はじめに

「より自分の希望する職務に就きたい。」と考えている場合、運に任せて会社の人事から声がかかるのを待っているだけでは、なかなか希望通りにはなりません。そこで、自分から積極的に行動する方法のひとつとして、スキルアップやキャリアアップがあげられることが多いのですが、「具体的には何をしたらスキルアップになるの?」「スキルアップとキャリアアップは何が違うの?」等々、疑問に思っている人も多いのではないでしょうか?

この記事では、スキルの定義、スキルアップのために必要なこと、キャリアアップとの違いについて説明します。

目次

1. スキルとはなにか
2. スキルの種類とビジネススキル
3. テクニカルスキルとはなにか
4. ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルとはなにか
5. スキルアップの方法とその活用方法
6. スキルアップとキャリアアップの違い
7. スキルアップの必要性

1. スキルとはなにか

スキルとは、技量や手腕のことであり、何らかの物事を行うために必要とされている能力を指します。先天的な能力ではなく、訓練を通じて身につけた能力、といいかえたほうが、わかりやすいかもしれません。

スキルという言葉を日本語に置き換えるとき、技能と表現することもありますが、そもそも技能という言葉は、筋肉や神経系統の働きに関する能力といった意味合いが強い言葉とされています。それに対して、スキルには、知識や態度といった要素もプラスされますので、技能よりも、より広い意味を持つ言葉ということができるでしょう。実際には技能という言葉に置き換えられることなく、スキルという言葉を、そのまま使うケースがほとんどのようです。

スキルという言葉は、実に様々な場面で用いられます。特によく用いられるのはビジネスシーンです。例えば、次のような能力は、すべてビジネスにおける大切なスキルということができます。

  • 自分にできるだけ有利な条件を、相手に納得してもらうための「交渉力」
  • 自分が売りたい商品やサービスを、お客様により魅力的に感じてもらうための「提案力」
  • 相手が言わんとするところを、表情や雰囲気といった会話の全体から読み取って理解する「傾聴力」

上記の例のような、ビジネスに必要とされるスキルには、簡単にできそうで、実はなかなかできないといったものが実に多くあります。このため、希少価値のあるスキルを有している人材は、より高いキャリアを積むことができるようになる可能性が高いといえるでしょう。

2. スキルの種類とビジネススキル

スキルの中でも、特にビジネスを円滑に行うために必要とされる様々なスキルのことを、「ビジネススキル」とよびます。先に説明した交渉力や提案力もそうですし、他にも共感力や問題解決能力といったものも、ビジネススキルの一種ということができます。そして、このビジネススキルに含まれる能力を一覧にしようとすると、業種や立場によっても、必要とされるスキルは異なりますから、ものすごいボリュームになってしまうことでしょう。

ビジネススキルのうち、社会人になったときに、最初に身につけなくてはいけないとされているものが、ビジネスマナーです。このため、多くの企業が、新人研修の一環として、ビジネスマナー研修を実施しています。基本的な挨拶、名刺交換の仕方といった基本的な礼儀はもちろん、企業によっては、正式配置後に円滑な業務遂行ができることを目的として、コミュニケーション力を高めるためのグループ学習といったことを実施するところもあります。

個々のビジネススキルは、ハーバード大学のロバート・カッツ教授の論文「スキル・アプローチによる優秀な管理者への道」によると、以下の3種類に分類されるそうです。

  • テクニカルスキル
  • ヒューマンスキル
  • コンセプチュアルスキル

なお、これらは、言葉は一緒でも、役職によって、含まれるスキルの内容が異なりますので、詳しくは、それぞれの章で説明することにしましょう。

3. テクニカルスキルとはなにか

テクニカルスキルとは、業務追行能力ともよばれ、自分に与えられた仕事や業務、職務を適切にこなすための能力のことを指します。また、職務をこなすために必要となる知識や技術、技術熟練度といったものも、このテクニカルスキルに含まれるといわれています。場合によっては、ある特定分野の仕事をこなすために、特に必要となる専門知識や専門的な技術の総称をテクニカルスキルと表現することも多いようです。

