シンギュラリティという言葉を耳にしたことがあるでしょうか。人工知能(AI)に関するニュースなどでたびたび話題になっているため、気になって調べてみたという方も多いかもしれません。
あわせて話題になるのが「AIによってなくなる職業」についてです。今まで人間が行っていた仕事をAIが代替するため、その職業がなくなるのではないかという予測です。
今回は、シンギュラリティという言葉の意味を解説すると同時に、背景となるAIの進化についてや、それに伴い影響を受ける職業についてもご紹介します。
目次
1. シンギュラリティとは何か
2. シンギュラリティの到来はいつ?
3. シンギュラリティは本当に起こる?
4. シンギュラリティの影響は?
5. AIの到来で影響を受けやすい職業
6. 指数関数的な技術進化に向き合い世界を変えるシンギュラリティ大学
7. 仮想通貨の新たな可能性を提供するシンギュラリティネット(AGI)とは
8. おわりに
シンギュラリティとは何か
シンギュラリティとは「技術的特異点」を意味します。高度に発達したAIが人類の知能を超え、我々の生活に大きな影響を及ぼすという概念です。AIの権威として知られているレイ・カーツワイル博士によって提唱された「未来予測の概念」です。
今まではコンピューターが人間を超える可能性は少ないと考えられてきましたが、人間の脳のしくみを模倣したディープラーニングという技術が普及したことでAIが飛躍的に進化し、シンギュラリティも現実的なものと考えられるようになりました。
シンギュラリティの到来はいつ?
シンギュラリティがいつ起こるのか、非常に気になるところです。人工知能の権威であるレイ・カーツワイル博士は、2045年までにはシンギュラリティに到達するだろうという見解を示していることから「2045年問題」とも呼ばれています。2045年と聞いて「まだ当分先の話だ」と考えるのか「もう間近に迫っているではないか!」と焦ってしまうのかについては、個人の感想に任せられるところです。
シンギュラリティは本当に起こる?
シンギュラリティに関してみなさんが真っ先に考えるのは「本当にそんなことが起こるのだろうか?」という疑問でしょう。仮に起こるとすれば、どんな影響があるのでしょうか。
かつてソフトバンクグループの孫社長が、将来的にAIのIQは人間の100倍以上になるだろうと述べました。(※1)
将来的にはという表現は曖昧なので、より具体的な実例を挙げると、Googleの子会社ディープマインド社が開発したAI囲碁ソフトのAlphaGoが、プロ棋士との対局で5勝1負という大勝利を収めています。
AlphaGoの場合は、囲碁という特定の分野だけを学習した特化型AIと呼ばれるものです。現在のAIは囲碁の対戦のみ、画像認識のみ、音声認識のみ、というように一部の領域において、すでに人間を超えています。孫社長が挙げたのは、特化型AIより先の汎用型AIと呼ばれるものでしょう。これは、分野や領域を問わずに人間と同じように判断ができる人工知能のことです。まだ汎用型AIは実現しておらず研究が進められている段階ですが、汎用型AIの実現がシンギュラリティに繋がると考えられています。
※1 参照元:【ビジネス+IT】孫正義社長が語る「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」ARM、ワンウェブ買収のねらい
シンギュラリティの影響は?
