子どもの成長、とくに赤ちゃんの成長の早さには日々、驚かされます。
ついこの間まで、やっと寝返りをしていた子が、ハイハイをしてあっという間に歩き出し、気づけば食卓テーブルにひょっこり顔を出し。高いところへ避難させていた物にも、ついに手が届いてしまいます。
新生児と1歳児を比べると、体重は約3倍、身長は約1.8倍といわれ、まさに短期間で劇的な成長を遂げています。その目まぐるしい変化に、なんと「季節」も関係していることが最近の研究で明らかになりました。夏は、0歳児の身長が最も伸びやすい季節だったのです。
日本では古くから「夏に身長が伸びやすい」と言われてきましたが、子どもの成長の早さゆえに、その真偽を検証するのは極めて困難なことでした。そこで活用されたのが、育児アプリです。
0歳児を対象とした世界初の大規模な解析
国立成育医療研究センターと株式会社ファーストアセントは、スマートフォンアプリ『パパっと育児@赤ちゃん手帳』のビッグデータを活用して検証を行いました。これまでにも保育園児に対する調査はありましたが、数千人規模の大規模データを使って検証するのは世界でも前例のない研究です。
どのように解析が行われたかというと、まず医学研究への利用に関して同意を得られた1億件以上のデータの中から、身長、体重に関わる約6,000人分の0歳児のデータが選ばれました。そして2回の計測の間の身長、体重それぞれの「伸び」が求められ、基準化した「伸び」の指標を月別・季節別に集計することが行われまました。
その結果、「体重の伸び」には季節による変動がなかったものの、身長は春から夏にかけての伸びが大きく、秋から冬にかけては小さくなることが明らかになりました(図表1)。
生後6カ月の赤ちゃんは、ひと月で平均1.35cm身長が伸び、夏と冬の1カ月での身長増加を比べると0.13cmの差があったそうです。わずかな差のようにも感じますが、ひと月あたりの平均の「伸び」に対してみると、約10%変動していることになります。
野生動物としてのなごり?
月別にみると、身長の伸びの指標となる値は7月がピークとなっています(図表2)。この変動パターンを気温や日長(昼の時間の長さ)など、気候の変動パターンと比較してみると、日射量の変動パターンに近いことも示されました。
現時点では、どのようなメカニズムで0歳児に成長速度に季節差が生じるのか、詳しいことはわかっていませんが、日射量による何らかの影響があるのではないかと推測されています。
0歳児の成長の速さに季節差があるという事実は、ヒトにも野生動物としてのなごりが残っていることを意味しているのかもしれません。
クマの冬眠のように、野生動物は季節の影響を大きく受けています。多くの野生動物は、気温が低く、日照時間の短い秋から冬にかけて不活発で、気温が高くなって食料が増える春から夏にかけて成長・成熟し、繁殖が活発になります。
人間はそこまで季節による影響は受けないにしても、やはり寒い時期よりは温暖な時期の方が活動も活発になります。赤ちゃんにおいても、活動量が上がることで、成長が促されることも考えられます。
研究のプロジェクトチームは今後、居住する地域による差(たとえば、北海道と沖縄で違いがあるか)や外出頻度などについても追跡調査を行い、検証していくとしています。
子どもの生育と季節の関係を調べることは、四季が明瞭な日本ならではの研究ですが、海外ではどうなのか、人種による違いもあるのか、といった点も気になるところです。
迷うことの多い育児に新たなヒントを
赤ちゃんがどのくらい成長しているか、気にかけている親御さんも多いと思います。体重の増減に一喜一憂したり、身長の伸び悩みを感じたりすることもありますが、「季節による影響もあるんだ」と頭の片隅に入れておくと、少しだけ気持ちが楽になるかもしれません。
そして、妊娠や出産、子どもの成長や発達などには、まだままだ多くの謎があります。
「足が大きい子は背が高くなる」「妊娠中のお腹が前に出ていると男の子、横に広がると女の子」「おしゃぶりや指しゃぶりで歯並びが悪くなる」などなど、子育てをしていると、本当かな? と思うような情報にも触れる機会が多々あります。
今回のように、育児アプリで集積されたライフログデータを活用することで、これまでは迷信や定説とされてきたことが検証され、新たな発見につながるかもしれません。育児ビックデータの解析によって、日本の子どもたちの実像に迫ろうとする研究に、今後も注目が集まりそうです。
【参照先】
「0歳児の身長が伸びやすい季節は夏」(国立成育医療研究センター プレスリリース)
堀川 晃菜