半導体景気、一部踊り場でも中長期的に問題なし

新たなIoT需要は想定以上

データセンターが膨大なメモリー需要を喚起する

 世界最大手の半導体メーカーにのし上がったサムスン電子の設備投資が少し後ろにずれたくらいで、「もはや半導体景気に先折れ感」と騒ぐ人たちが多いのには驚かされるばかりだ。そしてまた、世界で最も大きい半導体ファンドリーのTSMCが設備投資減額を打ち出したことも、こうした風潮を煽っている。

 ところが、今回の半導体ブームはこれまでのスマホなどIT機器に大きく依存したものではないことをよく踏まえれば、一気にトーンダウンという展開は考えにくい。直近の市況を見れば、米国半導体工業会(SIA)発表の2018年第2四半期の世界半導体売り上げは1179億ドルであり、前年同期比で20.5%増というとんでもない数字をはじき出している。6月だけの世界売上高をとっても391億ドルであり、単月の売り上げとしては過去最高記録を更新しているのだ。ちなみに、単月の売上高の前年同月比伸び率が20%を超えたのは、これで15カ月連続となっている。

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 しかしながらここに来て多くのアナリスト、評論家、さらには記者たちが盛んにコメントするのは、2018年下期以降に不安要因が多すぎるとの指摘だ。確かに現状における最大の牽引役であるスマホについては、減速感が著しい。何しろ最大市場である中国の2018年1~5月のスマホ出荷台数は、ピークであった2016年に比べて24%も減少しているのだから、これはヤバイとばかりに騒ぎたくなるのはよくわかる。

 ただよく考えていただきたい。巨大市場構築(なんと中国ファーウェイは2300兆円を予想)のIoTを引っ張る原動力は、第1段階ではデータセンター、第2段階では次世代自動車、第3段階ではAI、そして第4段階ではすべてのモノとコトがセンサーで動いていく社会、ということなのだ。こうした第4次産業革命の一大インパクトが、新たな半導体ブームを呼び込んでいるとみるべきである。

世界のデータ生成量は3~4年以内に4倍以上へ

 世界のデータ生成量は10ゼタバイトに近づきつつあるが、これを3~4年のうちに4倍以上の40ゼタバイトに持っていく方向性に全く変わりはない。そしてここで使われる主要記憶媒体がハードディスクからフラッシュメモリーに移っていく計画にも全く不安はない。これに連動してDRAMの出荷量も急上昇していく。

 データ生成量の拡大分の3分の1はデータセンター間のやり取りであると思われるが、それでもフラッシュメモリー需要は現状の4~5倍になっていくことはほぼ確実だ。これは言い換えれば、投資額1.5兆円規模の最先端の3D-NANDフラッシュメモリー新工場が少なくとも10棟以上必要になるとの定量的見通しがある。スマホ向けがサチったとしても、データセンター需要はまさに堅調に伸びていくのだ。

AI、車載にも膨大な半導体需要

 IoTがらみで見逃せない動きはその他にもたくさんある。世界のパソコンおよびサーバーCPUの王者である米インテルは、2017年だけでAI向け半導体の売り上げが10億ドルを超えたという。当然のことながら、AIを最も得意とする米エヌビディアの伸びはさらにこれを上回っている。

 またソフトバンクは2016年に買収したアームのIoT基盤を構築する意向を明らかにしている。アームが設計した半導体は、あらゆる機器に搭載され、出荷数は2030年に累計1兆個に達する見込みなのだ。膨大な数の半導体から収集したビッグデータをAIが分析することで、工場生産、物流ネットワーク、さらにはマーケティング戦略が革命的に変わっていく。

 そしてまた、車載向け半導体がいよいよここに来て大きな牽引役となってきた。すなわち次世代エコカーのうち先頭を走り始めたEVが膨大な半導体を欲しがっている。

 何かと話題のテスラは、モデル3の生産がようやく軌道に乗り、強気を取り戻しつつある。先ごろ、50億ドルを投じて中国に新工場を建設することを一部アナウンスし始めた。これが立ち上がれば半導体および電子部品、さらにはリチウムイオン電池の需要は加速する。またこれまで大きな需要がなかったSiCパワー半導体も、EV進展の中ではっきりと大型設備投資が見えてきた。ローム、インフィニオン、三菱電機、富士電機の動きに注目する必要がある。

短期的な景気に一喜一憂するべきではない

 IoT革命が切り開く半導体の世界は、全く新たな需要を呼び込み、現在50兆円弱のマーケットは数年のうちに100兆円まで伸びていく、という設計図は今や簡単に描くことができる。それに伴い、空前の設備投資が実行されていくことになるだろう。

 装置メーカーの業績は非常に良いところとそれほどでもないところに二分され、まだら模様となっている。しかしながら、IoT革命を断行するために必要な最大のキーワードは半導体であることに間違いはない。短期的な業績や市場の浮き沈みに一喜一憂することなく、世界の第4次産業革命に貢献すべくデバイス、装置、材料の各企業は、準備を怠ってはならないと思う。

産業タイムズ社 社長 泉谷 渉

参考記事

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泉谷 渉
  • 泉谷 渉
  • 株式会社産業タイムズ社 社長

30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は電子デバイス産業新聞を発行する産業タイムズ社社長。
著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎氏との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)などがある。
一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。