4-6月期の米企業決算発表が本格化しています。今期も2桁増益となる見通しで、業績期待から米株価の動きも底堅くなっています。ただ、リスク要因も目白押しであり、好業績の割には株価は伸び悩んでいるようにも見えます。

そこで今回は、米企業決算見通しと当面のリスク要因のポイントを整理し、好業績でも伸び悩む株価の背景を探ります。

米4-6月期企業決算は20%超の増益へ、騰勢はピークアウトか

米調査会社ファクトセットによると、S&P500構成銘柄の4-6月期の利益は前年同期比+20.0%となる見通しです。ただ、予想は低めに見積もられる傾向にあり、過去5年平均では実際の業績は予想を3.2%上回っています。したがって、最終的な利益は+23.2%(=20.0%+3.2%)程度が期待できそうです。

実現すれは増益は8四半期連続、2桁増益は3四半期連続となります。ただ、増益率は1-3月期の+24.8%には届かず、増勢は鈍化する見通しです。2018年は通年で+20.4%が見込まれていますが、2019年は+10.1%と来年以降は増益率の急減速が見込まれている点には留意が必要かもしれません。

業種別ではエネルギーが+142.5%と群を抜いており、素材も+48.5%と高い伸びが予想され、通信+27.2%、情報技術+24.6%と続き、この4業種が全体平均(+20.0%)を上回る見通しです。

1年後の株価は+13.0%、株価低迷で達成時期の先送りを継続中

1年後のS&P500の予想株価は3093と、7月5日の終値2736と比べ+13.0%が見込まれています。ただし、過去10年の平均値で見ると、見通しは実際の1年後の株価を10.9%過大評価していますので、経験則からはほとんど上値が期待できないといえそうです。

ちなみに、1年後の予測値は2月以降ほどんと水準を変えておらず、3100近辺での横ばいが続いています。今年2月に2019年2月の株価は3100と予想されていましたが、それが7月になっても来年7月の予想は3100程度となっており、達成時期が後ずれしていることがわかります。年初の高値を更新できず、株価が低迷していることが背景にあります。

セクター別の1年後の予想では金融が+18.8%と最も高く、素材+17.4%、資本財+17.1%が続いています。一方、公益は+2.1%、不動産は+3.9%と伸び悩みが予想されています。

ちなみに、年初来のセクター別株価指数の実際の騰落率を見ると、情報技術が+16.5%でトップ、一般消費財+13.3%、ヘルスケア+9.0%、エネルギー+7.9%と続いています。一方、生活必需品-5.4%、通信-4.7%が低調で、規制緩和で年初には期待が膨らんでいた金融が-1.4%と伸び悩んでいます。

出遅れもあって金融株への期待は現在も高いままですが、先陣を切る形で先週発表された金融機関の業績はやや期待外れとなり株価も下落しています。たとえば、シティグループは収入が予想に届かず前日比2.2%下落、減益となったウェルズ・ファーゴが1.2%安となったほか、業績が見通しを上回ったJPモルガン・チェースも0.5%安となっています。

市場の関心の高いハイテク企業の発表予定を見ると、早い順にグーグル(アルファベット)が23日、フェイスブックが25日、アマゾンが26日、アップルが31日という順番となっており、月末にかけて予想通りの好業績となった場合には買いが集まる展開も期待できそうです。

最大の懸念はドル高、海外依存度の高いセクターに下振れリスク

米企業決算は2四半期連続で20%以上の増益が見込まれており、数字を見る限りではバラ色ですが、7月13日現在のS&P500は1月につけた年初来の高値を2.5%下回っており、業績を反映した動きとはなっていないようです。

これにはいくつかの要因が考えられますが、企業業績に直結する材料として最も懸念されているのはドル高です。これは、業績期待の高いセクターほど海外依存度が高い傾向にあり、ドル高のネガティブな影響を受けやすいからです。

