本記事の3つのポイント
- 米国、中国を相手にした貿易摩擦の問題は韓国でも大きな関心事となっている。中国当局からメモリー価格の談合の疑いを指摘されたほか、米国でも韓国製家電などの緊急輸入制限措置(セーフガード)が発動されている
- 韓国政府は中国の調査について、外交ルートを通じて公式に懸念を表明。単にDRAM価格を引き下げるための行動ではなく、本格的な韓国半導体への牽制ではないかと憂慮している
- 中国では自国の半導体産業育成のため、地場企業を中心にメモリーの国産化プロジェクトが複数立ち上がっている。中国の出方次第で今後の工場投資を含む中国での展開に影響を及ぼすことにもなりそうだ
韓国半導体業界が米中による露骨な牽制に戸惑いを隠せない状態にある。半導体は韓国の輸出総額の20%強を占める「国家の大黒柱産業」であり、先端技術を牽引する最重要産業でもある。それゆえに、半導体強国を目指す中国と、「America First」を叫ぶ米トランプ政権からの圧迫が、韓国半導体産業に緊張を走らせている。
サムスンのメモリーの半分は中国市場向け
中国発展改革委員会(NDRC)は、2018年に入って、半導体価格の値上がりに不満を持つ中国内のスマホメーカーが苦情を申し入れると、「スマホ向けメモリー半導体価格の引き上げが価格談合につながる可能性を注視している」と発言し、サムスン電子に半導体価格の引き下げを暗に促している。サムスン電子のメモリー半導体売上高のうち中国向けは半分を占めるため、価格の引き下げはサムスン半導体事業の収益性に直結する。
加えて、韓国半導体に対する米国の行動が緊張感をさらに高めている。米国政府は18年初頭、韓国製の洗濯機と太陽光パネルに高い関税を賦課する緊急輸入制限措置(セーフガード)を発動。時を同じくして米国際貿易委員会(ITC)も、メモリー半導体市場を席巻しているサムスン電子とSKハイニックスをターゲットに、SSD(ソリッド・ステート・ドライブ)などが関税法違反にあたるのではないかと調査した。仮に違反と判断されれば、韓国製のメモリー半導体には最大40%の関税が課せられることになる。
2025年に半導体自給率70%を目指す中国
中国の裁判所は7月、米マイクロン・テクノロジーの主要半導体製品の販売を差し止める仮処分を下した。これに伴い、サムスン電子やSKハイニックスをはじめとする韓国半導体メーカーは、中国政府の今後の出方に対する対策作りに奔走している。苛烈化する米中貿易戦争と相まって、この仮処分が半導体業界全体に飛び火するのではと懸念しているからだ。
中国福州裁判所は、マイクロン・テクノロジーに中国国内における販売禁止の仮処分を下した。18年初頭から知的財産権(IP)の侵害の可否をめぐって、マイクロン・テクノロジーと争っている台湾UMCとJHICC(晋華集成電路)に有利な処分となった。
中国は17年に世界半導体取引量の65%を輸入するなど、世界最大の半導体消費国である。もし今回、中国の措置が米国のみならず、半導体産業全体に向けた狙いがあるとすれば、韓国半導体は史上最大の危機に陥りかねない。中国の矛先は、メモリー半導体市場を占有しているサムスン電子とSKハイニックスにも向けられる可能性が高い。17年の韓国の対中輸出額は1421億ドルで、442億ドルの貿易黒字となっており、この黒字の大半が半導体だといわれている。
16年に「半導体堀起(国家プロジェクト)」を打ち出した中国は、現状で13%しかない半導体自給率を、25年まで70%に引き上げると明言している。また、18年末にはメモリー半導体の量産に踏み切ると豪語しており、これはメモリー半導体トップを堅持する韓国に対して政府レベルで挑戦状を叩きつけたことに他ならない。
韓国産半導体に価格談合調査を開始
また中国政府は18年6月、サムスン電子、SKハイニックス、マイクロン・テクノロジーなど大手半導体3社に対する談合調査を開始した。これら3社がDRAMの供給を制限し価格を高騰させたとして、調査に踏み切ったのだ。世界DRAM市場の75%程度を韓国勢2社が掌握していることを考えると、今回の調査開始は韓国メーカーを主要ターゲットにしていることが明白だ。
5月31日に中国国家発展改革委員会をはじめ商務部や工商行政管理総局など、反独占局所属の調査官30人余りがサムスン電子(北京)とSKハイニックス(上海)の中国オフィスを調査した。反独占局は、DRAM価格の急騰の背景に、価格談合などで相場の調整があったか、または半導体の供給不足を悪用した違法な行為があったかなどを調査したようだ。
韓国政府は、このような中国の調査について、外交ルートを通じて公式に懸念を表明している。中国による韓国半導体への圧力は17年12月から始まった。中国側は韓国2社の関係者を呼んで、DRAM価格の上昇と関連した調査を行った。また、18年2月にもDRAM価格の凍結やメモリー半導体の供給増大、中国メーカーに対する特許訴訟の中止など、中国としての要求事項を伝えていた。
韓国経済の大きな不安材料に
韓国側は、中国の談合調査は単にDRAM価格を引き下げるための行動ではなく、本格的な韓国半導体への牽制ではないかと憂慮している。もし談合があったと判断されれば、韓国には最大8兆ウォン(約8000億円)にも及ぶ課徴金が賦課されると試算されている。さらには、中国が自国内の半導体産業に対する投資拡大と先端メモリー半導体の技術開発に成功すれば、韓国半導体産業に致命的な打撃を与え、韓国経済の大きな不安材料になるとも予測されている。
中国政府の牽制には、18年下期の試験生産を経て、19年から本格量産に突入しようとする自国の半導体産業を後押しする狙いが見え隠れする。また、トランプ政権が中国の通信機器メーカーZTE(中興通訊)に、米国製の半導体部品供給を禁止したことを受けて、中国政府は半導体強国プロジェクトをさらにスピードアップしていく見通しだ。
このように、米中からの圧力と貿易戦争の板挟みに苦しむ文在寅政権だが、韓国において半導体は「輸出親孝行産業」と賞賛されるだけに、半導体産業を守っていくべき使命が課せられている。
(電子デバイス産業新聞 ソウル支局長 嚴在漢)
まとめにかえて
韓国の半導体産業にとって、中国の半導体産業育成の動きは最も警戒すべき事項となっています。サムスン、SKハイニックスの2大企業がともにメモリー製品を主軸としているため、現在推進されているメモリー国産化プロジェクトは将来的に大きな脅威となることが指摘されています。価格談合の疑いが指摘されたことなどは記事にもあるとおり、韓国半導体産業への牽制と見るのが妥当です。サムスンやSKハイニックスは中国国内に大規模な半導体工場を有していますが、今後こうした工場投資にも影響が出てくる可能性がありそうです。
電子デバイス産業新聞