人生100年時代

「人生100年時代」。この言葉が急に広がってきた。きっかけはリンダ・グラットン教授の書いた「Life Shift」(原題はThe 100-Year Life、「100年人生」)がベストセラーになったことだろうか。

安倍首相が座長で、2017年9月にスタートした「人生100年時代構想会議」の委員にもその教授を招くなど、一気に日本人の「100歳まで生きる人生」というメッセージが広がった。

厚生労働省が発表した平成28年の簡易生命表によると、今60歳の男性の平均余命は83.67歳、女性は88.91歳でまだ100歳には遠い水準。

現在20歳の人でもその簡易生命表を使うと男性で81.34歳、女性で87.46歳と、実は60歳の人よりも平均余命が短いのが実態だ。これは、単純に60歳の平均余命は、60歳まで生き残った人の平均余命だから、若い人の平均余命より高いということ。

それではどこに「平均余命が100歳」という証左があるのか。厚生労働省の資料によると平均寿命(その年の新生児の平均余命)が男性で昭和40年(1965年)の67.74歳から平成28年(2016年)に80.98歳、女性も72.92歳から87.14歳へと延びている。

ほぼ50年で男性が13.24歳、女性で14.22歳延びているわけだ。10年で男性が2.65歳、女性が2.84歳、寿命を延ばしているので、現在20歳の人が40年後に60歳になるときには平均余命が男女ともにそれぞれ10.60歳、11.36歳延びているはずだということ。

今の60歳の平均余命にそれぞれ上乗せすると、男性94歳、女性100歳となる。人生100年時代という言葉は、“平均余命”で考えると、20代、30代の人たちのものというわけだ。

平均余命に騙されるな

しかし、今60歳の人にとっては“人生設計”として「人生100年時代」を考えなければいけない。なぜなら平均余命という考え方はライフプランには向かないからだ。

平均余命の計算方法は大雑把に言うと、その年からの死亡率を掛け合わせて半分の人が死ぬ年齢のこと。60歳の平均余命は、死亡率を使って計算して60歳の100人が50人になる年齢と考えるとわかりやすい。

言い換えると残り50人はまだ生きている年齢なので、この水準をもとに退職後の生活設計をすると、「その年齢以上に生きる可能性が50%ある」ことを前提にしていることになる。これでは「安心できる生活設計」だとは言い切れない。

たとえば「生存確率20%」をもとに退職後の生活年数を計算すると、60歳男性なら91歳、女性なら96歳となる。夫婦世帯なら「95歳くらいまでの退職後の生活設計」をしておく必要があるといえる。

人生100年時代が現在の若者のテーマであるなら、60歳前後にとっては95歳を前提に「人生設計100年時代」と考えるのが妥当ではないか。

年齢別の生存確率

出所:厚生労働省「平成28年簡易生命表」よりフィデリティ退職・投資教育研究所が計算

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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史