5.2 特別支給の厚生年金の年齢引き上げにより矛盾が生じる
国の審議会では「特別支給の老齢厚生年金と加給年金の存在は矛盾する」との指摘もされています。昭和60年の年金改正で、年金の受給年齢が60歳から65歳に引き上げられました。
この引き上げをスムーズに完了するために支給されているのが特別支給の老齢厚生年金です。
特別支給の老齢厚生年金は、男性が昭和36年4月1日以前、女性が昭和41年4月1日以前に生まれた人に対して支給されています。
特別支給の老齢厚生年金は、早くて60歳から支給が始まる年金です。もし配偶者が特別支給の老齢厚生年金を受給した場合、たとえ自身が加給年金の要件に合致していても、加給年金は受給できません。
つまり、一定の世代にとっては加給年金の制度自体が全く利用できない可能性があるのです。特別支給の老齢厚生年金の支給対象者は、まさに「働く男性」と「家庭に入る女性」であり、本来役割を果たすべき加給年金が十分に活用されていないといえます。
5.3 そもそもの加給年金の存在意義が問われている
「加給年金の制度自体が現代にそぐわない」というのも加給年金の問題点です。加給年金は、前述のとおり働く夫が家庭を支える妻や独り立ちするまでの子どもを養うために支給されてきた年金です。
しかし、現代では女性の就業率や単身世帯が増加しています。そのため、加給年金がなくても女性の厚生年金受給額が増える見込みがあったり、単身世帯と夫婦世帯の不公平性が著しくなってきたりしています。
現代において加給年金の制度自体は決して必要性が高くなく、むしろ年金受給額の格差を広げてしまう可能性すらあるのです。
政府も社会保険の適用を順次拡大してきており、将来的には誰もが国民年金や厚生年金を受け取れる可能性が増えます。加給年金の制度自体が本当に必要かどうかは、今後も議論の対象となりそうです。
6. まとめにかえて
加給年金は昭和29年の時点では優れた制度でしたが、時代が進み働き方やライフスタイルが多様化したことで、役目を十分に果たせなくなってきています。とはいえ、現在も加給年金を受け取っている人や、加給年金の受給を見越している人にとっては「急に加給年金が廃止されては困る」と感じるでしょう。
年金制度がより時代に即したものになるには、早急な見直しと経過措置、制度の段階的な廃止・停止などが必要です。年金改正まで残された時間は多くありませんが、少しでも私たちが利用しやすい制度になることを願いましょう。
参考資料
- 日本年金機構「加給年金額と振替加算」
- 厚生労働省「年金制度の仕組みと考え方 第5 公的年金制度の歴史」
- 厚生労働省「これまでの年金部会における主なご意見」
- 厚生労働省「老齢年金の繰下げ制度」
- 日本年金機構「特別支給の老齢厚生年金」
- 厚生労働省「令和4年4月から加給年金の支給停止の規定が見直されました」
石上 ユウキ