調査会社の米ICインサイツは、2018年の半導体設備投資額が史上初めて1000億ドルを超える見通しになったと発表した。当初は17年比8%増の970億ドルを見込んでいたが、1~3月期のアップデートで6ポイント引き上げ、同14%増に見直した。

 17年の半導体投資は、韓国サムスン電子が投資額を大きく引き上げたことで900億ドルに達したが、サムスン電子の18年投資額は17年実績を下回る見通しだ。ただし、18年1~3月期のサムスンの投資実績は67億ドルとなり、これは前3四半期の平均をわずかに上回った。ICインサイツは、18年のサムスンの投資額を17年比で42億ドル少ない200億ドルになると予測しているが、1~3月期の堅調な投資を考慮すると、通年ベースでは200億ドルを上回る可能性があるとみている。

 一方、上方修正に寄与したのが、同じく韓国のSKハイニックス。引き続きDRAMとNANDの需要が旺盛なことから、同社は設備投資額を17年の81億ドルから18年は115億ドルへ42%も増額する見通しとなっている。

 この背景にあるのが、韓国・清州の3D-NAND工場「M15」と、中国・無錫のDRAM工場の拡張だ。清州工場は18年末の稼働を予定しており、無錫工場は当初稼働予定だった19年初頭を数カ月早めて18年末までの操業開始を目指している。

メモリー好調で18年も市場成長2桁に

 世界の半導体メーカーが組織する業界団体WSTS(世界半導体市場統計)によると、17年の半導体市場は前年比で21.6%の成長を遂げたが、この7割前後をメモリーの市場成長が占めた。DRAMとNANDの需要増加、それに伴う需給のタイト感で価格が上昇したことが要因。なかでも量産メーカーがサムスン電子、SKハイニックス、米マイクロンテクノロジーの3社に限られるDRAMは特に逼迫感が強く、最先端品を量産できるサムスン電子はDRAMで「6割を超える営業利益率を上げている」といわれる。

 WSTSは先ごろ、メモリーの高値継続を背景に、18年の半導体市場も12.4%と2桁成長が続くとの最新予測を発表した。メモリー半導体メーカーが巨額の利益をもとに増産投資に注力していることが半導体製造装置の需要を押し上げ、半導体業界の未曽有の好景気を演出している。だが、逆に言うと、メモリー市況に変化があれば半導体市場の成長率を大きく引き下げることにもなる。

米中貿易摩擦に半導体が利用されている

 メモリー市況に変化を及ぼす不安要素として、まず苛烈化する米中の貿易摩擦が挙げられる。米国は、通信機器の不正輸出に対する制裁措置として、中国の通信機器メーカーZTEに対して、今後7年間にわたって米国企業との取引を禁止すると表明。これによりZTEは米国から半導体を調達できなくなり、スマートフォンを生産できなくなるなど、事業停止に近い状態へ追い込まれた(先ごろ、ZTE経営陣の刷新と罰金10億ドルの支払いを条件に米国が制裁を解除することに合意した)。

 さらに米国は、追加関税措置として、中国製テレビに25%の輸入関税をかけようとしている。実施するかはまだ流動的だが、中国のテレビメーカーは事の行方を見極めるため液晶パネルの新規調達に消極的になっており、中国や台湾の液晶パネル各社が徐々に在庫を抱え始めている。

 こうした米国の措置の対抗策かは定かでないが、中国はメモリー半導体に関して独占禁止法違反の疑いがあるとして調査に入ったと報じられた。これはサムスン電子とSKハイニックス、マイクロンの3社が独占的地位を利用して「儲けすぎ」と指摘したことに他ならない。

 現在のメモリー半導体メーカーの増産計画を鑑みれば、増産が寄与してくる19年半ばごろにはDRAM価格が下落に転じるのではないかと推測される。だがそれまでの間、貿易交渉で「中国にもっと米国製半導体を買わせたい」と考える米国、「だったらもっと価格を下げ、独占せず中国企業にも参入機会を与えろ」と主張したい中国、それぞれの思惑がメモリーの価格やシェア動向に影響を及ぼす可能性がある。

Facebook問題でデータセンター投資に一服感か

 個人情報の流用問題で厳しい追及を受けている米Facebook。先ごろもファーウェイなど中国4社を含む60社余りとデータを共有していたことが明らかになり、個人情報の取り扱いを巡って世界各国で社会問題化している。Facebookのようなクラウドビジネスを大規模に展開する企業にとって、個人情報や顧客データをどこでどのように管理し、どう取り扱うかには、今後ますます社会から厳しい目が向けられるようになるだろう。

 これがメモリー半導体に関連するのは、Facebookが自社のデータセンター整備に毎年多額の設備投資を行い、大量のDRAMやNANDを消費しているためだ。Facebook、アマゾン、マイクロソフト、グーグル、アップルというIT超大手5社の設備投資額は、17年実績ベースで1400億ドルにものぼる。このすべてをデータセンターの整備に費やしているわけではないにしろ、5社の旺盛なデータセンター整備が莫大な半導体需要を生み出していることは疑う余地がない。

 Facebook問題の成り行きを見極め、その間に自社の顧客データ保護ポリシーを再構築するといった作業を進めるなら、IT超大手5社のデータセンター投資は一時的にスローダウンする可能性がある。ここでメモリーの調達にブレーキがかかるようなら、DRAMやNAND価格の軟化、ひいてはそれがメモリー半導体メーカーの増産計画の変更・遅延にまでつながっていくことも想定される。

(津村明宏)

電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