テクニカルスキルに含まれる、具体的な能力としては、以下のようなものが挙げられます。

◆ビジネスコミュニケーション能力
問題点を論理的に洗い出す力、よりわかりやすい説明技術といった能力が含まれます。管理者層になると、部下の能力を引き出すコーチング力や、部署や部門間での調整力、といったものも、含まれるようになります。

◆自己管理能力
主に、時間管理や体調管理といった、自分を律するための能力が含まれます。目的意識をしっかりと持って、自己管理をすることは、高いモチベーションの維持につながります。管理者層になると、この自己管理能力が、部下を管理する能力へとつながるといわれています。

◆語学力
職務によっては不要とされることもありますが、ビジネスのグローバル化が進む昨今では、必要とされることが多い能力です。

◆PCスキル(パソコン)
職業によって差はありますが、パソコンを使って仕事をする機会は、確実に増えています。最低でも、自分の職務に必要なだけの操作はできるようになっておく必要があります。

なお、テクニカルスキルは、管理者の中でもロワーマネジメント(指揮監督者層)とよばれる、比較的現場に近い位置で働く、若いマネージャーに、特に必要とされる能力といわれています。

4. ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルとはなにか

よく混同されがちなのが、ヒューマンスキルと、コンセプチュアルスキルです。

ヒューマンスキルとは、対人関係能力を指します。人間関係を円滑にして、人との繋がりを最大限に活用するための能力と説明されることが多いようです。

ヒューマンスキルに含まれる、具体的な能力としては、以下のようなものが挙げられます。

◆ヒアリング
相手の話をただ聞くだけではなく、相手の望む対応を正しく理解するという能力です。相手が話す内容に、わからない点があった場合は、できるだけ相手を不快にさせないように、上手に聞き出すといったテクニックも求められます。

◆プレゼンテーション
自分の内容を、適格かつ理論的に伝える能力です。ツールを上手に使って、相手が理解しやすいように工夫する、話をコンパクトにまとめるといったテクニックも必要とされます。

◆リーダーシップ
特に管理者に求められる能力です。明確な目標と方向性を示す、部下の能力を考慮して作業の配分を決定する、部下を公正に評価するといった、高度な判断力と決断力が必要とされます。

一方のコンセプチュアルスキルですが、こちらは、より経営者に近い人に求められるスキルとされており、事業の現状把握や動向分析、戦略立案といった、より高度な判断力、分析力を指します。

コンセプチュアルスキルに含まれる、具体的な能力としては、以下のようなものが挙げられます。

◆論理的思考力
事実やデータをもとに客観的な目線から話を組み立てていくことができる能力です。この能力を身につけることで、曖昧で抽象的な表現を使うことなく、自分の考えを相手に明確に伝えることが期待できます。

◆問題解決力
自分が置かれた状況に対して問題提起を行いよりよい方向を目指して解決策を見出し実行に移していく能力です。漠然と現実を受け入れるのではなく、前向きな姿勢で向き合うことで、仕事へのさらなる意欲を増し、成果をあけることが期待できます。

◆応用力
自分が持てる知識や技術をビジネスの場でどう活かしていくかを発想する能力です。今までにないものを作り上げる、新しい市場を開拓していく、といったときには、必要される能力です。

役職ごとに割合は異なりますが、ビジネスの上で、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルをバランスよく持つことは、非常に大切なことといえます。なお、ミドルマネジメント(管理者層)やトップマネジメント(経営者層)と役職が上がるにつれて、ヒューマンスキルよりもコンセプチュアルスキルの必要性が増していく傾向があるようです。

5. スキルアップの方法とその活用方法

スキルアップとは、様々なスキルを身につけるために行動することを指します。

一般的に、スキルを獲得するためには、学習や経験が必要とされています。また、特定のスキルがないと務まらないという仕事も多くあります。スキルは、通常の業務の中で、自然に身につけていくことが理想的といえますが、そうでない場合は、次のような方法で獲得する人が多いようです。

