半導体をめぐる台湾と中国の駆け引きを背後で見張るトランプ政権

貿易摩擦と米国が懸念する「知的財産権の侵害」

半導体製造業で「世界の巨人」と呼ばれる台湾企業

中国が世界の工場として発展してきた過程で、台湾の企業は中国に進出したり、中国企業と合弁したりして、中国での生産・製造を支援してきました。

台湾の企業といえば、日本のみなさんは、おそらくシャープを買収したホンハイ(鴻海科技集団)の名前が浮かぶ方が多いのではないかと思います。ホンハイは、1980年代から進んだEMS(電子機器受託生産)で業績を伸ばし、世界的な企業にのし上がりました。

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一方で、台湾に本社機能を置くものの、生産の多くは世界の工場と言われてきた中国で行っているという特徴があります。6月8日には、ホンハイの中国子会社が上海に上場しました。時価総額ベースで見ても、その規模は子会社というレベル感を超えており、話題になりましたね。

1970年代の終わりに産業高度化の必要性を嗅ぎ取った台湾政府は、米国で活躍する台湾系エンジニアとの連携を図りながら、台北の南にある新竹という街で米国シリコンバレーの成功経験に倣ってハイテク産業育成に着手しました。その一環として1980年には、政府直属の新竹科学工業園特区が開設されています。

以後、新竹周辺の研究開発機関や大学機関との密接な連携を取って、多くのスタートアップ企業がインキュベートされました。1990年代には海外からの受託生産で大きな商機を得て急成長を遂げるなど、新竹のハイテク産業は半導体や情報通信機器のグローバル・サプライチェーンにおいて確固たる地位を築き、台湾のGDPの約1割に寄与しています。新竹は、新興工業国における政府主導型ハイテク産業育成の成功モデルとも言われます。

ところで、ホンハイ本体を時価総額では遥かに上回る台湾企業があります。それは、TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Co., Ltd.、日本では「台湾集積回路製造」) 社です。半導体製造業では世界の巨人と言われる企業です。

半導体製造業では、近年は半導体の設計に特化して生産ラインを持たないファブレスと呼ばれる会社と、半導体そのものの製造に特化するファブ(半導体製造企業)と呼ばれる会社に分化し、設計と製造が分業されています。TSMC社は、半導体製造で世界シェアが50%を超えると言われている巨大企業です。

台湾には、こうした自社ではブランドを持たず、しかし高度で高品質な製品をより効率的に製造することに特化するB to B企業が多くあります。私たちは、製品やブランドを通して企業を認知することが多いので、知名度のある企業といえば、どうしても消費者との接点を持つB to Cの企業に偏ります。しかし、台湾での製造業のあり方を見るにつけ、今後、ハイテク分野ではますます分業化専業化が進むのではないかという思いを強くしました。

半導体生産で後れを取る中国に、台湾・米国の対応は?

生産コストの安さから、生産拠点を中国に持つことは世界の企業に巨額な利益をもたらしました。一方で、その過程で最新技術やノウハウなどが中国に移転していきました。トランプ政権が問題視する「知的財産権の侵害」とはまさにこのことを指しています。一例ですが、液晶などは日本や台湾などから技術移転が起こり、今では中国企業が市場を席巻しています。

「知的財産権の侵害」として米国が懸念していることの一つに、半導体の技術があります。半導体の需要は今後も増加が見込まれています。IoT化で世の中のあらゆる電化製品がデバイス化する見通しの中、このトレンドは今後も加速するでしょう。現在でも、中国は世界の半導体消費の30%を製品生産のために必要としています。

しかし、中国国内では、まだ半導体の生産はうまく行っていません。中国は好条件を提示して、台湾からファブ(半導体製造企業)を誘致したり、政府が資金を提供し人材や技術を導入したりして、中国企業による国内での半導体生産に向け、てこ入れを図っています。

ファブ企業の中国子会社の半導体生産は始まりましたが、生産される半導体は二世代前の型に止まっています。そして、中国が独自に立ち上げた半導体工場では、まだ本格的な製造に至っていません。中国は、液晶生産でうまく行った戦略を採ってきましたが、こと半導体に関しては機能しているとは言い難いのが現状です。

台湾は半導体の最新技術が移転してしまうことを恐れており、最新技術を持ち出すことを制限しています。ファブ企業は中国子会社を作り、中国国内で半導体生産を始めて中国国内に供給する半導体の一部をまかない、中国政府の顔も立てています。しかし、技術移転には非常に慎重な姿勢を維持しています。その間にも、ファブ企業は台湾での最新の半導体の生産を拡大させて、追い付かれないように、さらなる進化を遂げようとしています。

米国は、中国と台湾の関係が冷え込んでいることもあり、台湾のこうした姿勢を後押ししています。半導体の生産とその技術の獲得競争は、今後、軍事的にも重要であることは言うまでもなく、経済面での覇権にも影響を与えかねません。米国は、台湾を支援して技術移転を抑制する一方で、中国には知的財産権の侵害を訴えて、貿易摩擦を仕掛けているとも言えます。トランプ政権も実にしたたかです。

Nippon Wealth Limited 長谷川 建一

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長谷川 建一
  • 長谷川 建一
  • ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク
  • 取締役兼CIO (Chief Investment Officer)

京都大学卒、MBA(神戸大学)。 シティバンクグループ日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。
2004年末、東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)に移り、リテール部門マーケティング責任者として活躍。2009年からは国際部門でアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク)にてCOOに就き、2017年3月よりCIOを務める。