本記事の3つのポイント

  • 関西医科大学とテクリコが開発した「リハまる」は、ヘッドマウントディスプレーを用いて、高次脳機能障害などが疑われる患者の目の前の現実世界に、仮想のオブジェクトを表示した状態で作業・理学療法などのリハビリを行うことができる
  • VRは現実世界とのつながりがない、気分不良をきたしやすいといった課題があり、現実世界とのつながりがあり、気分不良をきたしにくく、身体活動の併用が容易な現実世界と仮想世界を融合させた世界を創るMR技術を開発した
  • 入院中の患者のうち、研究協力が得られた39人(認知症、脳疾患の既往者は除外)に対して従来の紙面課題とMR介入を比較導入したところ、MR介入後は注意機能が向上するばかりか、眼球運動数の増加など従来と異なる注意検査が改善した

 関西医科大学のリハビリテーション医学講座 長谷公隆教授らの研究チームと、ITコンサルティングやソフトウエアの設計・開発・運用などを手がける㈱テクリコ(大阪市北区)は共同で、MR(Mixed Reality:複合現実)を活用した認知機能改善リハビリテーション治療システム「リハまる」を開発した。

「Microsoft HoloLens」を採用

 リハまるは、マイクロソフト社製ヘッドマウントディスプレー「Microsoft HoloLens」を用いて、高次脳機能障害の出現や認知機能の低下が疑われる患者の目の前の現実世界に、仮想のオブジェクトを表示した状態で作業・理学療法などのリハビリテーションを行うもので、世界初となるMR技術とリハビリ検査・治療を融合させた治療法である。

 長谷教授らの研究チームは今後、エンターテインメント性の高いリハまるによる治療継続意欲の向上、プログラム次第で自由にカスタマイズできる治療発展性、高精度情報の自動収集による治療の効率化、および電子データの特性を活かした高い検証可能性を実証し、高次脳機能障害や認知機能低下に対する治療効果の確認を目指す。

身体運動と認知課題の同時治療が必要

 認知症とアルツハイマー型認知症の一歩手前の段階といわれる軽度認知障害(MCI)は、65歳以上の高齢者の4人に1人の比率とされ、いずれも注意機能障害が頻繁にみられる。注意機能障害に対する評価やリハビリテーションは非常に重要であり、MCIの段階で早期に発見し、早期に対策を取ると、症状の改善や進行を遅らせる可能性があるとされる。

 また、同じく年齢に比例して増える運動認知リスク(MCR)症候群は、認知症ではないが、自覚的な認知症状があり、歩行速度が遅いものの、日常の動きには支障がないという特徴がある。これらに対して、身体運動と認知課題を同時に実施できる治療の開発が必要となっている。

 VR(Virtual Reality)を用いて、高齢者の実生活に関連のある課題や、意欲をもって課題に取り組める設定を用意したところ、従来の紙による課題の取り組みよりも良好な結果が得られている。しかし、VRは、現実世界とのつながりがない、気分不良をきたしやすい、身体活動の併用が制限されるといった課題があり、長谷教授らの研究チームとテクリコは、現実世界とのつながりがあり、気分不良をきたしにくく、身体活動の併用が容易な現実世界と仮想世界を融合させた世界を創るMR技術を開発した。

MRはトレーニングと検査両面で効果

 すでに、関西医科大学附属病院整形外科に入院中の患者のうち、研究協力が得られた39人(認知症、脳疾患の既往者は除外)に対して従来の紙面課題とMR介入を比較導入したところ、MR介入後は注意機能が向上するばかりか、眼球運動数の増加など従来と異なる注意検査が改善した。

 長谷教授はMRについて、トレーニングとして高齢者の認知・注意機能を改善する効果がある、脳卒中後の高次脳機能障害の改善効果がある、楽しみながら継続できる、バリエーションが豊富であり適切な難易度に調整が可能、枠のない視覚探索課題は日常生活に近い、検査としては3次元であるため、紙面よりも実際生活を反映しやすい、従来の検査では検出できなかった症状を明らかにする、ヒューマンエラーが少なく、データ解析が容易と説明した。また、今後の課題として、興味の維持、治療効果拡大のためのコンテンツ開発や臨床データ集積による有用性の検証(評価・治療)の必要性を挙げた。

電子デバイス産業新聞 大阪支局長 倉知良次

まとめにかえて

 VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などはゲームなどエンターテイメント分野で応用が進むほか、医療分野でも手術現場のサポートとして普及が進んでいます。遠隔地にいるベテラン医師などが手術者に対して、対象部位をマーキングすることで、口頭での指示よりも正確にアドバイスを行えます。今回、MRを用いてリハビリ分野への応用を目指す取り組みは、今後の医療分野におけるVR/AR/MRの新たな用途開拓として注目を集めることになりそうです。

電子デバイス産業新聞