子どもの発達や、夫婦関係やママ友関係で悩んだときにインターネットを活用した経験はありませんか? 困ったとき、判断に迷ったとき、すぐに情報を手に入れられるのはとても便利。また、人間関係が狭まりやすい育児期、SNSは母親の孤独感を一時的にでも癒す役割を担っています。

一方で、情報の埋まった巨大な鉱山から今の自分に必要な情報を掘り当てるまで、「ふるいにかける」というひと手間が必要になるのも事実です。

育児関連記事の検索結果は「不確かな情報」も多い

たとえば、「子ども 歩かない」「赤ちゃん 笑わない」と検索してみると、質問サイトや個人のブログが検索上位に並び、「経験者からの確からしい情報」はあるものの、専門家による情報にはなかなかヒットしません。中には根拠がどこにも書かれていないのに「発達障害の疑いも。小児科を受診しましょう」などと、いたずらに不安をあおる記述も見受けられます。

『博報堂こそだて家族研究所:調査レポート』によれば、インターネットの記事を子どものしつけの情報源としている女性は、3人に1人。

一昨年、インターネットでの検索順位をアップさせるためのノウハウが盛り込まれた根拠の不確かな医療記事が大きな問題となりましたが、医療記事に限らず、Googleと根拠の薄い記事の争いはまだまだ続いているようです。

こうした状況においては、たまたま出会った情報の質や「どの情報を信じるか」という理由で家族間の不和を招く可能性もあるのではないでしょうか。また、「検索結果が自分の感情によって異なる」という事態が起こりやすくもなります。

「極端な状況の極端な感情」に引きずり込まれることも

インターネットには、人間関係にまつわる負の感情を刺激する記事も多く見受けられます。

7月末時点でGoogleの検索窓に「夫」と打つと、「夫源病」「夫 嫌い」「夫婦喧嘩」とった予測ワードが並びます。

「ママ友」と打つと、ポジティブなものより「こわい」「うざい」「いない」「いらない」といったネガティブな予測ワードが多く見られます。

「姑 孫」と打つと、「姑 孫 嫌い」「姑 孫 悪口」「姑 孫 おもちゃ」といった一目見て気持ちがゲンナリするようなワードが……。

人気のある育児の交流サイトでは、シングルマザーへのバッシングや家事をしない夫、非常識なママ友や姑を強く断罪するような書き込みが多く見受けられ、「過激なシチュエーション」が、「よくあること」として語られていることがあります。

実際、「ママ友とのほっこり体験記」より、「これで私は地獄を見た!地雷ママ友の5つの特徴」といった記事を、「姑から言われた優しい言葉」より「被害者続出!帰省時に姑から受けた『嫁ハラ』の恐るべき内容」の方をクリックしてみたくなるのが、人の心理。だからこそ、今日もまたこのような記事がどこかで作成され、配信されているのでしょう。

しかし、こうした負の情報を無防備に浴び続けることで、「他人に対して抱いたささやかな違和感」が「嫌い」へと変化することがある、ということを第1子を生んだ後の筆者は身をもって体験したことがあります。

記事の中に自分の考えと似た要素を見つけることで「自分の気持ちを代弁してくれた」と胸のすくような快感を得られると同時に、特定の対象に向けた怒りの感情や不安が刺激されることがあることを胸に留めておきたいものです。

インターネットの情報で疑心暗鬼に陥らないために…

星新一さんの小説に『おーいでてこーい』という作品があります。

突如、大地に底の見えない穴が出現し、最初は恐る恐る石を投げたりして様子をうかがっていた人間が、安全だと判断してから、その穴にありとあらゆるものを投げ捨てるようになります。不都合な物をなかったことにできる「便利な穴」は、実は近未来とつながっていて、捨てたものが全て空から降ってくることを想起させるエンディングとなっています。

便利なインターネット。そこにこっそり書き込まれてきた「不都合な感情」や「安易な正義感」、「承認欲求」や「嫉妬」は、少しずつ現実社会に降り注ぎ、人の心を疑心暗鬼にさせているのではないでしょうか。

様々な育児情報があふれていますが、「自分を気持ちよくしてくれる情報」より、「正しい情報」を探すように心がけ、インターネットの情報によって不安になったり怒りを感じることがあったなら、少し距離を置いた方がいいかもしれません。

【参考】博報堂こそだて家族研究所:調査レポート

北川 和子