東京オリンピックの開催などの事情もあって、東京では地価や家賃が上昇していますね。たとえば非正規雇用でリストラに遭ってしまった方や、病気により休職が長期にわたってしまった方などは、家賃を支払えず、滞納してしまうこともあるかもしれません。あるいは、老朽化などで住んでいるアパートにほかに人が集まらず取り壊されるなど、空き家問題の巻き添えで退居を迫られることもあるでしょう。
ところで皆さんは、こうした場面で暗躍する「追い出し屋」というのをご存じですか?
地上げ屋とどう違う?
「追い出し屋」とは、家賃滞納などを理由に住人を家から閉め出したり、部屋の中の家財を撤去したり、ひどい場合には深夜の電話、訪問、張り紙、恐喝などの暴力的な手段で住人を追い出す業者のことを指していう通称です。
「地上げ屋」は主に土地の買収のために土地・住居の所有者を追い出すことを目的としているのに対して、「追い出し屋」は主に住居の借り主を追い出すことを目的としています。
また、本来の地上げ屋は土地や建物の買収交渉の専門業者である一方、追い出し屋はそうした専門家ではなく、一方的に立ち退きを要求することも違いと言えるでしょう。
追い出し屋によってホームレスになってしまう人々
「追い出し屋」の手口は、にわかに信じられないようなものもあるようです。
2カ月分の家賃を滞納してしまったある人は、仕事から帰宅したある日、部屋に補助錠がかかっており、家賃保証会社に電話するも取り合ってくれませんでした。そのまま閉め出され、1週間後には部屋の荷物も完全に撤去されてしまい、住まいも家財も突然失ってしまったといいます。以前から「追い出し屋」の問題はさまざまなメディアで取り上げられていますが、この話は昨年にウェブ記事で取り上げられ、大きな反響を呼びました。
また、別のケースでは赤字で大きく書かれた「払えないなら出て行け」という貼り紙を貼ったり、呼び鈴を何度も鳴らし続けたり、深夜に何十回も電話をかけてきたりというケースもあるようです。
悪質な業者がはびこる事情
近年では敷金・保証金ゼロ、連帯保証人不要という物件も少なくありません。賃貸住宅ビジネスが一般化し、簡単に住居を貸し借りできる代わりに「家賃滞納」を避けるべく、家主が家賃債務保証業者に家賃管理を委託することが増えてきました。
また、家主が高齢化し、管理が難しくなった物件や空き家になっている住居を買い取り、再開発を目論む業者も増加しています。
その結果、悪質な業者が強硬な手段を取って、高額な違約金を請求したり、住人を追い出したりするケースが増えたようです。
荷物の撤去等はもちろん違法だが……
入居者を退居させるには正式な手続きを踏む必要があり、たとえ家賃滞納者であっても、家主は一方的に追い出すことはできません。住人の承諾のない荷物の撤去やカギの交換などは不法行為に該当し、窃盗・器物損壊罪・住居侵入罪などの犯罪行為にあたる可能性が高いのです。実際、そのような追い出し行為に対して賠償命令が下された判例もあるようです。
ただ、特に家賃滞納の場合、入居者側にも負い目があったり、あるいはそもそもこうしたことが違法だという法律的な知識がなかったりする場合も多くあります。悪質な追い出し屋は、こうした点を巧みに突いてくるため、泣き寝入りしている人も数多くいるといわれます。
もっと注目されるべき現状
現在、「追い出し屋」を直接的に取り締まれるような法律は存在しません。数年前にも社会問題としての認識が高まり、法案が作られるところまでは行ったものの、その後、審議が進まずに廃案となってしまったようです。
賃金が以前のように伸びず、非正規雇用なども確実に増えている中、不安定な状況で働いている人や、リストラ・介護離職などのリスクを抱えている人、空き家問題などにより不本意な退居を迫られている人などは少なくありません。法規制や監督官庁の設定など、現実的な対策を含めて、この「追い出し屋」の問題はもっと注目されるべきでないでしょうか?
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