厚生労働省は、60歳となる労働者への高年齢雇用継続給付を2025年4月1日から縮小することを公表しました。縮小は段階的に進められ、最終的には制度そのものが廃止される方針です。

そのため、60歳以上65歳未満の労働者は賃金が減少する可能性があり、これから定年退職を控えている方は高年齢雇用継続給付が廃止されることを踏まえて準備する必要があるでしょう。

本記事では定年退職前に申請しておきたい手続きを中心に、高年齢雇用継続給付金についても解説していきます。

1. 定年前に必ず申請しておきたい「退職前の手続き」とは?

定年退職の前後には年金や退職金の手続きなど、やるべきことが豊富です。そのなかでも特に申請しておきたい健康保険について解説していきます。

健康保険の必要な手続きを怠ると、医療費の全額自己負担を求められるといったデメリットが生じるため注意が必要です。

2. 定年退職後に加入できる健康保険制度の選択肢

定年退職後の健康保険の選択肢は主に以下の3つです。

  1. 国民健康保険
  2. 健康保険任意継続制度
  3. 被扶養者

それぞれの概要を簡単に紹介していきます。

2.1 国民健康保険

国民健康保険は、都道府県または市区町村が保険者となって運営している医療保険制度です。国民皆保険制度により、基本的に全ての人が加入できます。

保険料は前年の所得や年齢に応じて異なり、世帯主が保険料を納めます。算定方法については自治体ごとの条例によって定められているため、住んでいる地域で保険料が変わる点は注意が必要です。

なお、法令によって定められている世帯所得を下回る場合は、保険料が軽減される制度があります。退職後に安定した収入を得られる見込みがない方でも安心して加入できるのが特徴です。

【写真全8枚】国民健康保険料・保険税の軽減制度。写真後半では高年齢雇用継続給付金の支給率早見表を掲載1/8

国民健康保険料・保険税の軽減制度

出所:厚生労働省「国民健康保険の保険料・保険税について」

2.2 健康保険任意継続制度

健康保険任意継続制度とは、会社を退職しても最大2年間は退職前に加入していた健康保険の被保険者になれる制度のことです。退職日までに2ヶ月以上の健康保険加入期間があれば、加入することができます。

退職前の保険内容を継続できるほか、扶養家族も同様の保険に加入できるのがメリットです。一方で、任意継続保険は事業主と折半で納めていた保険料が全額自己負担になるため、在職中に支払っていた保険料が2倍になります。

ただし、保険料には上限が定められていますので留意してください。

全国健康保険協会(協会けんぽ)の任意継続被保険者の保険料額2/8

全国健康保険協会(協会けんぽ)の任意継続被保険者の保険料額

出所:全国健康保険協会「全国健康保険協会(協会けんぽ)の任意継続被保険者の方の保険料額」

2.3 被扶養者

定年退職後の健康保険の選択肢として、配偶者や子どもなどの保険に扶養加入することも挙げられます。家族の扶養に加入できれば、所得控除を受けられるのがメリットです。以下、扶養親族の年齢などによる控除額です。

扶養控除の金額3/8

扶養控除の金額

出所:国税庁「No.1180 扶養控除」

  • 一般の控除対象扶養親族:38万円
  • 特定扶養親族:63万円
  • 老人扶養親族(同居老親以外):48万円
  • 老人扶養親族(同居老親等):58万円

ただし、被扶養者になるには年収130万円未満、60歳以上の場合は180万円未満である必要があります。加えて、被扶養者の年収が被保険者の1/2未満でなければなりません。具体的な条件は加入している健康保険によって異なるため、事前に確認しておくのが大切です。

次に健康保険ごとの手続き方法とタイミングについて確認していきましょう。

2.4 健康保険の手続き場所と申請期限

【国民健康保険】

  • 手続き場所:居住している市区町村役場
  • 申請期限:退職日の翌日から14日以内

【健康保険任意継続制度】

  • 手続き場所:居住している地域の協会けんぽ支部
  • 申請期限:退職日の翌日から20日以内

【被扶養者】

  • 手続き場所:被保険者の勤務先
  • 申請期限:事実の発生から5日以内

次章では退職金の受け取り方について解説します。

3. 退職金の受け取り方

次に退職金の受け取り方について解説します。主に一括で受け取る「退職一時金」と、年金として受け取る「退職年金」の2種類あり、受け取り方で税負担が異なります。

3.1 一括で受け取る「退職一時金」場合

退職金を一括で受け取る場合、退職所得として扱われるため、税負担を軽減できるのがメリットです。「収入金額-退職所得控除額×1/2」で計算され、収入金額は源泉徴収される前の金額で算出されます。

