ワンオペ育児とは、「主に母親が1人で育児・家事・仕事などをこなす」こと。「母親なんだから育児も家事もできて当たり前」と、多くの人が疑わないことでしょう。そして「母親であること」だけに安心し、母親1人に育児を任せきりにするのです。
時代を振り返ってみれば、以前は祖父母や隣近所の大人や子どもたちなど、大勢で子育てをするのが一般的でした。ワンオペ育児が主流となったのは、人類の長い歴史で見てもごく最近のことです。母親になっただけで、本当に育児は1人でできるのか。今それを問うべきときがきているように思います。
孤独と密室が引き起こす問題
ワンオペ育児は母親が「孤独」な状態で、「自宅という密室」にて朝から晩まで日々行われています。知識も経験もほぼゼロの育児初心者である母親が、子どもを産んだからという理由だけで、たった1人で子どもを育てる。それゆえに起こる問題を考えてみましょう。
(1)「1人のときの自分モード」で育児をする
現在筆者も子ども3人のワンオペ育児中です。以前は転勤族でワンオペ育児が当たり前でしたが、定住後、時々実母や義両親に手伝ってもらうようになりました。手伝いに来てもらうようになってから気付いたのが、「ワンオペ育児と他人がいるときでは自分が子どもにとる言動が違う」ことです。
誰しも「1人でいるときの自分」と「他人と一緒にいるときの自分」は違うでしょう。1人でいるときは自分の欲が解放されやすくなりがち。ワンオペ育児では「1人でいるときの自分モード」で育児をしてしまうのです。
たった1人でも「他人の目」があれば、普段より子どもへの言動が柔らかくなり、怒りが沸騰しにくくなります。少しのことでは怒らず、根気よく教えることができる状態が、1日中ほぼキープできます。実母や義両親が見ているのですから、当たり前とも言えるでしょう。ただ、昔はこれが当たり前だったと考えると、昔と今の当たり前の差に問題を感じます。
(2)視点を変える人がいない
ワンオペ育児では、母親1人の考え方で育児がなされます。母親と言っても育児初心者ですから、勘違いや間違いもしばしばあるでしょう。しかしそのことに気付かせてくれる人がいません。
たとえば子どもがお母さんにお茶を汲もうとして、急須からお茶を汲んだものの、こぼしたとします。母親1人だと子どもを叱り、こぼした後始末のことばかり考えてしまいます。ここにおばあちゃんがいると「お手伝いしたかったんだよね?」と子どもの気持ちを汲み取ったり、「途中までは上手に汲めたじゃない」とかえって褒めることもあります。
これらに助けられるのは、子どもだけではありません。母親も気付きや学びを与えられますし、視点が変わることで気も楽になるのですが、ワンオペだとこの機会がなくなってしまうのです。
(3)ストレス発散ができない
よく「育児中は自分の時間がとれない」と言いますが、それどころか毎日トイレにも満足に行けないレベルです。この状態ではストレスが溜まって当然ですが、子どもを見ながらでは、数々あるストレス発散法もすることができません。
さらにストレスを助長しているのが、大人と会話ができないことでしょう。特に女性は、話をすることでストレス発散する生き物です。けれどもワンオペ育児、特に1人目が未就園児のうちは「この1週間、大人といえば宅配便の人とスーパーの店員さんとしか会話をしていない」ということはザラでした。
初めて育児をする母親ですから、分からないこともあるでしょう、不安もあるでしょう、寝不足やお世話で疲れているでしょう、相談したいことは山ほどあるでしょう、愚痴も出てくるでしょう。これらを全く話すことができないのですから、相当のストレスが溜まるのではないでしょうか。
自分から行かねばならない支援センター
各自治体では、児童館や子育て支援センターなど、未就園児が集まれる場所を用意しています。孤独や密室の問題を解消するためには、そういった場所に出向くのも一つでしょう。
ただ、「1回も行ったことがない」「そこで会ったママと話せても挨拶程度で終わってしまう」「既にできているママ友の輪に入れなくて行きにくくなった」「うちの子だけ成長が遅くて心配になるから行くのを止めた」という声もよく聞きます。平日はいつでも開館している場所もあれば、月1回イベントを開催する場所もありますが、人見知りなママにとっては厳しいようです。
家族や地域全体で子育てをできなくなった今、自治体で未就園児のママを定期的に集めるのも一つの手ではないでしょうか。子育て情報を伝えたり、手遊び歌などの遊び方を教えたり、保健師などが育児相談にのったり、母親同士が交流する機会が整えられれば、母親の孤立化を防ぐことができます。
特に1人目の未就園児を持つママは、何もかも初めてですし、園との繋がりもないためそういった機会が必要に思います。同じメンバーと月2回程度集まる機会があれば、人見知りのママも話ができやすいでしょう。「母親だから大丈夫」と言わず、育児初心者の母親をサポートする体制を考えてほしいと願います。
宮野 茉莉子