◆資格試験
医療事務や登録販売士、MOS(マイクロソフトオフィススペシャリスト)など、必要とされるスキルが身についているかどうかを定量的に測るための、資格取得試験が数多く存在しています。

◆スクール
現状の仕事の中では、なかなか欲しいスキルが身につかないといった人のために、ビジネス専門学校や社会人大学校などでは、社会人向けのスキルアップのコースが用意されています。

◆セミナーや勉強会
定期的にスクールなどに通うのが難しい人のために、単発のセミナーや、同じスキルアップを目的とした人同士が集まっての勉強会なども、様々な場所で開催されています。また、これらを社員研修の一環として、行っている企業もあります。

スキルアップをすることで、その人は企業にとって、なくてはならない人材となり、そして役職が上に上がるにつれ、収入アップを期待することができるかもしれません。

しかし、スキルアップをしても、それを仕事に活かすことができないとなると、昇格も昇給も、絵に描いた餅でしかありません。スキルアップをしたら、それを周囲にアピールしていきましょう。例えば、就職や転職であれば、業務に役立つ資格などを有しているか否かということが、採用・不採用に与える影響は大きいといわれています。履歴書や職務経歴書、面接の場などで、積極的に伝えていくとよいかもしれません。

6. スキルアップとキャリアアップの違い

スキルアップと似ている言葉に、キャリアアップがあります。

キャリアとは、仕事における経歴や職歴のことを指します。スキルが「能力」という意味で用いられるのに対し、キャリアは「経験」という意味で用いられることが多いようです。このため、キャリアアップとは、スキルを有するだけではなく、それを実際に利用して経験を積んでいくということを表します。「スキルアップをしてそれを実践することがキャリアアップ」と理解すると、理解しやすいかもしれません。

一方で、スキルアップはキャリアアップのひとつの手段であるという考えもあります。これは、自身の全体の将来的なキャリアを考えた際に、スキルアップが必要であるという考える人が多いことが、背景にあるようです。実際に、様々な経験を積み、自身の市場価値を高めることで、役職があがったり、給与も労働条件も良い企業に転職できたりという人はたくさんいます。

ただし、スキルアップが必ずしもキャリアアップをもたらすわけではありません。というのも、自分がスキルアップをした内容とは別の職業を選択することもあれば、趣味など、仕事とは関係のない分野でのスキルアップを目指す人もいるからです。何のためにスキルアップをするのか?ということを頭に置きながら、状況に合わせて柔軟に考え、内容を見直していくのが良いのではないでしょうか。

7. スキルアップの必要性

スキルアップをするには、様々な方法がありますが、そもそもなぜ、自分から積極的にスキルを磨く必要があるのでしょうか。

自身の所属している職場において与えられた職務や業務をこなすために必要となるスキルを獲得することは、当たり前ですし、そして、長く仕事を続けていれば、職務を早く、効率的にこなす能力は、自然と身につくもので、自分から特別に動こうとしなくても、それなりのスキルが身につくような気がする方もいるでしょう。

しかし、職務に必要となるスキル以上のスキルを磨くことには、きちんとした意味があります。それは、スキルアップがキャリアアップにつながるという点です。

キャリアアップは、自分自身の市場価値を高めます。そして、より高い役職を目指す、もしくは、より高い給与や働きやすい労働環境が与えられる職場への転職を希望する際に、とても有利になることが期待できます。スキルアップが自分の描いたキャリアプランを実現するために必要といわれるのも、このためといえるでしょう。

なお、趣味などでスキルアップを目指す人についても、自身の成長を感じたり、人間的な幅が増えたり、幸福感を得られたりという効果があれば、スキルアップは仕事とは関係なくても、とても実りのあることといえそうです。

おわりに

目標を達成するために必要とされる、様々な技能や技術を「スキル」と呼び、これらのスキルを獲得していく過程が「スキルアップ」であるということが、おわかりいただけたでしょうか。

スキルアップは、よりよい待遇を求めて行われるキャリアアップに大きく影響します。自身の望むキャリアプランを実現するためにも、積極的にスキルアップにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

LIMO編集部