また、退職所得控除は勤続年数によって金額が異なるのもポイントです。具体的には勤続年数20年を目安に計算式が変わり、以下の方法で導き出せます。

  • 勤続年数20年以下:40万円×勤続年数
  • 勤続年数20年超:800万円+70万円×(勤続年数-20年)

3.2 年金として受け取る「退職年金」場合

退職金を年金方式で受け取る場合は退職所得ではなく、雑所得として扱われます。まとまった金額を分割して受け取ることで、定期的に収入を得られるのがメリットです。ただし、公的年金以外の合計所得金額によっては社会保険料の負担が増える可能性があります。

なお、公的年金の雑所得は「収入金額-公的年金控除額」で計算できます。公的年金控除額は、年齢や公的年金以外の合計所得によって異なるのがポイントです。

【雑所得以外の合計所得金額が1000万円以下】

公的年金等の課税関係一覧表【雑所得以外の合計所得金額が1000万円以下】5/8

公的年金等の課税関係一覧表【雑所得以外の合計所得金額が1000万円以下】

出所:国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」

<65歳未満>

  • 収入金額の合計60万円以下:公的年金に係る雑所得の金額0円
  • 収入金額の合計60万円超〜130万円未満:収入金額の合計-60万円
  • 収入金額の合計130万円以上〜410万円未満:収入金額の合計×0.75-27万5000円
  • 収入金額の合計410万円以上〜770万円未満:収入金額の合計×0.85-68万5000円
  • 収入金額の合計770万円以上〜1000万円未満:収入金額の合計×0.95-145万5000円
  • 収入金額の合計1000万円以上:収入金額の合計-195万5000円

<65歳以上>

  • 収入金額の合計110万円以下:公的年金に係る雑所得の金額0円
  • 収入金額の合計110万円超〜330万円未満:収入金額の合計-110万円
  • 収入金額の合計330万円以上〜410万円未満:収入金額の合計×0.75-27万5000円
  • 収入金額の合計410万円以上〜770万円未満:収入金額の合計×0.85-68万5000円
  • 収入金額の合計770万円以上〜1000万円未満:収入金額の合計×0.95-145万5000円
  • 収入金額の合計1000万円以上:収入金額の合計-195万5000円

【雑所得以外の合計所得金額が1000〜2000万円以下】

公的年金等の課税関係一覧表【雑所得以外の合計所得金額が1000〜2000万円以下】6/8

公的年金等の課税関係一覧表【雑所得以外の合計所得金額が1000〜2000万円以下】

出所:国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」

<65歳未満>

  • 収入金額の合計50万円以下:公的年金に係る雑所得の金額0円
  • 収入金額の合計50万円超〜130万円未満:収入金額の合計-50万円
  • 収入金額の合計130万円以上〜410万円未満:収入金額の合計×0.75-17万5000円
  • 収入金額の合計410万円以上〜770万円未満:収入金額の合計×0.85-58万5000円
  • 収入金額の合計770万円以上〜1000万円未満:収入金額の合計×0.95-135万5000円
  • 収入金額の合計1000万円以上:収入金額の合計-185万5000円

<65歳以上>

  • 収入金額の合計110万円以下:公的年金に係る雑所得の金額0円
  • 収入金額の合計110万円超〜330万円未満:収入金額の合計-100万円
  • 収入金額の合計330万円以上〜410万円未満:収入金額の合計×0.75-17万5000円
  • 収入金額の合計410万円以上〜770万円未満:収入金額の合計×0.85-58万5000円
  • 収入金額の合計770万円以上〜1000万円未満:収入金額の合計×0.95-135万5000円
  • 収入金額の合計1000万円以上:収入金額の合計-185万5000円

【雑所得以外の合計所得金額が2000万円超】

公的年金等の課税関係一覧表【雑所得以外の合計所得金額が2000万円超】7/8

公的年金等の課税関係一覧表【雑所得以外の合計所得金額が2000万円超】

出所:国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」

<65歳未満>

  • 収入金額の合計40万円以下:公的年金に係る雑所得の金額0円
  • 収入金額の合計40万円超〜130万円未満:収入金額の合計-40万円
  • 収入金額の合計130万円以上〜410万円未満:収入金額の合計×0.75-7万5000円
  • 収入金額の合計410万円以上〜770万円未満:収入金額の合計×0.85-48万5000円
  • 収入金額の合計770万円以上〜1000万円未満:収入金額の合計×0.95-125万5000円
  • 収入金額の合計1000万円以上:収入金額の合計-175万5000円

