中国に借金が返せない途上国を支援しよう

軍事上の重要拠点を失わないために

中国からの借金が返せずにインフラを中国に譲り渡さざるを得ない途上国が続出しそうなので、先進国が支援すべきだ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は主張します。

中国に借金を返せない途上国を助けるべきか

中国は広域経済圏構想「一帯一路」を推進しています。そのため、「途上国に資金を貸し付け、インフラを整備させ、インフラからの収益で中国に借金を返させる」という取引を活発に行っています。

途上国にとっては、一見ありがたい取引です。自己資金がなくてもインフラが整備できて、借金はインフラからの収益で返せば良いのですから。しかし、良い話には裏があることが多いのです。借金が返せない場合には、インフラを中国に譲渡せざるを得ない可能性が高いのです。

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「中国がインフラを奪い取るために途上国をそそのかして返済不能な借金を負わせたのだ」などと言っている人もいるようですが、筆者には真偽はわかりませんし、本稿の関心はそこではありません。実際に苦難に陥っている途上国を助けるべきか否か、です。

借金は自己責任なのだから、返済できなくなってインフラを中国に譲渡せざるを得なくなったからといって、先進国が支援する必要はない、というのは正論でしょう。どうせ支援するなら本当に貧しいアフリカ諸国や災害に見舞われた国・地域を優先すべきだ、というのも正論でしょう。

しかし、筆者はそうは思いません。それは、中国に譲渡されるインフラの中には、重要な軍事上の拠点となり得るものが少なくないからです。そうであれば、米国の同盟国としてインフラの譲渡を防ぐための協力は惜しむべきではないと考えるからです。

軍事的価値のある場所を失うことになったら...

米国と中国は、30年後のハイテク経済覇権を争って、まさに経済戦争に突入しようとしています。筆者は軍事外交の専門家ではありませんが、ハイテク経済の覇権は将来の軍事上の覇権を争うための最重要課題だと理解しています。

そこで、以下は米国と中国が軍事的にも敵対している(あるいは将来敵対する可能性が非常に高いと思われている)という前提で「相手国」と記します。

ある途上国が、10の費用で港を整備中だとします。中国からの借金が返せないと港を中国に譲渡せざるを得ず、自国の領土の一部が自由に使えなくなって10の不利益を被るとします。つまり、10の借金を返せなかったので20の価値の港湾を失った、というわけです。

質屋からの借金が返せなくなって、借金の額の2倍の価値のある質草が質流れしてしまった(質屋に所有権が移ってしまった)、というイメージですね。

ところが、その港湾が中国にとっては1000の軍事的な価値があるとしたら、1000の費用で空母を作るのと同じ軍事上の利益を中国にもたらすとしたら、どうでしょうか。米国にとっては1000失ったのと同じことですね。自分は表面上は部外者であっても、相手が1000の価値がある要衝を入手すれば、パワーバランスは自分が1000だけ失ったのと同じことになるはずですから。

それならば、米国等(米国およびその同盟国)としては「中国に港湾を譲渡するのはやめてくれたら、いくらでも払う」ということでしょう。したがって、米国等から「よろしければ肩代わり返済しますよ」と申し出るべきです。あとは、10の費用を米国と同盟国で分担する割合を交渉するだけです。

こうした話をすると、「援助は純粋に援助受け入れ国のために行うものであって、援助する国の国益など考えるべきではない」といった批判を受ける場合があり得ます。しかし、本件の場合、10を援助することで、援助を受けた途上国は20の利益を得るわけですから、「偶然、それが援助国の利益にもなった」としても問題視されるべきではないでしょう。

米中の覇権争いと途上国のモラルハザード

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塚崎 公義

1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ。
現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と関係なく個人として行なっているため、現職は経済評論家と表記したものである。
(近著)
なんだ、そうなのか! 経済入門
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(雑誌寄稿等)
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