本記事の3つのポイント

  •  電子部品大手のTDKが主力の受動部品主事業に加え、M&Aなどを通じてセンサー事業への傾注を強烈に進めている
  •  センサー事業の売上高が年平均成長率35%で推移すると推定。17度実績で776億円市場は、3年後の20年度に2000億円規模に到達すると予測
  •  全社ベースでは、20年度に売上高1.65兆円(17年度実績1.27兆円)、営業利益率10%以上(同6.7%)を目指す

 

 TDK㈱がまた大きな変貌を遂げようとしている。かつてはカセットテープやビデオテープが主軸だった事業の柱を、積層セラミックコンデンサー(MLCC)やインダクターなど受動部品主体の事業形態に移行。そして今回、2016年に石黒成直氏を新社長として迎えて2年目、IoTビジネスの主役を担うセンサー事業に軸足を移し、本格的な市場攻略に乗り出した。

 同社が取り組んできたセンサー事業の立ち上げと足腰の強化には、並々ならぬ意欲が伝わってくる。

 強化策を遂行する資金を捻出するため、受動部品事業に属していたSAWフィルターなど高周波部品を取り扱う部門を、米クアルコムと合弁会社を設立するというかたちで切り出し、潤沢な譲渡金を入手。これを資金源に、15年12月にスイスのミクロナスセミコンダクタを約263億円で買収し、磁気センサーの領域を補強した。16年8月には仏トロニクスマイクロシステムズを約55億円で、同年12月には米インベンセンスを約1572億円で買収し、慣性センサー領域の補強も完了させた。さらに、制御用ICが不可欠なセンシングモジュール開発をにらんでは、ベルギーのファブレスASIC開発メーカーであるICセンスも取り込んだ。

 これら買収メーカーが保有するセンサー技術に、TDK独自開発の各種センサー群も連動。また、社内組織的には、ビジネスを推進する司令塔として「センサシステムズビジネスカンパニー」を17年4月に新設した。

センサービジネス本格化

 TDKはいよいよセンサー事業を本格化させる。狙うアプリケーション市場は車載用途と民生用途だ。

 車載用途では、ミクロナスセミコンダクタのホール素子センサーとTDK本体が開発したTMR(トンネル磁気抵抗効果)センサーの組み合わせが先陣を切る。両センサーともすでに100プロジェクトで搭載決定の商談が進んでおり、ここ3年間、車載での売り上げ規模はほぼ見通しが立っている。

 電気自動車(EV)をにらんでは、モーター用途で温度・圧力センサーが有効に機能する。また、従来のガソリンエンジン車も市場から消滅するわけではなく、引き続き有望市場として攻略していく考えである。

 一方、民生用途でモーションセンサーからスタートを切るのが、インベンセンスが取り扱うMEMSセンサーである。低消費電力化を加速しており、サイズも小型化が進んでいる。有望市場は高機能スマートフォンやゲーム機、さらにはドローンにも期待がかかる。そのほか、マイクロフォンやスマートスピーカーも対象市場となる。

 車載分野での展開は、セキュリティーの観点から指紋認証が、産業機器分野ではプロセス管理とライン管理による生産モニタリングが、それぞれ有望である。

 TDKではセンサー事業の売上高が年平均成長率35%で推移すると推定。17度実績で776億円市場は、3年後の20年度に2000億円規模に到達すると予測している。

20年度に1.65兆円企業を目指す

 TDKはセンサー事業を原動力に、既存の受動部品事業、磁気応用製品事業、エナジー応用製品事業についても収益力を強化。17年度の売上高1.27兆円、営業利益856億円(営業利益率は6.7%)から、20年度に売上高1.65兆円、営業利益率10%以上を目指す。設備投資は3年間累計で5000億円を計画した。

1.受動部品事業
 受動部品は車載を主軸に展開する。筆頭にくるのが大容量MLCC。車載を念頭に、耐振動対策を施した「メガキャップシリーズ」で攻勢をかける。また、人の命を預かる高信頼性の観点からは、冗長設計(誤動作回避回路)を組み込んだMLCCを提供する。そして、従来主流であったアルミ電解コンデンサーやフィルムコンデンサーからの置き換えを加速させていく方針である。

 高周波部品は、センサー事業を育成するためクアルコムとの合弁会社として切り出したが、第5世代移動通信システム(5G)の到来をにらみ、高品位のセラミックフィルターはTDK本体に温存。スマホのみならず、基地局などを中心に拡販していく方針である。

 電源などパワー系については、米カリフォルニア州に本社オフィスを構える、電源ICのファブレスベンチャーであるファラデーセミを買収。ファラデーセミが特化するPOL(Point of Load)に、TDK保有のMLCCやインダクターを組み合わせ、さらにそれを「SESUB」で培ったIC内蔵基板技術で実装。3㎜角の超小型化を実現した。すでにハイエンド領域での搭載が始まっている。

 車載や産機のコックピット周辺では、運転者の操作性向上のため、ピエゾ素子技術を応用した触覚デバイスを拡販していく方針である。

2.磁気応用製品事業
 同事業部はHDDヘッドおよび各種電子部材を取り扱う。記憶媒体としてのHDDがSSDに置き換わり、市場規模は縮小傾向にある。TDKはHDDヘッドビジネスを継続しつつ、サスペンションの製造プロセス技術を応用展開させる考えだ。医療用部品の製造に有効だという。

 部材面ではマグネット(磁石)に期待を寄せる。EVの駆動系であるモーター用途で拡販を狙う。また、形状も四角や棒状以外の様々な形状にチャレンジ。形状で出力が大きく変わることを、ビジネスチャンスにつなげていく考えである。

3.エナジー応用製品事業
 ここでの主力製品は2次電池。スマホやタブレット用途を主戦場に業績を伸ばしてきたが、これからはウエアラブル機器用で市場を切り拓いていく。

 さらにはハイパワー系で自動搬送車やスクーターも取り込んでいく考え。家庭用蓄電システムも視野に入れている。
 そして、これらアプリ展開を、中国・EV用電池メーカー大手のCATLと共同開発していくことになる。

電子デバイス産業新聞 編集部 松下晋司

まとめにかえて

  電子部品メーカーのなかでは、TDKはとりわけセンサー事業への傾注を強めている会社の1つです。その方針は前社長の上釜氏から現社長の石黒氏にバトンが渡った時点で、より一層鮮明となりました。特にEPCOS社を中心に行ってきたSAWフィルターなど高周波部品事業を売却した時点で、より決定的になったように思います。TDKは村田製作所や太陽誘電にはない、磁気テープや磁気ヘッドで培った磁性膜に対する豊富な知見を有しており、磁気センサーなどを展開するうえで、非常に優位な立場にあると考えられます。半導体分野でも磁気技術の応用先としてMRAM(磁気抵抗メモリー)の開発などを進めていることも、非常にユニークです。

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