<65歳以上>

  • 収入金額の合計90万円以下:公的年金に係る雑所得の金額0円
  • 収入金額の合計90万円超〜330万円未満:収入金額の合計-90万円
  • 収入金額の合計330万円以上〜410万円未満:収入金額の合計×0.75-7万5000円
  • 収入金額の合計410万円以上〜770万円未満:収入金額の合計×0.85-48万5000円
  • 収入金額の合計770万円以上〜1000万円未満:収入金額の合計×0.95-125万5000円
  • 収入金額の合計1000万円以上:収入金額の合計-175万5000円

4. 高年齢雇用継続給付金とは?

高年齢雇用継続給付金は、雇用保険の被保険者であった期間が5年以上あり、60歳以降の賃金が60歳時点の75%未満の方に支給される給付金です。

高年齢雇用継続給付金により、60歳以降も安定して働けるほか、年金の繰り下げ受給を行うなどの選択もできます。では次に、受給するにあたってどのような条件が定められているのか確認していきましょう。

4.1 高年齢雇用継続給付金の支給要件

高年齢雇用継続給付金を受給するには、以下の要件を満たしている必要があります。

  • 支給対象月の初日から末日まで被保険者であること
  • 支給対象月中に支払われた賃金が60歳時点の賃金月額の75%未満に低下していること
  • 支給対象月中に支払われた賃金額が支給限度額未満であること
  • 申請後に算出された基本給付金の額が最低限度額を超えていること
  • 支給対象月の全期間にわたって育児休業給付または介護休業給付の支給対象となっていないこと

上記のほか、受給するには60歳以上65歳未満の一般被保険者であることも重要です。また、前述した雇用保険の被保険者期間が5年以上ある点もチェックしておきたい項目です。

4.2 高年齢雇用継続給付金の支給額

高年齢雇用継続給付金の支給額は、支給対象月に支払われた賃金の低下率に応じて算出されます。低下率は「支給対象月に支払われた賃金額÷60歳到達時の賃金月額×100」で計算できます。

なお、実際に計算する場合は以下の早見表を参考にしてみてください。

高年齢雇用継続給付金の支給率早見表8/8

高年齢雇用継続給付金の支給率早見表

出所:厚生労働省「Q&A~高年齢雇用継続給付~」

例えば、支給対象月に支払われた賃金額が24万円、60歳到達時の賃金月額を35万円で想定すると「24万円÷35万円×100=約68.5%」です。上記の早見表を参考にすると支給率は6.20%であると確認できます。

4.3 高年齢雇用継続給付金の申請手続き

高年齢雇用継続給付の申請は、勤務先の所在地を管轄しているハローワークにて手続きする必要があります。手続きを行う際は、以下の書類を忘れずに持参しましょう。なお、手続きの回数によって用意する書類が異なる点にも注意が必要です。

【初回に用意する書類】

  • 雇用保険被保険者六十歳到達時等賃金証明書
  • 高年齢雇用継続給付受給資格確認票・高年齢雇用継続給付支給申請書 
  • 賃金台帳・労働者名簿・出勤簿またはタイムカード等被保険者が雇用されていることの事実、賃金の支払状況および賃金の額を証明することのできる書類
  • 被保険者の運転免許証など被保険者の年齢が確認できる官公署から発行・発給された身分証明書などの書類 

【2回目以降に用意する書類】

  • 高年齢雇用継続給付支給申請書
  • 賃金台帳・出勤簿またはタイムカード

5. まとめにかえて

定年退職前に必要な手続きを済ませておくことで、健康保険の切り替えなどをスムーズに進められます。特に家族の被扶養者になる場合は、被保険者のサポートや被保険者の勤務先に相談する必要があるため、事前に話を通しておくのが大切です。

手続きが間に合わず、健康保険に加入していない状況で医療機関の治療や診察を受けると高額な医療費を請求されるケースがあるので注意しましょう。また、定年退職後も働く際は高年齢雇用継続給付金の受給も検討してみてください。

参考資料

湯田 浩平