「しつけはしっかりすべき」と思いますよね。子どものしつけは大切なことですが、しっかりし過ぎると逆効果になることもあるのをご存じですか。しつけといっても、何をどこまですべきかは難しいものです。実は子どもにしつけをし過ぎている人も多いかもしれません。
しつけで疲弊する親たち
しつけとは、子どもが社会で心地よく生きれるように導くことを目的とします。たとえばトイレ・トレーニングもそうですし、ご飯は座って食べる、順番ですべり台を滑る、病院では騒がないなど、しつけにも沢山の種類がありますよね。
ところが一回言ったところで、子どもは聞いてくれないものです。何十回言ってもわからないし、自分はやりたくない、遊びたいと我慢できないのが子どもというもの。時に大人には理解できないことに固執して嫌がったり、大泣きして抗う子もいます。
親としては疲れてしまいますよね。特にワンオペで育児をしていると、毎日できない子どもに「早くできるようになってよ!」と苛立ってしまうことも。周囲と比べては「うちの子はトイトレに何カ月もかかってる」と落ち込むこともあるでしょう。「結局今日もスーパーで大泣きで恥ずかしかった」と、周囲の目も気になるものです。
コントロールのし過ぎは「他律」に
親は「子どものために良かれ」と思ってしつけをします。アレコレ教えては、できるだけ早く、しっかりするようにしつける。それが子どものためであり、さらに言えば「親のため」という気持ちもあるでしょう。子どものしつけがしっかりできれば親は助かりますし、周囲からも良い目で見られますから。
しかし児童精神科の佐々木正美先生は「強制が強すぎる育児というのは、子どもの中に自律心が育たない」(『子どもへのまなざし』佐々木正美著 福音館書店)と指摘します。なぜなら「子どもから見れば、それは他律ですから。ほかの人がコントロールしているのです」(同著)。
子どもをコントロールし過ぎてしまうと、その後も子どもは何をするにも親に決めてもらうようになってしまいます。それでは親が求める本当の「自律」は叶えられませんよね。
できるようになる時期は子どもに決めさせる
では、どうすればいいのか。あれはしない、こうすべきと子どもに教えたら、あとは「積極的に実行しようとする気持ちや機能が熟してくるのを、子ども任せにして待っていてあげることなのです。そしてその時期は、子どもに決めさせてやる、自分を律することができる時を、子どもに決めさせてあげるというのがたいせつなことなのです」(同著)と佐々木先生は言います。
時期を子どもに決めさせるということは、すぐにできるようにはならないということです。何十回どころか、何百回も言うことになるでしょう。周囲から後れをとることもあるでしょう。親が恥をかくこともあるでしょう。それでもその時期を子どもに決めさせることで、その後も自分を律することを学ぶことができるのです。
期待値の差で親が楽になる
子どもができるようになるのを待つのは、親としては我慢が必要になり、ヤキモキしますよね。ただ初めから「すぐにはできない前提」で子どもを見るので、期待値が低く設定されます。子どもの小さな失敗でイライラしたり、すぐに怒ったりせずに済むでしょう。注意する回数も減り、励ましては教えるだけですので、子どもも萎縮せずにすみます。
一方で、しっかりしつけをしようと思うと、「この子はすぐにしっかりとできるはず」と期待値が高く設定されます。ちょっとでも子どもがイヤイヤしたり、失敗すればイラッとして怒ってしまうでしょう。子どもにかける言葉も、「全くもう!」「もっとしっかりしてよ!」とマイナスになりがち。毎日「何十回言ってもわからない」と溜息をつくことになるでしょう。
しつけの主役が変わる
他の子と比較してしまったり、周囲の目が気になることもありますよね。「子どもに時期を任せる」と考えると、しつけの主役が子どもになるので、こういったときも少し気が楽になります。「我が子の時期を見守ろう」と思えるでしょう。
「しっかりしないと」と考えると、しつけの主役が大人になるので、「子どもをしつけられない自分はダメ親だ」と自分を責めることになるでしょう。実際はその責め方も見当違いなのですが、焦りでさらに子どもに厳しくなってしまいがちです。
実際は子どもができるようになるのを待つ方が、精神的な負担も減るのです。人間相手、それも子ども相手のことですから、しつけも頑張り過ぎないようにしましょう。
宮野 茉莉子