株式の持ち合いは本当に有害なのか。もう「悪玉論」は古い?

株式の持ち合いは、問題もあるが概ね合理的だ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は主張します。

世の中には「株式持ち合い悪玉論」が多いが

株式の持ち合いに対しては、批判的な意見が数多く聞かれます。たとえば日経電子版には『株式持ち合いはなぜ問題?』などといった記事も載っています。しかし、筆者は記事の趣旨には賛同しかねます。日経が指摘しているのは、以下の2点です。

(1)企業が資金を事業投資にも株主還元にも活用せず、他社の株式に振り向けているのは「無駄遣いではないか」という点です。

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(2)政策保有の株主が経営者を守る問題です。株主総会では会社側の提案が通りやすくなり、業績が悪くても取締役が再任されてしまいます。政策保有の株主は株価が上がらなくても事業上でメリットがあればいいのでしょうが、株主全体の利益を損ねます。

(1)については、「株式投資は資金の無駄遣いだ」と読めますね。A社がB社の株を持っていることが「無駄遣い」だと言うのであれば、「B社の株を持っている他の株主たちは無駄遣いをしているバカだ」ということになりますが・・・(笑)。そんなはずはないので、A社がB社の株を持つことは(配当や値上がりを意識して買ったわけではなくても、結果としては)、経済的に割りの合う行為なはずです。

A社が鉄鋼メーカーでB社が自動車メーカーで、A社はB社の株を持つことでB社がA社の鉄鋼を優先的に購入してくれると期待しているとします。B社として、A社の鉄鋼が割高なのに我慢してA社の鉄鋼を使うことは考えにくいですから、ライバルと同価格同品質だとしましょう。B社の株主は特に困りませんし、A社は売り上げと利益が増えます。

そうだとすれば、A社は利益が増え、B社は乗っ取りに遭うリスクが減り、ウィン-ウィンの関係ですね。B社もA社の株を持つ「持ち合い」でも同じことです。B社は、A社の社員がB社の車を購入してくれると期待できますし、A社は乗っ取りに遭うリスクが減りますから。

違う角度から見てみましょう。A社がB社の株を買い、B社がA社の株を買う「持ち合い」は、株式の需給という観点からは両社が自社株買いを実施した場合と同じになります。持ち合いの場合も自社株買いの場合も、世の中に流通する株式は減り、需給は引き締まるわけですから。そうした観点からは、株主の利益という面でも、「資金の無駄遣い」とは言えないはずです。

株式持ち合いはメリットのほうが多い

(2)は、B社の経営陣が甘える、ということですね。そういう可能性は否定できませんが、反対の見方もできます。B社の経営陣が不適切な経営を行なっていても、個人零細株主は気づかないでしょうし、機関投資家はB社には投資しないでしょうから、A社が指摘しない限り、不適切な経営が是正される可能性は高くありません。

A社としては、持ち合いの相手に対して厳しいことは言いにくい一方で、売却できない株がB社の経営陣の怠慢で値下がりを続けることも看過できないでしょうから、適切なアドバイスや要求をするインセンティブは十分にあるはずです。

「株式の持ち合いが行われていなければ、B社の経営者は乗っ取りに遭うリスクを恐れて緊張感のある経営をするはずだ」「だから結果としては乗っ取りには遭わないはずだ」ということであれば良いのですが、緊張感のある経営をしていても乗っ取られる可能性はあるわけです。

たとえば「乗っ取り屋がB社を乗っ取って会社を解散して資産を切り売りして利益を上げる」といったことは起こり得ますが、それは従業員等々にとって大変不幸な事態です。

個人零細株主は乗っ取り屋に高く株式を買い取ってもらってハッピーなのでしょうが、「株主さえ儲かれば従業員はどうなっても良い」という考え方は、筆者には馴染めません。

これは、そもそも「株式の持ち合いは本当に有害なことか」という本稿のタイトルが「誰にとって、何にとって有害なのか」という本質的な問題ですね。株主の視点で物を見るのか、株主、従業員、銀行、顧客等々を含めた日本経済全体の視点で物を見るのか。筆者は後者の視点で論じたいと思っています。

強いて言えば、投資家の中に「製鉄業の株は買いたいが、自動車の株は買いたくない」という人が多ければ、持ち合いは問題でしょう。製鉄業の株を買いたくてA社の株を買ったのに、抱き合わせ販売で自動車会社Bの株も(間接的に)買わされてしまったようなものですから。

もっとも、そうしたデメリットはあり得るわけですが、上記のようにA社とB社がウィン-ウィンの関係になり得ること、乗っ取りを防ぐことができること、などのメリットを考えれば、「持ち合いは悪いことだ」とは言えず、むしろメリットの方が大きいと筆者は思います。

なぜ株式持ち合いに否定的になったのか

持ち合いに対する否定的な論調は、バブル崩壊後の株価暴落で損をした企業が「これ以上損をしたくない」と考えたこと、「グローバルスタンダード」の流行に乗ったこと、などにより広がりましたが、株価も戻りつつあり、グローバルスタンダードという言葉も聞かれなくなりましたから、そろそろ持ち合い悪玉論も静まってくれることを期待しています。

余談ですが、敵対的買収に関してJRの人に聞いた話です。「JR各社は、JALとANAを買収して国内線を廃止し、国際線のみの会社にしたい」「自動車各社はJR各社を買収して運賃を大幅に値上げしたい」のだそうです。それを防ぐには、株式の持ち合いが合理的なのだそうです。飲み会での話なので、信ぴょう性はありませんが(笑)。

なお、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。

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塚崎 公義

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塚崎 公義

1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ。
現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と関係なく個人として行なっているため、現職は経済評論家と表記したものである。
(近著)
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(雑誌寄稿等)
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