シンギュラリティによって人類が受ける影響には、どんなものがあるのでしょうか。悲観的に捉える人の間では、それこそ映画の世界観のような、人類にとって悲劇的な末路に繋がるような予想がされているかもしれません。
また、その一方で、我々人類にとって恩恵をもたらしてくれるものであると前向きに受け止めている人たちがいることも事実でしょう。
AIの到来で影響を受けやすい職業
シンギュラリティに至るまでの変化として注目を集めているのは、AIの進化が我々に及ぼす影響についてです。オックスフォード大学の教授が発表した論文では、シンギュラリティを待たずとも10年~20年後には約半数の仕事がAIやロボットによって代替可能だとされ、大きな話題になりました。
例えば、バスやタクシーが自動運転になり運転手が不要になる可能性や、他にもAIが自動でプログラミングすることによりプログラマーが失職する可能性についてです。
自動運転の実験は、昨今、国内外を問わず積極的に行われており、残す問題は技術面ではなく法整備であるとまで言われていますが、アメリカで試験運転中に死亡事故が起きたことからも、実際の導入も踏み切るには人間の運転手の感覚に到達するのは遠いようです。
同じように影響が懸念される職業としてプログラマーがあります。プログラミングはAIの得意分野であることから、プログラマーの間でも不安を口にする人たちが出てきました。
法律事務所の事務員であるパラリーガルも、既にアメリカではAIに任せる試みが行われており、事務職などのホワイトカラーに及ぼす影響が高いのではないかという見解も示され始めています。
指数関数的な技術進化に向き合い世界を変えるシンギュラリティ大学
アメリカのシリコンバレーを拠点にする教育機関に、シンギュラリティ大学(Singularity University)があります。これは前述のレイ・カーツワイル(脳科学者・発明家)と、Xプライズ財団CEOのピーター・ディアマンティスが発起人となって設立したものです。
シンギュラリティ大学は、加速度的に発展し続ける技術によって人類にとって最も困難な課題(Global Grand Challenges)である教育やエネルギー、貧困などの多岐にわたる問題を解決することを目的に活動しています。ただ、大学と銘打ってはいますが、公益企業であり学位の授与はありません。通常の大学と同様に教育と研究を中心に活動するほかベンチャー企業の育成にも力を注いでいます。
プログラムも豊富に用意されており、中でも夏季に開催されるGlobal Solution Program(GSP)では、80人の枠に対して数千人の応募が世界中から殺到したといわれています。10週間にわたる大学滞在中に、地球人類規模の問題に関する解決策、技術についての講義が行われ、経営層向けのプラグラムはかなりの高額ですが、世界中から企業の上層部の人間が受講のために集まります。
シンギュラリティを生み出す指数関数的な技術進化(エクスポネンシャル・テクノロジー)に向き合い、新たなイノベーションを生み出す組織として世界中から注目されている大学です。
仮想通貨の新たな可能性を提供するシンギュラリティネット(AGI)とは
AIに関する取り組みのなかで、シンギュラリティネット(AGI)という仮想通貨が登場しました。これはAI間で取引を行うために作られたもので、通貨単位はAGIです。イーサリアムというブロックチェーン技術を使った仮想通貨(トークン)で、人工知能開発者であるベン・ゴアールツルがCEOを務めています。
シンギュラリティネットは、AI同士で連携し、AIが他のAIに作業を依頼したときに支払われる目的で開発されました。AI同士がやりとりする通貨と考えるとイメージしやすいでしょう。開発者は主に大手企業によって開発が進められているAIに対して、能力の及ばない個人の所有するAIでも収益が得られるシステムとしてシンギュラリティネットを開発したとされています。
おわりに
AIが進化することでコンピューターが人間の知能を超えてしまうというシンギュラリティが起こり、私たちの生活に大きな影響を及ぼすと考えられています。また進化の過程で多くの職業がAIに代替される可能性があり、自分の職域が脅かされるかも知れないと考えると、不安になる方もいると思います。
しかし違う捉え方をすると、代替可能な業務はAIやロボットに任せることで、人間は、人間にしかできない創造的な業務や高度なコミュニケーションが櫃世になる業務に時間を使うことができるようになります。そういった意味では、人間の良きパートナーとして、仕事はもちろん、日常の生活やコミュニケーションを支える存在でもあるのです。
シンギュラリティが起こるかどうかは現時点ではわかりません。しかし、たとえシンギュラリティが実現したとしても、AIと人間が共存し発展する未来においては決して脅威ではないのではないでしょうか。
LIMO編集部