貯蓄=預貯金、有価証券、積立型の保険

総務省は2018年5月18日、2017年の「家計調査報告(貯蓄・負債編)」を発表しました。これによると、2人以上の世帯における2017年平均の1世帯当たり貯蓄現在高(平均値)は1,812万円で、前年に比べ8万円、0.4%の減少となりました。減少となったのは5年ぶりです。

家計調査は、「国民生活における家計収支の実態を明らかにする」ことを目的として、1946年7月以来、毎月実施されています。

「世の中の世帯の貯蓄の平均値は1,812万円」と聞くと、「みんなそんなに貯めているのか、私はそんなに持ってない」と嘆く人もいるかもしれません。そこで、改めてこの数値の意味を見てみましょう。

まず、大きな特徴は、調査の範囲は全国の2人以上の世帯であることです。全国の市町村から168市町村を選定し、2人以上の世帯8,076世帯を無作為に抽出して調査しているそうです。つまり、1人暮らしの世帯は含まれていません。

次に、この調査における「貯蓄」の定義です。預貯金(普通預金・定期預金など)のほか、有価証券(株式、債券、投資信託など)、さらに積立型の生命保険や個人年金なども含みます(公的年金や企業年金は含みません)。また、社内預金、勤め先の共済組合など、金融機関以外への預貯金も含めますが、たんす預金は含まれません。

平均値とボリュームゾーンは大きく異なる

このように、貯蓄と一口で言っても、株式や投資信託、積立型の生命保険や個人年金など、幅広い資産が含まれます(不動産や貴金属などは含みません)。

「それでもそんなに貯めてない」という人もいるでしょう。なぜ、データとしての実感がわかないのでしょうか。

背景には「平均値」のカラクリがあります。平均値とは改めて言うまでもなく、データの値の合計をデータの数で割ったものです。一見、ボリュームゾーンの数値が出るように思いますが、そうとは限りません。というのは、突出して大きかったり小さかったりするデータがあると、平均値もその影響を受けるからです。

たとえば、極端な例として、「貯蓄0円」の人が99人、「貯蓄10億円」の人が1人という集団があった場合、平均値はいくらになるでしょうか。「10億円÷100」で1,000万円になります。だからといって「ここにいる100人の1人あたりの平均貯蓄は1,000万円です」と言われても腑に落ちません。

さらに、データの偏りもあります。調査の母集団の分布について、真ん中が盛り上がって左右が山の裾野のように低くなっている図をイメージするかもしれません。

ところが、貯蓄の現在高に関する世帯分布は、下の図のように、貯蓄が低い世帯のほうにかなり偏っています。2人以上の世帯について貯蓄現在高階級別の世帯分布を見ると、平均値(1,812万円)を下回る世帯が67.0%と約3分の2を占めています。

出所:総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)-平成29年(2017年)平均結果速報-(二人以上の世帯)」

ちなみに、データ群の特徴を見る数値として、平均値以外に、中央値、最頻値などもあります。中央値とは、データを大きい順(あるいは小さい順)に並べたときに、真ん中に来る値です(ボリュームゾーンではありません)。今回の調査の中央値は1,074万円で、貯蓄「0」世帯を含めた中央値は1,016万円となっています。

一方、最頻値とは文字どおり、データの中でもっとも頻度が高いところです。先ほどの図のように、最頻値は「貯蓄100万円未満」の階級で、全体の10.0%を占めています。

年齢が高くなるほど貯蓄現在高が増加

平均値(1,812万円)を下回る世帯が約3分の2を占めていると紹介しました。では、平均値を引き上げている3分の1の世帯はどのような層なのでしょうか。ベンチャー企業の経営者のような一部の富裕層でしょうか。

答えはノーです。正解は高齢者です。2人以上の世帯について世帯主の年齢階級別に1世帯当たり貯蓄現在高を見ると、40歳未満の世帯が602万円となっているのに対し、60~69歳の世帯では2,382万円、70歳以上の世帯が2,385万円となっています。

調査では、1世帯あたりの負債額の状況も調べています。負債現在高を見ると、40歳未満の世帯が1,123万円と最も多くなっています。負債のほとんどは住宅・土地のローンです。

40歳未満の世帯では負債と貯蓄の差額は大幅なマイナスですが、70歳以上の世帯では負債はほとんどありません。世代間に格差があることがここでも示されています。

上山 光一