S&P500採用銘柄企業の売上高は38%が海外ですが、けん引役の情報技術は58%と最も海外依存度の高いセクターであり、素材52%、生活必需品44%、エネルギー42%、資本財37%と続いています。

ドルインデックスは4月中旬から6月下旬にかけて6.6%上昇していますが、この間に新興国株価が8.6%下落しています。米利上げを背景としたドル高で新興国からの資本流出懸念が頭をもたげており、海外依存度の高いセクターでは業績の下振れリスクが高まっているわけです。

米利上げは新興国の株式市場を直撃しているほか、長短金利差の縮小により景気後退への警戒感も強まっています。7月13日現在、2年債利回りは2.59%、10年債利回りは2.83%とその差はわずかに0.24%となっています。

短期金利が長期金利を上回ることは景気後退の前兆の一つと考えられていますので、市場関係者はその差がわずかとなっていることに神経を尖らせています。

米中貿易戦争は中国経済の変調を警戒

トランプ政権は6日、340億ドル相当の中国製品に25%の関税適用すると表明、11日には追加で2000億ドル相当の中国製品への10%の関税適用を発表しました。

ただ、米GDPの規模は20兆ドルを超えており、相対的に見た場合の金額の少なさから関税の米景気への影響はほとんど無視できるレベルと見られています。

その一方で警戒が強まっているのが中国経済への影響です。中国では企業の過剰債務問題が深刻化しており、中国政府は金融危機を未然に防ぐために過剰債務の解消に取り組んでいます。その影響でインフラへの投資が抑制されて設備投資が全般的に低調となっているほか、個人消費の伸びも鈍化しています。

このように中国は構造改革の真っただ中にあり、その取り組みが景気減速を招いているなかで米中貿易戦争が勃発したことから、中国企業のデフォルトリスクが急速に高まる恐れがあるのではないかと警戒されています。

マーケットでは中国経済の変調を先取りするかのように、銅価格がこの1カ月で20%近くも急落しています。銅価格は世界経済のバロメータとしての注目度も高く、中国経済の変調が世界経済の減速へと波及することが懸念されています。

中間選挙が波乱要因、民主党が下院奪回なら閉塞感も

今年も後半に入ったことで、政治リスクとして11月6日の米中間選挙への関心が高まっています。ポイントは下院で民主党が逆転できるかどうかに絞られてきており、民主党の優勢が伝えられるようだと株式市場には暗い影を落とすことになりそうです。

定員100議席の上院では共和党の51議席に対し民主党は49議席と拮抗していますが、今回の改選35議席のうち民主党は26議席と共和党の9議席と比べて圧倒的に多く、改選26議席のうち10議席は大統領選でトランプ大統領が勝利した州ということもあって、逆転はおろか現有勢力を守れるのかどうかも怪しい状況です。

リアル・クリア・ポリティクス(RCP)の現状分析では、共和党は48議席、民主党は44議席を確保し、残り8議席が激戦区となっています。

一方、下院は435議席の全議席が改選され、改選議席は共和党が235議席、民主党が193議席となっています。過半数は218議席で共和党は17議席の余裕があります。

ただし、大統領就任1期目の中間選挙では与党が下院で敗北する傾向にあり、今回もその流れにあるようです。RCPの現状分析では、共和党が202議席、民主党が199議席、激戦区が34議席となっており、こちらはかなりの接戦となっていますので、逆転の可能性は十分にありそうです。

現在は両院を共和党が支配していますので法案が通りやすい状況にありますが、下院で民主党が逆転した場合にはいわゆる“ねじれ”議会となり、法案が通りづらくなります。

オバマ政権1期目の中間選挙でも民主党は下院で256議席から193議席へと大敗し、共和党が179議席から242議席へと躍進したことで、その後は“決められない政治”が続くことになりました。

議会にねじれが生じた場合、政治的にも経済的にも閉塞感が漂うことが予想され、株価への悪影響も避けられないと見られており、市場でも戦況が注目されています。

LIMO編集部