは軒並み低迷していました。

事の発端は商工中金による不正融資なのか?

今振り返ると、不適切融資の発端は、2017年に次々と発覚した商工組合中央金庫(商工中金)による不正融資だったのかもしれません。不正が明らかとなったことを受け、2017年5月と10月に、金融庁や経済産業省などが商工中金へ業務改善命令を出しました。半年に2度も業務改善命令が出ること自体、異例中の異例でした。

スルガ銀行による一連の不適切融資は大きな社会問題に

そして、2018年に入って大きな社会問題となったのが、スルガ銀行(8358)による一連のシェアハウス問題に始まった広範囲に渡る不適切融資です。

当該不祥事の実態はまだ調査中でありますが、スルガ銀行の株価は一時約15年ぶりの安値を付け、現在も低迷したままです。

東日本銀行でも発覚した過剰融資

さらに、今年7月には、コンコルディア・フィナンシャルグループ(7186)の傘下にある東日本銀行による大掛かりな不適切融資が発覚し、金融庁が業務改善命令を出しました。東日本銀行では、融資に伴って金利と別に多額の手数料を取ったり、過剰に融資して一部を定期預金させたりするなど不適切な融資が横行していたことが判明しています。

この件により、コンコルディアFGの株価は急落して年初来安値を更新し、現在もほぼ同水準に低迷したままです。

不適切融資の背景にあるのは地方銀行などの収益環境悪化

これらの不適切融資(一部は完全な不正融資として認定)に関わる不祥事は、一見すると、別個の問題に見えます。しかしながら、大きな観点では全て繋がっており、その背景にある最大要因は、地方銀行を含む中小金融機関の収益環境悪化です。特に、地方銀行は過去最大の試練に直面していると言っても過言ではありません。

現在、大企業による資金借入需要は低迷しており、少なくとも国内では、銀行の利鞘ビジネスは行き詰っています。また、優良な一部の中小企業においても、事業縮小や撤退、あるいは、大企業の傘下入りなどにより、資金需要は減退していると考えられます。そこに日銀のマイナス金利政策が追い打ちを掛けました。

メガバンクですら収益環境の悪化に直面して大リストラを余儀なくされ、尚且つ、今までは手薄だったリテール事業(個人向け)に注力している訳ですから、地方銀行が苦境に陥るのは当然と言えましょう。

個人向け不動産融資に注目した地方銀行

そこで地方銀行が目を付けたのが、低金利を背景に需要拡大が続いてきた不動産投資、とりわけ、個人の不動産投資だったと推察されます。一般的に、個人向け貸し出し金利は、企業向けより高く設定できます。

また、メガバンクがリテール事業に注力し始めたとはいえ、支店網や昔からの知名度などを考慮すると、地方では互角に戦うことができます。そこで、“少しだけ無理”をして融資残高を増やす戦略に出たとしても不思議ではありません。

ただ、その“少しだけ無理”がいつの間にか“大変な無理”を通り越して、不適切な水準に至ったと考えられます。今回の“TATERUショック”を上回るようなサプライズが今後出てこないとも限りません。

不適切融資の発覚が地方銀行再編を加速する?

今年に入って相次ぐ不祥事を鑑み、金融庁は地方銀行や中小金融機関に対し精査強化の方向性は避けられないでしょう。この先、新たな不適切融資の事案が出てくる可能性は高いと考えられます。そして、その先は、地方銀行などの更なる統廃合に行き着くかもしれません。この先も要注目です。

葛西 裕一